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閑話、それでも俺はゾンビですよ その①

読んでくれると嬉しいです

 俺は夜飯の生姜焼きを食べ終え、自室に来ていた。

 神崎は、もう遅いということで今日は泊まっていくみたいだが、今はクロエとお風呂に入っている。

 俺は席に着いて、机の上にある五枚のメダルに目を向けた。


「主人公の力、か。まだ、掌握しきれてないんだよな。掌握したのは、たった二枚か」


 俺は二枚のメダルを手に取る。

 一枚は最強の人間の力。二枚目は平和を願う力。

 どちらも全く違う考えを持った主人公の力だった。

 一人は戦いを求めて戦って、もう一人は戦わないために戦って、それらの延長線上に手に入れた力だった。

 これは、こないだ実感したことなのだが、どうやらこの力に時間制限がつかなくなっているのだ、この二枚は。

 それは、力の発動の二段階目、最強の人間ならば全身が砕けそうになる痛みを感じながら本人と同じ力を手に入れられるというもので、どの道制限は付くのだが、時間よりはマシだろう。

 で、平和を願うものなのだが、制限が見つからない。どこをどう見ても制限が無いのだ。

 クロエを助けようと必死だったから気づかなかったというのもあるかもしれないが、体への変化は見られなかった。つまり、ほぼ無制限で使える力の一つなのだ。


「まあ、使える時しか使えないけどな」


 そう、このメダルは使える時と使えない時がある。

 最強の人間の力は、自身の目的の邪魔をされた時。平和を願う力は、俺が思い描いた平和を逸脱した時にのみ使える。

 つまり、発動条件が厳しいのは平和を願う力というわけか。

 俺がメダルの力を考えていると、うるさい奴が来た。


「やあやあ、相棒くん」

「……すまん、邪魔しないでくれるか?」

「嫌だなぁ。邪魔するに決まってるじゃないか!」

「……だから嫌なんだよ、こいつは」

「あははは、褒めないでくれよぉ」

「はあ……」


 俺は相棒のタナトスの言葉で諦めて、メダルの方に集中する。

 というか、このメダル、本当に使い勝手が悪いんだよ。なんで、好きな時に使わせてくれないんだ?

 俺が眉をひそめて考えていると、タナトスが顔を覗かせて見てきて、


「真実を貫く拳と勝利を約束された剣がどうかしたかい?」

「いや、この力がどうして自由に使え――はい? 今、なんて言った?」

「だから、真実を貫く拳と勝利を約束された剣がどうかしたのかい? って聞いているんだよ」

「な、なんだよ、それ」

「そのメダルの持ち主の力の名前だけど?」

「は? 最強の人間と平和を願う力だろ?」

「何を言っているんだい? ああ、そうか。君は知らなかったね。人間ってのはね――」


 そこからのタナトスの言葉に、俺は驚愕を隠せなかった。


「人間ってのはね。神に管理されている生命体の一つなんだ。でも、たまに管理を怠る神がいる。すると、管理をされない人間は逃げるために力を持って生まれてくるんだ。神を虐殺するための力を持ってね?」

「……」

「わかるかい? まあ、わからないだろうね。それを理解できるのは生まれてきたばかりの子供か、霊感が強い子供だけだから。ほら、大人になると子供の時のことを忘れていくように、君自身、赤ちゃんの時のことなんて覚えてないだろう? それと同じさ。人は管理され、神は都合の悪いことは忘れさせる。そういう仕組みだ」

「……なんだよ、それ。そんなの、理不尽じゃんか」


 俺の言葉に、タナトスは不敵な笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。


「そう、まさにそれだよ。そこにあるメダルの力の持ち主は、そんな理不尽を掻い潜り、神殺しを成すたもの達だ。一人は、神を己の拳で蹂躙して、一人は英雄神の力を借りて仲間のために死力を注いで戦った。そこにあるメダルは、世界を変えるための力だ」


 世界を変えるための力、か。

 そんなものを、なんでタナトスは俺に渡したんだ? 神殺しを成功させたモノたちの力なら、自分だって殺されるかもしれないのに。

 タナトスは、そんな思考はお見通しのように俺への答えを言い出す。


「僕はね、見てみたいんだよ。人が、管理を通り越した先へ行くところを。人が、神を管理する世界を」

「……どうしてだ? お前に、メリットなんてないだろ?」

「理由なんているかい? まあ、敢えて言うなら面白そうだから、かな?」

「……はあ。お前のことだからもっと別の理由があるんだろうけど、今はそうだと信じておくよ」

「そうしたまえ。僕は、いつだって天邪鬼だからね」


 そう言って、タナトスは肩を竦めて笑いながら宙を飛び回っていた。

 全く、中身が見えない神様だな。いや、神様だから、中身を見せないってことか? まあ、いいや。

 俺は椅子の背もたれに背を預けて、天井を見る。

 そういえば、まだ二ヶ月なんだな。俺が死んで、ゾンビになって……ホント、二ヶ月でどんだけ死闘繰り返してんだよ、俺は。

 思い返す過去を、俺は鼻で笑った。

 ったくよ。バカみたいだな。死んだのに、それでヒーロー気取ってよ。もう、二回も他人を救っちまったよ。全く知りもしない、赤の他人をよ。二回だぜ、二回。そろそろ、長官賞とか貰えんじゃね?

 自分が警察庁長官から賞状を受け取っているところを思い描いて、今度こそ腹を抱えて笑った。

 ありえねえー。俺が、お偉いさんから賞状とかありえないわー。天地がひっくり返ってもないね、そんなことは。

 そう言い切って、俺は椅子を回転させる。

 世界は回る。でも、そこには夢も希望もへったくれもありゃしない。世界には、何もない。

 俺が案外簡単に死んだように、毎日のように誰かが死んでいく。でも、それを心から悲しむのはほんの一部しかいない。

 明日はきっと輝く? 明日は君たちの宝? ふざけるな。明日が来ない人だっているんだよ。明日に希望が持てない人だって、いるんだよ。

 結論、世界には夢も、希望も、何もない。逆に言えば、絶望も諦めも存在しない。

 世界は、常に人や生き物によって作られているんだ。何もない世界だからこそ、誰かが夢を描いて、誰かが希望を募って、誰かが絶望して、諦めて、世界は回っている。


「ホント、これだから世界は面白い」


 タナトスが言いそうなことを、俺は口にした。

 タナトスはそれを聞いて、ニヤッと笑った。


「そうだね。それだから、世界は楽しいんだ」


 どこか似ているふたりが、着々と信頼度を上げていた。

 夜は深まっていく。誰にも干渉せず、誰にも気づかれず、夜は刻々と時間を刻み、進んでいった。

これは、タナトスエンドも考えるべき?

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