事件は終わりを迎えない
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目を覚ますと、そこは真っ白な世界だった。
……どうやら、俺の頭はおかしくなってしまったらしい。まあ、端からおかしかったかもしれないが。
とにかく、何があったのか思い出さねばならないだろう。
俺は頭に手をやり、思い出そうとするが何も思い出せない。
何か、なにか大事なことをしようとしていたはずなのに……。
「どうしちまったんだ、俺は。何か、していたんじゃないのか?」
どう思い返しても、何を考えても、俺の記憶は思い出されない。
どうして。そんなことは簡単だ。
俺は、もしかしたら死んだのかもしれない。
いや、人が死ぬのは当たり前なのだが、残された記憶を見る限り、俺はゾンビ、つまり不死属性を持った怪物だということが思い出された。
不死を殺すことはできない。よって、俺は死んでいないということがこれでわかる。
なら、どうしてこうなったのか。考えれば簡単だった。
消されたのだ。存在を。俺という怪物を消し炭以上に消し去ったのだ。
しかし、誰が? 誰が、俺を消したんだ?
わからない。ただ、急速な眠気が俺を襲って来るのだけはわかった。
だんだん、瞼が閉じていく。眠ってしまう。寝ちゃいけないということは分かっているのに。
――参ったな。これじゃあ、蘇ることはできないかもしれないね。
聞き覚えのある声。しかし、それは記憶の中ではない。体が、なぜかその声に聞き覚えを感じたのだ。
誰だ? この声は、誰なんだ?
俺は、わからないということに恐怖した。
目の前が見えない。誰が俺を消したのかわからない。それが、何にも増して怖かった。
――おーい。聞こえるかい? 御門恭介くん? 僕だ。タナトスだよ。
タナトス。どこかで、その名前を聞いた気がする。
だが、思い出はそれを否定する。
――率直に言うよ。君は消えた。君という存在は跡形もなく消し飛んだ。それくらいは理解しているかな?
陽気な声で、そいつは俺に話す。
俺は目を開けずに頷いた。
――なら良し。話は簡単だ。君の目の前には二つの道がある。このまま黙って消えるか、このまま死んで行くか。さあ、どれがいい?
消える? 死ぬ?
俺の消えかかっている思考では、そのどちらを取ればいいのかわからなかった。
理解することを、諦めているのかもしれない。
もう、助からない。俺は、このまま消えていくのだろう。どう足掻いても、この状況は変えられない。
とでも思ったか?
俺は眠気に襲われている体を無理やり動かしながら、重い瞼を開けた。
「黙れよ。お前が、何を言っているのかは俺にはわからねぇ。そもそも、記憶が飛んでる俺には、お前が敵か味方か、判断することさえできない」
――仕方ないだろう。今の君の記憶はほんの一部しかない。他は消え去ったのだから。
「でもな。俺はきっと何かをしようとしていた。そして、それは叶えられてねぇ。つまりだ。俺はここにはいられない」
――ならどうする? ここは狭間だよ? 君なんかにどうこうできるレベルの問題じゃ……
「黙れって言ってんだよ。俺は帰る、なんとしても。俺は叶える、なんとしてもだ。だから、力を貸しやがれ、クソ野郎」
一拍置いて、声の主は驚いたように言葉を発する。
――理解できないこの状況で、僕を敵だとは思わないのかい?
「たとえ敵だろうと、使えるものは全部使う。悪いが、お前は俺の手駒だ。ちゃんと働け」
――ククク、あははっはははは! やっぱりそうだ! 君は最高だよ! 最高の主人公だ!!
笑い声が頭に響いて、少し頭痛を感じたが、その言葉に俺は笑う。
主人公? 違うな。
「怪物だよ。俺はな」
――君のためにステージは用意してあるよ! 存分に楽しんできたまえ、怪物!!
そう言って、気が付くと目の前が戦場と化していた。
そこには幼女、ドラゴン、そして……エロい体つきの女の子?
どうやら、大変なことになっているらしい。
だが、俺は戦う術を忘れて、その場に立っていた。
何を、どうすればいいんだ? 俺は、記憶をなくしているんだぞ?
一歩下がると、ちゃりんっと何かを落とした。それは、一枚のメダルだった。
黄金の光を放ちながら、そのメダルは落ちていた。
なんだ、これ。俺が、落としたのか?
拾ったのはいいが、どうすればいいのかわからない。
いや、知っている。俺はこのメダルを、それを使い方を。
俺は体が動く通りに動作し、メダルを弾く。
「俺、御門恭介が願い奪う。逆境を切り抜け、希望を叶える力を。誰もが笑い合える黄金のような楽園を。今、俺の元に来い、勝利を約束された剣!!」
瞬間、世界は黄金に包まれた。
そして、俺がなくしていた記憶も、復活する。
『俺には、このくらいしかできないけど。頑張ってくれよ。ここはお前の日常なんだからさ』
目の前には半透明ながらも、この力の持ち主、磯崎京介が立っていた。
磯崎京介は微笑みながら、俺を見ている。その姿、まさにヒーロー。力を、平穏のために使う、真っ当なヒーローにほかならない。
そうか。この力は、平穏を送る剣。勝利を約束された剣。それらを具現化するための力なのか。
俺は磯崎京介の横を通り過ぎ、静かに剣を構えた。
「せん、ぱい……?」
神崎が、涙を流しながら俺のことを呼んだ。
それに気がついて、俺は苦笑いした。
「なんだよ。ちょっと俺に会えなかっただけで、泣いちゃったのか? 一途だねぇ」
「なっ……泣いてなんかいませんよ! 先輩なんて死んじゃえばいいんです!!」
「そうそう。お前はそうでなくちゃ。んでもって、そこの幼女。そろそろ、普通になれよ」
「……驚いた。プラズマをまともに受けて、甦れるなんて……消し忘れがあったの?」
「いや? 俺は完全に消されたぜ? 一時は記憶もまともになかったし。蘇ったのはまあ、ゾンビだから、かな?」
俺が首を竦めて言うと、クロエは怒ったようで、怒りのマークを出して俺を睨む。
おー怖い怖い。そんなに睨むなって。
俺は一歩クロエに近づいて、近くにあった剣を引き抜いた。
「ここにあるのは全部偽物で、全部本物だ。紛い物であって、本物よりも価値が有る剣たちばかりだ。お前は、この剣を折ることは絶対できない」
「……どうして?」
「お前が、本物の紛い物だからだ」
剣を構え、俺は静かにクロエを見つめる。
決戦の火蓋が今、切られた。
シリアス続き……だと?