決まらない覚悟、迷える決意は動揺をやめはしない
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深夜。俺はベットに寝転がって昼間の考えを引っ張っていた。
俺は、一体どうしたいんだ?
考えても出てこない答えをもどかしく思い、小さく舌打ちをする。
「何を悩んでいるのかわからないけど、空気が重くなるのは感心しないなぁ」
「じゃあ、出てくるなよ。タナトス」
「あははははは。それは無理な相談だ。僕がいたずら好きなのは知っているだろう?」
そう言って、タナトスは大きく笑い、俺の顔を覗き込んでくる。
全く。なんで俺の周りにはこういうやつしかいないんだ?
俺は顔をそらすことすらせずに、タナトスに聞く。
「なあ、俺はどうしたいと思う?」
「さあ? 僕は君じゃないからわからないよ。……でも、あの時力が出なかったのは完全無欠に君のせいだ」
「……やっぱそうだよなぁ」
スサノオと戦おうとしたとき、真実を貫く拳を使ったのだが、反応がなかった。
あとで考えれば簡単なことだった。
あの力は俺が思い描いた真実、つまり俺自身の決意を突き通すための力だ。
だが、あの時の俺は何もなかった。綺羅を助けたいとも、あの神様を倒したいとも思わなかった。だから、失敗したんだ。
理屈としてはわかってる。わかっているが納得はできない。
「力が出せなかったってことは、俺は迷っていたってことだよな?」
「そうなるね」
「俺は、綺羅を助けることに迷いを感じていたのか?」
「言っているだろう? 僕は君じゃない。僕にはそれは答えようにも答えられないよ」
そう言い切ってタナトスは宙を舞う。
その顔はいつものように何事も見透かしたような笑った顔で、俺の今の状況すら楽しんでいるように思えた。
ふと、タナトスが話し始める。
「いつもの君なら」
「あ?」
「いつもの君なら、迷うはずのない問だろうけど。挑戦するかい?」
「……何の話だよ」
「そうだねぇ。何も賭けないとなるとつまらない。……そうだ。勝ったら相手になんでも要求できるなんてどうだい?」
「だから何の話だよ」
「僕は、今の君では答えられない方に賭けるよ」
そう言って、三日月のような笑みを見せて、タナトスは質問してきた。
「もし、目の前に『絶対』助けられる人と『絶対』助けられない人がいる。ある人物はその両方を助けた。さて、どうやって?」
「……んなもん。何とかしてだろ?」
「本当に? 『絶対』助けられない人をどうやって助けたのか、わかるのかい?」
「……」
タナトスは笑みをやめない。
俺は唸るような沈黙をし、タナトスの問を考える。
『絶対』助けられない人を、どうやって助けるか。無理なことをどうやって成すのか。
しかし、依然として答えは出てこない。
「タイムアウトだ。ほらね。答えられないだろう?」
「そんな問題、今の俺でなくても答えられないだろうが」
「いや? 答えられるよ。少なくとも、数日前の君なら答えられたね」
「……?」
「おお、訳がわからないといった顔だね? いいねぇ、その顔だよ。僕はその顔が見たかったんだ」
「いいから、答えを教えろよ」
勿体ぶるタナトスに少しだけ怒り気味の声が飛ぶ。
すると、タナトスはしょうがないという顔で、話し始めた。
「前の君ならば、きっとこう答えた。『この世に絶対はない。それと、助けられる、られないじゃない。助けるんだよ』ってね。君という人間はこういう存在だ。理屈をすっとばして、自分勝手に行動して、尚且つ多大な犠牲を払って、本当に救ってしまう。ねえ? 面白いでしょう?」
タナトスは俺の沈黙を無視して、続ける。
「しかも、その犠牲が全て自身だけときたもんだ。おかしいおかしいと思っていたが、まさかここまでのクセ者だとは思わなかったよ。正直満足を通り越して、もっと見たいと思ってしまってね。だから、君をゾンビにした」
腹を抱えて笑うタナトスから、妙な言葉が出たことを、俺は見逃さなかった。
空かさず、そのことを追求する。
「俺をゾンビしたのは偶然じゃなかったのか?」
「ああ、偶然だよ? 必然と同時に起きた偶然さ」
「なんだと?」
「ひとつだけいいことを教えてあげよう。必然とは、必ず起こる事象だ。なら、偶然とは何か。偶然とは、必然という事象の過程でできた副産物でしかないんだよ。わかるかい? この世は必然で満ち、偶然という副産物で溢れているんだ」
「……」
「今日はいい日だからもう一ついいことを教えてあげよう。君たちがよく言う『天罰』。あれは真っ赤な嘘だ。天の神様は君たち人間を見る時間なんてない。自分の裕福な生活で手一杯さ。好きな時に女を抱き、好きな時に酒を飲み、好きな時に遊ぶ。君たち生き物に加護を与える暇なんてないんだよ」
それを、神様であるタナトスが言っていいのかという疑問があるが、そこは横の置いておいた。
「なら、君たちが子供を脅かす時に使う天罰とは何か。それは、万が一にも神に暇ができた時の暇つぶしの、八つ当たりだ。つまりね? 天罰とは、罪人を罰するものではなく、神の身勝手な殺人行為の象徴なんだよ。現に、本物の罪人は裁かれてはいないだろう?」
あらかた話し終えたと思うタナトスに、俺は静かに聞く。
「結局、お前は何が言いたいんだ? 俺に綺羅を助けろと? 俺にスサノオを倒せと? それこそ、お前の身勝手だ」
「くくく。わかってないなぁ。僕が君の限界を取り外したんだよ? もっと、挑戦意識は湧かないのかい? 神を敵に回して世界を駆け回るとかしてみたくないのかい? 君のその力なら、世界征服なんて一瞬だよ?」
「その笑い顔。マジでそういうこと考えてそうだな。でもしないからな? 俺はそういうの面倒くさがりなの知ってんだろ?」
「そこなんだよ。なんで君は最強の力を手にしてまで、うずくまる? なぜ、ほかの人に隠す? 君は他の人間の頂点に立つべき人間になったんだよ?」
「永遠に生きる生物が人間なわけがないだろうが。そもそも、こんな面倒な力のせいでこんなことに巻き込まれているかもしれないんだぞ――」
「それが答えだ」
「え?」
声を発したときには、既にタナトスは消えていた。
どうせ、アマテラスのいる神社に行ったのだろうが、それが答えとはどういうことだ?
困惑する俺に、タナトスの声が聞こえた。
「最後に一つだけ。長い時代を生きてきた先人の知恵を与えてあげよう。面倒事は、解決しなければ面倒なままだよ。じゃ、僕はアマテラスのところで遊んでくるよ」
それだけ言い残し、タナトスは完全に消えた。
って、結局あいつは何が言いたかったんだよ。先人の知恵とか、分かりきったこと言っていきやがって、本気で意味分かんねぇぞ?
考えることも面倒になった俺は、静かに目を閉じて深い闇の中に意識を落としていった。