本日は魔法注意報
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神崎に言われるがまま、俺は自分の家が建っていた場所に向かった。
そこには見るも無残な真っ黒な家があるが、それは見なかったことにしよう。
「やっぱり、神崎の勘も外れか。チクショウ、どこにいるんだよあいつは」
舌打ちをして、俺は次の場所に向かう準備をしていると、家の敷地の方から何か音がした。
振り返ってみると、そこにはクロエが立っていたのだ。
おいおい。神崎の勘が当たってよ。あいつ、ホントただの人間じゃないな。
「どうしてわかったの?」
「あ? なんでそれを教えないといけないんだ?」
「ここが思い出の場所だってことを、アンタが知るはずもないし……誰に聞いたの?」
思い出の場所?
「てか、俺が誰かに聞いてここに来たみたいに言うなよ。まあ、そうなんだけどさ」
「どうせ、あのおっぱいお化けでしょ?」
「当たりだ」
「何が当たりですか!! それと、先輩ここでなにしているんですか!!」
俺とクロエがそんな話をしていると、なぜか制服に着替えた神崎が槍を持って駆けつけてきたのだろうが、ちょっとばかし聞き捨てならない言葉を聞いた。
俺が、ここで何をしているかだって?
「お前がここに来いって言ったんじゃないか」
「はい? 私は、さっき電話で私によく似た声の人からここに至急向かうように言われただけですけど? まさか、先輩、その子を襲おうとしてたんじゃないですよね?」
「馬鹿か! 俺にそんな趣味はない!」
「どうだか。先輩は盛ってる上に見境がないという変態ですからね」
「はあ……もういいよ、変態で」
「そうですか、変態」
「一人称まで変えていいとは言ってないけどな!」
なぜかお怒り中の神崎と、それをぽかんと口を開けたまま見るクロエ。
すると、クロエはいきなり笑いだした。
「はははは!」
「クロエ?」
「クロエさん?」
「はは、やっぱり面白いね二人は。いつもいつも、どんな時でも変な会話をしていられる。アタシも、そんな二人のような関係を持ちたかったよ」
悲しいことを言って、クロエは右手を上げた。
すると、右手にフレイと同じく炎を召喚した。
こいつも神着きだったな。これはカオスの力か?
クロエの行動を見て、戦闘態勢に入る俺。神崎は未だに決断できないようでオロオロとしていた。
「クロエ。お前、どうするつもりだ?」
「どうも何もないよ。アタシは生きる。生きて、たくさんのものを見る」
「……一人でか?」
「そうだよ。一人で……アタシは一人で生きていく」
言い切って、クロエは炎を投げてきた。
俺はその炎を避けることも、防ぐこともせず、ただ食らった。
せっかく回復した腕も無残に吹き飛び、大量の血が地面を濡らしていく。
だが、俺は痛がる素振りも、逃げる素振りも見せなかった。見せる必要性を感じなかった。
「なんで、よけなかったの? よけれたはずでしょ?」
「おいおい。攻撃側が、驚いてんじゃねぇよ。攻撃が当たったんだぜ? もっと喜べよ」
「で、でも!」
「お前は、自分の夢の邪魔をする者を労わるのか? 守るのか? 逃がすのか? そうじゃないだろ? お前が取った選択はそんな生半可なもんじゃないはずだ」
「……だ、だって、あ、アタシは――」
「甘ったれてんじゃねぇよ! 一人で生きていくってことはな! 自分以外の全てを切り捨てていくってことだ! 邪魔をする者を容赦なく倒すってことなんだよ! その覚悟が、テメェには足りねぇ!!」
覚悟が足りない。当たり前だ。みんなは忘れているかもしれないが、クロエはまだ十歳くらいの女の子なんだから。覚悟なんて、考えたことすらないだろう。
でもだ。あいつが取った選択は、そういうことなんだ。
「お前はまだ甘えてやがる。それじゃあ、お前が苦しむだけだ。いや、みんなが苦しむだけだ」
「……」
「お前はまだ、自分を救ってくれる人がいると思ってるんだろ? だから、人を傷つけたくないと考えているんだろ? なら、どうしてその人を探さない? どうしてお前は、諦めてるんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい! 探したよ! でも見つからなかった! 見つけても、直ぐにアタシの前からいなくなっちゃうんだもん!」
「それでも探し続けろ。それしか、お前の夢は叶わない」
静かに、俺は現実というものをぶつけた。
叶わない夢だってある。クロエの夢は、願いはその部類に入る。
でも、いやだからこそ、続けなくちゃいけない。無駄だと思っていても、諦めきれないのならやるべきだ。
その延長線上で、俺というおかしな存在と出会えたのかもしれないのだから。
「アタシは、疲れたよ。もう、人を殺すのは嫌だよ。いっそ、この世界が壊れちゃえばいいのに――」
その言葉が、呪いの始まりだった。
夕焼けの空は暗闇に飲まれ、あたりが真っ暗になっていく。その中で、世界はゆっくりと破壊されていった。
「な、なんだ。これ……」
「人の子よ。タイムアップだ。これより、世界は終焉を迎えることになる。貴様の努力も、所詮無駄な足掻きに過ぎなかったのだ」
クロエから出てきたカオスが静かにそう伝えてきた。
世界の終焉? なんだよその厨二臭いもんは。
まあしかし、このままだと本当にそうなりそうだ。
俺は世界の終焉とやらを止めるために、クロエの説得をしようと試みたが、
「なにっ」
目に光を失ったクロエから、雷を落とされ全身を隈無く焦がされた。
「人の子よ。クロエは覚悟を決めたぞ。世界を壊すために、邪魔をする貴様を排除する気だ。あと数刻の命を生きるか、ここで死ぬか。選べ、貴様はその選択肢しかない」
「ふざけるなよ。選択肢ならもう一つあるだろうが。全てを丸く収める方法が、絶対にあるはずだ」
「そんなヒーローみたいな話は、現実にはないんだよ。恭介」
クロエは空に浮かび上がり、冷たい目で俺を見つめてくる。
どうして……クロエは俺の名前を知っているんだ? 教えた記憶は、全くないんだが……。
そんな疑問が浮かんだが、そんなものは地平線のかなたまで吹き飛び、目の前のじゃじゃ馬をどうしようかという問題解決に頭の回転は振り分けられた。
しかしながら、俺はクロエは甘く見ていたようで、
「じゃあね、恭介」
「あ、れ?」
右手を薙っただけのように見えたのだが、どうやら魔法とやらも発動していたらしく瞬間、いやもっと速いスピードで回復したての右腕も一緒に俺の両腕は切り取られた。
マズイな、これは……勝てそうにない。
まだ生きている俺を見て、クロエは両腕を空に掲げ、特大の元●玉、もとり電気の塊を作り出した。
「今度こそ、バイバイ」
「おいおいマジかよ……」
御門恭介、絶賛ピンチである。