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誤解を解くことはできない。それがひとつの答えだから――

読んでくれると嬉しいです

 炎を操る青年、フレア・フレイとの対峙を放棄し、俺はクロエの居場所を探すために街中を走り回っていた。

 チクショウ! あいつ、何処に行きやがった! これじゃあ、まるで俺が借金取りみたいじゃないか!!

 傍から見れば、幼女を探し回る高校生というなんともシュールな、犯罪の匂いがプンプンするのだが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 何か、あいつが行きそうな場所はないのか?

 ……あ、俺、あいつとの接点全くないじゃん。

 俺は立ち止まり、空を見上げて唸った。


「どうすんだよ。あいつの考えていることだって、何もわかりやしねえ。何もわからないから、場所だって――」

「先輩!」


 困り果てていると、後ろから神崎の声が聞こえ、振り返るとなぜか息を上げている神崎がいた。


「お、おい。神崎」

「な、なんですか?」

「その格好、どうにかならないのか?」

「え?」


 神崎の今の格好はどうにも目のやり場に困るものだった。

 風呂上りだったのだろう。髪は水が滴り、服装は風呂上がりに身に纏う袴みたいな薄着のもの。その服装に体の雫が染み込んで、肌に服が張り付いて体のラインが丸見えだ。

 つまり、エロい。

 俺が視線をずらしていると、神崎は自身の過ちに気がついたのか、顔を真っ赤にして、


「先輩のバカ!!」

「なんで!?」


 槍を俺に投擲してきた。

 俺はその槍を既で避け、叫んだ。


「馬鹿かお前は!! 死ぬわ!」

「死んじゃえばいいんです! いっそ、殺してあげますよ!」

「冗談でもやめてくれ!!」


 そんなどうでもいい会話に体力を使い果たし、俺と神崎は互いに互いを見ないように背中合わせで近くのベンチに座った。


「先輩。何してるんですか」

「疑問形じゃないって事は全て知ってるのか? 誰に聞いた?」

「雷龍……雷電さんです」

「あんのバカ。今度、会ったらこいつにだけは言うなって言っとかなくちゃな」

「あの……すみません」

「謝るなら暴走する前に止まってくれ」


 しかし、雷電が俺の助けを呼びに行くなんて、意外と優しいんだな。


「あ、でも。聞いたのは雷電さんではなく、おばあさまです」

「……というと?」

「アマテラスさまと一緒に飲んでいた雷電さんがお酒に酔った勢いで語りだしたのをおばあさまが聞きつけて、私に教えてくれたんです」

「ほほう……なるほどな」


 前言撤回だ。あの駄龍、今度会ったらぶちのめす。

 俺が思い決意を胸に拳を握っていると、神崎が背中を寄せてきた。

 俺の背中に神崎の体温が伝わってくる。それに伴って、俺の顔が熱くなってくるのを感じる。


「か、神崎さん!?」

「先輩」

「は、はい!」

「無茶だけはしないでください。たとえ、死なないと言っても痛みは感じるはずです。死ぬほどの痛みを感じてまで、助ける必要があるんですか?」

「ある……かはわからない。でも、やらなくちゃいけないとは思ってるよ」

「どうして、ですか?」


 神崎は背中に体重をかけてくる。

 どうやら、逃げられないようだな。まあ、逃げる必要もないんだけど。

 俺は少し黙ってから、静かに言い出した。


「理由なんているのかよ」

「え?」

「俺が好きな漫画で主人公がこう言った。『殺す理由なんてわからない。でも、助けるのに理由なんていらないだろ』ってな。まあ、多少の誤差はあるが、お前を助けた時も、そして今回も、本当の理由なんて探しても見つからねぇよ」

「意味、わかりません」

「当たり前だ。俺もわかんねぇ。でも、見捨てるより、助ける方がスッキリすると思わないか?」

「そんなのはどこぞのヒーローがするものです」

「あイタタ。こりゃ、正論を言われちまったな。……まあ、そうなんだけどさ。だけど――」


 あんな悲しそうな顔見せられたら、助けたくなっちまうじゃんか。

 俺は、静かに空を見上げながら言った。

 確実に、この世界は理不尽で満ちている。本当の意味で自分を助けてくれるヒーローなんていやしない。でも、諦められないのが人間だ。

 俺は人間じゃないが、人間のように振舞うことができる怪物だ。

 だからこそ、救える人がいるのかもしれない。


「俺は……俺が助けられるのなら助けたいと思う。見返りなんていらない。代償だって必要ない。ただ、目の前の人を助けられるのなら、なんだってする。そんな、ヒーローのようになってみたいもんだ」

「先輩は、本当に夢ばかり見るんですね。バカみたいです」

「なんたって、不死だからな。誰よりも長生きするし、誰よりも貪欲に生きてみせるさ」


 そう言って、俺は立ち上がり搜索の続きを開始しようと足を進めると、


「そういえば……先輩のおうちは、どうなったんでしょうね」

「……さあな。見に行ってみるか」

「そうした方がいいかもしれませんね。私も、着替えてからすぐ行きますね」

「その時には、もう俺はいないかもしれないぞ?」

「いますよ。だって、あそこが先輩の居場所じゃないですか」

「……なんだか、俺の居場所があそこだけみたいな言い方やめてくれる? 俺にだって居場所はあるんだぞ? ホントだからな?」

「はいはい。わかってますよ」


 それだけ言い残して、神崎は着替えに行ってしまった。

 神崎を見送って、俺は神崎がくれたクロエの居場所らしき所へと探しに行った。

 全ての始まりの場所へ。俺たちは集結しつつあった。

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