神様というのは傲慢だ
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綺羅の言ったことに、俺は思考がついて行っていなかった。
神様。それは理解した。スサノオそれも理解した。
だが、それがなんで綺羅といる?
「か、神様って。お前、見えてんのか?」
「う、うん。こないだから見えるようになったの。で、でもね? 別に付き合っているわけじゃ――」
「何を言う美しい花嫁よ。あなたは私の嫁であろう?」
「……」
「……」
うわっ、なにこれ。俺ってマジで場違いじゃん。
俺はスサノオの言葉を聞いて、うなだれた。
じゃあ、なに? 俺は綺羅の恋の逃避行を勘違いして、お見舞いに来ていたと?
そう考えると、俺は自分がした行動が恥ずかしく思えた。
それならそうと言ってくれないかなぁ。電話越しにでもそっとさぁ。勘違いした俺が惨めじゃん?
「じゃ、俺帰るわ」
「ま、待ってよ!」
「何? まだ俺に見せたいイチャラブがあるの? そんなに俺に恨みが? 恨みたいのはこっちだっつの」
「恭ちゃんがモテないのはこの際どうでもいいの!」
「よくねぇよ! 何がいいんだよ! 人生に関わるわボケ!」
「とにかくどうでもいいんだってば!」
綺羅はそれでも何かを弁解しようとしてくる。
何、どうしたいの? 俺を惨めにして、楽しいですか? 楽しいでしょうね!
俺は半分自棄糞のようになりながらも、仕方なく綺羅の言葉を聞いていた。
「き、恭ちゃんこれにはわけが――」
「花嫁よ。そろそろ子を成す用意をするべきだと思うのだが?」
「スサノオはちょっと黙っててよ! あー! 恭ちゃん、待って! 待ってよ!!」
「いや、俺ってどう見ても邪魔者じゃね?」
「そうだとも」
「ほらー」
俺とスサノオのよくわからないコンビネーションで綺羅は圧倒されていた。
まあ、この現状で綺羅の言葉は俺には薄っぺらいものにしか聞こえてはいないのだが。
「聞いてよぉ……幼馴染でしょ?」
「幼馴染は強制的に話を聞かされるのかぁ。その割にはいつも俺の話は聞いてくれないよなぁ」
「そ、それは……うぅ」
「ふっ……あはははははは!」
「き、恭ちゃん?」
俺はとうとう我慢できずに笑ってしまった。
なぜか。最初から綺羅で遊んでいたからである。
綺羅の言葉が薄っぺらく聞こえているという『フリ』をして、綺羅の困る顔を見ていたからである。
いつも狂気を振りまきながら俺の後を追う綺羅は今日はいない。今の綺羅は目に涙を浮かべてどうしていいのかわからないという顔をした、可愛らしい女の子だ。
そんな新鮮な綺羅を見れて、俺は少し安堵した。
ホント。狂気を振りまくだけの子だったら、今度の付き合いを変えようと思っていたんだけど。いやぁ、そんな子じゃなくて良かったぁ。これで、ほんの少しは安心して生活できるな。
「で、スサノオ……だっけ? お前、俺の幼馴染に何してんの?」
「ほう。我のことを知っているのか」
「いや? 全然?」
「……そうか。まあ、いいだろう。この娘、もしや貴様のか?」
「……ちょっと何言ってるかわかんない。ごめんもう一回言ってくれる?」
「この娘は、貴様のものか、と聞いているのだ」
俺は背筋がぞっとする寒気を感じ、身をよじらせた。
なに? 綺羅の俺の? ふざけんなよぉ。綺羅は見た目は可愛いが中身がおかしいぞ? 包丁片手に人斬りするアサシンですよ? そんなの、お金くれても返品するわー。
「綺羅は、俺の幼馴染ってだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「そうか。ならば、われが貰ってもいいのだな?」
「ないわー。てか、人権無視しすぎてるでしょー。もらうとか、なんとかって言っちゃダメだと思いますけどー?」
俺がふざけた言い方をすると、スサノオは怒らず、焦らず、しばし考えていた。
そして、次に口を開くと、とんでもないことを言い出した。
「ならば、我と勝負しろ。勝った方がこの娘を貰う」
「ちょ、何言ってんのこの神様は!」
「いいではないか。これも一興だと思わぬか?」
「思わぬかじゃねぇよ! いつの時代の恋愛だよ! お前の頭の中は野生ですか!?」
「うむ!」
「認めちゃったよ、この神様……」
俺は神様というものを安易にイメージしていたみたいだ。
今だからこそ言おう。タナトスと同様に、神様というものは人間より人間してるよ。わがままで、自分勝手で、どうしようもない思考の奴らばっかりだ。
「って、なんで戦う準備してるんだよ!」
「いいではないか。どちらかが死ぬまで、さあ、やろう」
「どんだけ戦いたいんだよ! 馬鹿なのか!? 喧嘩馬鹿か!?」
「ふふふ……まさか人間と手合わせする時代が来るとはな。長生きはしてみるものだな」
「いっそ死んじまえよ! 頭の中お花畑のまま死んじまえよ!」
「何を言う……今から喧嘩をしようとしている相手に対して」
「もういや、この神様……」
どこまでも喧嘩をしようとする神様に、俺は両手を挙げて天を仰いだ。
綺羅のお見舞いのはずが、いつの間にかストリートファイトになってるのはなんで? 俺の行いが悪かったから? それとも、今日はたまたまそういうのが流行ってる日だったとか? どちらにしろ、喧嘩をしたがる神様とは関係なさそうだが、どうやら、スサノオは喧嘩する気マンマンのようだ。
「さあ、始めようではないか。我と貴様の死闘を!」
「脳筋野郎が。後悔しても知らねぇぞ」
俺はポケットから、念の為に持っておいた最強の人間のメダル。もとい、真実を貫く拳の力を解放するため、宙にメダルを弾く。
「俺、御門恭介が願い乞う。理念を貫き、世界を否定し、自身の力を夢の為に、仲間の為に使い、全てを圧倒し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、最強の人間神谷信五の力!」
メダルをキャッチし、先手を取ろうとした瞬間。俺は気がついた。
体に、力が回ってこない。少しも、力が入ってこないんだ。
なにか間違えたのか? いや、完璧だったはずだ。いつもなら、力が体に回って溢れんばかりの力を振り回すだけなんだが。今日はその反応を見せはしない。
「何やら、変わった様子がないが。来ないのならばこちらから行くぞ」
「え? ちょ、まっ……はあ」
その後、家を十件ほど壊すという事件が起きたのだが、俺は知らない。
なぜなら、俺は家が十件吹き飛ぶ前に殺され、意識がなかったのだから。