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閑話 僕らの真理亜さん その③

読んでくれると嬉しいです

 恭介に上手く撒かれたと気付くのに、だいぶ時間を食った神崎は、年甲斐もなく頬を膨らませて神社でふてくされていた。


「全く、先輩は馬鹿なんですか、死ぬんですか? お見舞いくらい行ってあげたっていいじゃないですか」


 この時、神崎は知らなかった。恭介が、恥ずかしさを隠すために神崎を撒いたことを。そして、恭介は今、もっと面倒なことに巻き込まれている最中だということを。

 しかし、知らない人物が愚痴を漏らすのは当然なのだ。そう、当然なのだが……。


「そもそもですよ? 先輩は人助けとかしているくせに人を助けたくないなんてどういう思考ですか? ホント、先輩は馬鹿で馬鹿で馬鹿なんですね」


 少しばかり、恭介に同情をしてしまいそうになるほどの愚痴は、仕方ないのだろうか?

 と、そんなところに恭介への助け舟のように、死の神タナトスが現れた。


「ん? どしたの? もしかして、ダーリンが来ないとか? ああ、ダーリンってのはもちろん恭介だよね?」


 が、どうもこの神様はふざけが過ぎるようで、その言葉は火に油を注ぐようなものだった。

 神崎は、沸点に達していた怒りが、臨界点を突破、沸騰のその先で怒りが爆発した。

 神崎は目にも止まらぬ速さで愛用の聖槍を取り出し、タナトスに向けて振るう。

 しかし、タナトスは面白可笑しそうにそれを避け、笑っていた。


「あはははは、ちょっとしたジョークだよ。それなのに槍を取り出すなんてひどいなぁ」

「うるさいですよ! 死んじゃえばいいんです! 先輩も、あなたも!!」

「神様にそれはないでしょ? 恭介を消しちゃうよ?」

「まっ……どうせ、嘘でしょう?」

「何言ってるのさ。僕は本気だよ。そもそも、恭介に興味を抱いたから永遠を与えているだけで、興味が無くなったら用済みだよ?」

「……」


 神崎の沈黙を見て、タナトスは大いに喜び、同時に吹き出した。


「あははははっは! ひぃー、ひぃー。くくくく、はあああはははははは!!」


 急な転換に神崎は追いつけていない。何が起きたと言うんだという顔を随時して、同時に恐怖の顔をみせていた。


「君は面白いね! 恭介もそうだけど、君も君だ。本当に僕の暇を潰すくらいに面白い。まあ、これだけは言っておこう。僕は彼を消せない」

「……はい?」

「僕は、彼の絶対服従によって行動を制限されているんだよ。まあ、当の本人はそんな意識はないみたいだけどね。よって、僕は彼を消せないし、消すつもりもない。お分かりかな?」


 タナトスの衝撃に近い事実に、神崎は驚きを隠せなかった。

 タナトスの話が本当ならば、恭介は神すらも操る力を持ったことになる。つまり、実質の神は恭介になるということだ。

 だが、それは同時に恭介が人間ではないという事実にほかならない。

 本人は前々から自分は人ではないと言っていたが、それは今、肯定されたことになったのだ。


「絶対服従とは、一体何ですか?」

「ふふっ、知りたいかい? 今日は特別に教えてあげよう。他言は無用――」

「結構です。タナトス」


 神崎と全く同じ声、姿をした人物がタナトス、神崎の前に現れた。

 唯一と言っていいいほどの神崎の違いは、濡れた着物を来て、髪まで濡れているという点のみ。

 ほかは、全く同じ姿形の人物。

 そんな人物が、タナトスたちの話を中断させた。


「あ、あなたは……」

「私はあなたですよ。唯一違うのは、生きてきた時間。私は、あなたの三年後の姿です」


 それを聞いて、神崎は膝をついた。

 驚きを感じたのでも、信じられずにいるともちがう。神崎は、残念に思ったのだ。

 そう、三年後。自分自身が全く変わっていないという事実に、神崎は残念さを隠せずにいた。


「わ、私は、変わらないんですね……」

「それはそうですよ。人は三年程度では変わりません」

「髪型とか! いろいろ変わるでしょう!?」

「……あなたは未来の自分に何を期待しているんですか?」

「いろいろですよ!」


 そんなくだらない会話をして、神崎はうなだれた。

 数秒して、この状況がおかしいということに気がつく。


「え? なんで、未来の私が?」

「今更ですか……タナトス」

「何かな?」

「絶対服従の件は私に伝えないでください。もしかすれば、それは鍵になるかもしれませんから」

「……何の話ですか?」

「あなただけに、私だけに伝えます。未来、三年後。あなたは最愛の人を失います」


 それを聞いて、神崎は瞬時に恭介のことを思い描いた。

 それを見計らったかのように、未来の自分は頷いた。


「そう、今あなたが思い描いた人が、いなくなるんですよ」

「で、でも、先輩は不死で――」

「不死といっても曖昧なんですよ。そうですよね、タナトス?」

「ああ、そうだね。時間そのものを止められれば、不死は関係なくなるからね。例えば、死んだ瞬間に時間を止められたらアウトだ」

「……」

「そういうことですよ。先輩は、未来でそういう人と戦う。そして、殺されるんですよ。絶対服従によって生きながらえているモノたちもその影響を受けているんです」

「じ、じゃあ、クロエさんは……」

「ええ、今、生と死の境界線を行き来しています」


 神崎は、俄かには信じられずにいた。

 神崎の中で、先輩、恭介は絶対の強者であり、優しすぎるヒーローなのだ。いつだって、人を助け、自身が傷つこうとも気にせず突き進む特攻バカ。優しすぎるが故に仲間を傷つけられることを嫌う、生粋のヒーロー。そんなイメージが、神崎に恭介の死を信じさせずにいた。

 未来の神崎は、そのことを知っているが故に、問う。


「神崎真理亜。あなたにとっても先輩は何ですか?」

「私にとっての、先輩……」

「あなたを助け、生きることを許してくれた先輩は、もうすぐあなたの前からいなくなりますよ? それも、いいのですか?」

「……ダメに決まってるじゃないですか。そんなの、ダメに決まってるじゃないですか」

「なら、私の言うとおりにしてください。先輩は、殺させない」


 未来の神崎はそう言って、神崎の横を通り過ぎる。

 神崎も、そのあとに歩いていく。


「もう、あんな思いは、私にはさせはしない」


 小さく呟いた未来の神崎の言葉が、一部を除く全てが知らない物語の幕開けを指示した。

 当然、恭介はこの事は知りもしない。なぜなら、恭介は恭介で、事件の中心にいて、面倒を被られているからである。

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