what your name?
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剣を構え、俺は息をスッと吸い込み、深く吐き出した。
俺に、剣の技術は皆無だ。この力を持っていた奴は剣の技術が凄すぎたということを流れ込んできた記憶の中に含まれていたが、もちろんそんな技術は俺に付与してはいない。
つまり、この剣だけでどうにかできるということだ。
「つっても、どうすりゃいいんだ?」
俺は顔を顰めて、静かに剣を見つめる。
答えが出てきたら飛び跳ねるくらい嬉しいのだが、そんなご都合主義みたいなことは起こらない。
どうにするって言ったんだ。どうにかするしかないよな。
俺は覚悟を決めて、剣の楽園の中を駆ける。
「遅いよ!」
クロエが叫ぶと、高速で飛んできた炎によって、俺に腕は吹き飛んだ。
しかし、剣を持っている手ではなかったのが幸いして、剣は落としてはいない。
「グッ」
痛みを我慢しつつ、俺は次弾を受けないように横に飛んだ。
ホント、どうすればいいんでしょうね。近づけなければ剣で切ることもできないぞ?
……いや、剣で切って怪我をさせたら元も子もない。じゃあ、この力必要なくね!?
この力の使い方に困惑している間にも、クロエは俺の息の根を止めるために躍起になって炎を飛ばしてくる。
「炎じゃ、ダメ! 雷!!」
「……マジ?」
今度はクロエの手のひらから、雷が光の速さで飛んでくる。
こんなの、よけられるの?
無論、よけられるわけがなく俺は心臓を物理的に射抜かれた。
あー、うん。AEDを意識があるときにやると、きっとこうなるんだろうな。
そんな感想を胸に、痺れている体を無理やり動かした。
「先輩! 私も手助けに――」
「来るな!!」
「え?」
「神崎は来るな。お前はマジで死んじまう。でも、俺なら死なねぇからよ、やっとここに立っていられるんだ」
「わ、私は、足でまといなんかじゃないですよ!」
「そうは言ってねぇだろうが! 無駄死にするなって言ってんだよ! それくらい察しろ!!」
攻撃の嵐を犠牲を伴いながらも避け続けながらも、神崎のそう伝える。
こんな中に、神崎を入れるわけには行かない。一瞬であの世に行っちまうよ。
だが、確かにこのまま攻撃されていてもジリ貧だ。いつかはこっちがやられちまう。クソッ、一体どうすれば……。
考えろ。弱者は考えるんだ。思考を止めるな。
今、俺には何ができる? 最善の行動は一体何だ?
俺に、何ができるんだ?
「これで、どう!?」
「なっ……ちっ!」
俺の目の先に、雷が届き当たりそうになる一瞬、体が動いた。
まるで、見切っていたかのように俺の腕は剣を握り、的確に雷の中心を切り裂いた。
結果、俺に雷は当たっていなかった。
なんだ? 何が起きた? 今の一瞬、俺は何をしたんだ?
「動きが早くなった!? なら、これで!!」
今度は目にも止まらぬ何かを飛ばしてきたらしい。しかし、それも俺の攻撃によって切り裂かれた。
なんだ? 体が勝手に動いてる? いや、剣の扱い方を覚えてる?
そんな馬鹿な。俺は生まれてこの方、剣なんて持ったことないんだぞ?
……いや、いやいやいや? 今の体は、俺の記憶と磯崎京介という主人公の記憶から成っている。なら、体の記憶も継承しているということか?
なんだか、跡付け臭いが、それならこの行動の理由がはっきりする。
なるほど……なるほどなるほど!!
「つまり、これはチートだな」
俺は、自分の中で自己完結させ、剣を握った。
吹き飛ばされていたもう片方の腕もいつの間にか回復していて、そちらにも剣を持つ。
そして、体が向かえと行っている方に俺は走る。
すると、
「当たらない!? ウソ、さっきよりも早くなって――」
「言ったろ? お前は本物の紛い物だって」
クロエの目の前まで、俺はニッと笑って剣を振り下ろす。これで、決着か……?
確信に近いものを感じながらも振り下ろした剣に感覚がなくなる。
どうやら、振り下ろしている腕を吹き飛ばされ、背後を取られたらしい。
「残念! アタシの勝ち!」
クロエが止めの一撃を放とうとした時、俺は素早く剣を地面に突き刺し、力を込める。
すると、数百本の剣が一斉にクロエの可愛らしい容姿に次々と突き刺さる。
「――え?」
クロエは何が起きているのかわからないようだ。それもその筈だ。勝ちを確信した直後、数百本の剣に体を貫かれたのだから。
もう、クロエは身動きさえできない。
「あ、アタシを殺すの?」
「……バーカ。その剣、刺されていてぇのか?」
「そういえば、全然痛くない。……どうして?」
「だから、言ったろ。これらは全部紛い物。それでいて全部本物よりも価値が有る。つまりだ。この剣の楽園では誰も死ねない。俺が、そう決めた」
「……意味、わかんないだけど?」
「あー、なんて言えば伝わるかなー? ……まあ、そういう能力なんだよ、これは。この世界では、俺ルールで、この世界の有り様が俺の思い浮かべる平穏なんだ。誰も傷つかない。誰も死なない。それが俺が思い浮かべた平穏であり、愛すべき日常だ」
ニッと笑って、俺は空中に貼り付け状態のクロエの頭を撫でた。
すると、ムッとした顔になって、クロエは俺をじと目で見てくる。
な、なんでしょうか? え? 俺に触れられるのがそんなに嫌だったわけ?
「早く下ろしてよ」
「いや、ダメだろ。お前離したら、どうせまた暴れんだろ?」
「だって……しょうがないじゃん?」
「しょうがないで、地球壊すのやめてくれない? お前の場合冗談じゃ済まされないから」
「じゃあ、アンタがアタシに永遠をくれるの? アタシを助けてくれるの? バカみたい。何もできないのに、ヒーローぶらないでよ」
「言葉が刺々しいな、おい。それがお前を止めてやったやつに対する態度ですか? せっかく、お前を救う方法があるかもしれないのに、そんなんじゃする気にもならないよな」
「ほら、アタシを救えるわけなんて……え?」
きょとんとした顔で、クロエの表情が面白いように固まった。
そんなクロエがおかしくて、俺は笑いを我慢するのに一生懸命だった。
「い、今、なんて言った!?」
「クク……え? だ、だから助けられるかもって」
「ど、どうやって!」
「ククク、あはははは、はあ、はあ、はあー。それじゃあ、まずクロエ」
「は、はい!」
「お前の本名は?」
「え? クロエだけど?」
「違う違う。フルネームだよ」
「クロエ=イグーム=カナメだけど?」
「そうか。じゃあ――――クロエ=イグーム=カナメ」
俺がクロエの名前を呼んだ瞬間、どこからか鎖が飛び出しクロエを縛っていく。
クロエは最初から抵抗出来なかったということもあり、簡単にその鎖に縛られていった。
「な、何をする気?」
「別にいやらしいことなんでしねぇよ」
「ホント? 目がすごい血走ってるけど?」
「それはお前が腕を何回も吹き飛ばすから返り血が目に入ったんだよ!! だから、そんなジト目で見ないで!? かなり精神的に来るから!」
「……はあ、わかった。もう、なんでもしなさいよ」
「だから、何もしねえって……。クロエ――俺の仲間になれ」