面倒は俺を待ってくれない
結局遅れませんでした!
読んでくれると嬉しいです
どうも、一家に一人のハイスペックゾンビ、御門恭介です!
どうやら、俺の平穏な日常は終わりを迎えました。なんと、相棒であるタナトスのおじいさんが俺の家にご訪問なさったとか。
うん。意味わかんないねー。大丈夫。俺もわからない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! お前のおじいちゃんって、しかもカオスってどういうことだよ!」
「ん? もしかして君は頭がおかしいのか、馬鹿なのかな? そのままだよ」
「そ、そのままって……カオスって神様なんだろ? なんでこんなところに来てんだよ……」
「だ・か・ら。君は馬鹿なのかな? 神なんて気まぐれなんだよ。何処にでもいるし、どこにでもいないんだ。認識できる人のもとにいて、認識できない者の周りには決して姿を現さない。それが神。格差だよ」
意味分かんねぇ。神様が気まぐれなのはタナトスを知っているからわかるが、神が俺の家を訪問する理由が見当たらねぇ。
俺が理解に困っていると、神崎が立ち上がり俺に話しかけてきた。
「先輩。綺羅さんがいるので、場所を変えませんか?」
「ん? ああ、そうだな。綺羅」
「……何?」
急に呼ばれて、綺羅は不審そうに俺を見るが、まあしょうがないだろう。綺羅には神様は見えていないのだから。
これ以上、綺羅に変な話を聞かせたくはない。だから、俺はこう行った。
「お前は先に学校に行け。俺も遅れていく」
「え? でも……」
「安心しろ。実は神崎が便秘でな。こいつの安全を確認してから俺は学校に行く」
「え? 私、便秘だったんですか……ああ、そ、そうでした! 実は昨日からお腹の調子が悪くて! ほどんど何も食べられなかったんです!」
「ウソ。あんなに食べてた」
「こ、コイツは便秘のくせに大食いなんだ! 馬鹿だろ? 見てくれ通りの馬鹿なんだよ!」
何とか誤魔化そうとするが、綺羅は一向に信じようとしない。
なので、最終手段を使わせてもらうことにした。
秘技『抱きつく』。これは綺羅にのみ有効な技で、これを使うと綺羅が、デレる。
「ふわぁ! な、何してんの!」
「なぁ? 先に行っててくれ。俺も、あとで行くからさ」
「だ、だから、説明を――」
「な?」
最後のはでかかった! 最後の言葉で綺羅の脳みそは完全にオーバーヒートした!
綺羅は顔を真っ赤にして、小さく頷くと何も考えられない頭でボーッとしながらカバンを持って学校に向かっていった。
さて、邪魔者はいなくなった。これでちゃんと話ができる。
そう思って俺が振り返ると、そこには顔を真っ赤にした幼女、クロエと頭に青筋を浮かび上がらせた神崎が物静かに佇んでいた。
ちなみに、タナトスは大笑いしていた。
「えっと……どうしたの?」
「言わなきゃいけませんか? わからないんですか? 死にますか?」
「いや、どう考えても最後のはいらなかっただろ……」
え? 何? 何が起きてるの?
俺は自身が何をして、どうして神崎が怒っているのかを理解できていなかった。
しかし、そんな何も知らない俺に無慈悲に制裁は行われた。
今回は槍ではなく、神崎の手のひらが俺の頬にあたり、弾かれた。
いわゆる、ビンタというやつだ。
「殴ったな!? オヤジには……殴られたことはあるけど! 母親には多分殴られたことないのに!!」
「うるさいです! これくらいが先輩にはちょうどいいんです!」
「意味わかんないんですけど!」
「知りません!」
暴力だ! 俺は何も悪くないのに! 悪くないよな?
そんな俺たちのやり取りを見て、クロエは笑った。
「ははっ。面白いね、この人たち」
純粋な、子供の笑みに俺と神崎は会話を止める他なかった。
なんて、可愛い顔すんだよ。チクショウ。
気が付けば、俺は抗議することをやめ、神崎も怒りをぶつけることをやめていた。
「それで? カオスとやら。なんでお前と幼女が俺の家の前で倒れてたんだ?」
「ふむ。何から話そうか。実はな――」
「アタシ、お腹減ってたの!」
「いや、わかってる。だから、なんで腹が減ってたんだ?」
「何も食べてなかったから?」
「なんで疑問形なんだ? ……まあいい。じゃあ、なんで何も食べなかった?」
「……そういえばなんでだろう?」
ダメだ。話が進まない。
俺は早々に話を切り上げ、椅子に座って新しくコーヒーを入れた。
こりゃ、学校行けそうにないわ。
と、取調室で大きなヤマに当たっている警察官が家に帰れそうにないというような感じになりながら、入れたてのコーヒーを口にする。
「人の子よ、聞け。我がパートナーは貴様らに危害を加えることは決してしない。ただ、質問に答えて欲しい。貴様、不老不死であるな?」
「あ? ああ、一応そうなってるな」
俺は触れられて欲しくないワードに触れられ、少しイラッときた。
不老不死、つまり人間ではない。
俺はこれでも人間のつもりなんだが、どうやら世間はそんなに優しくないらしい。
溜息をしてから、俺はコーヒーを置き、クロエを見る。
「こいつ。どうせ、普通じゃないんだろ?」
「わかるか。仕方ないのだよ。この子は、一度死を経験しそうになっているのだからな」
「俺は何度も経験してるよ……」
主にタナトスのこのどうでもいい神器様のおかげでな。
「そこで物は相談だが、貴様。どこでその不死を手に入れた? やはりタナトスか?」
「さあ? そこで笑いこけてる神様にでも聞いてみろよ」
「あーっはっはっはっは……へ? 僕?」
「タナトスよ。貴様、どうやって不死を与えたのだ?」
「んー。適当かな? あげようとしたらあげられたよ」
「何?」
一気にカオスが不機嫌になる。
当然だ。質問に適当と答える奴は早々にいない。いたとしたら、そいつは馬鹿だ。
ここで問題がひとつ。この二人がただの人間なら警察を呼んで仲介なり何なりをすればいいのだが、相手は仮にも神様。つまり、人間以上神以下の俺にはどうしようもないということだ。
「ま、まあまあ、喧嘩はやめよう。俺の家の付近で」
俺の家が消え去っちまうよ。
とは、口が裂けても言えない。なぜか。それはこのふたりが今にも喧嘩をしそうになっているからだ。
「とのことだ。外へ出ろ、バカ孫が」
「あっはっはっは。お断りだよ。僕死んじゃうもん」
「安心しろ。何も感じる間もないまま消し去ってくれる」
「殺伐すぎんだろうがよ、おい!」
神様って、ほんと適当なやつばっかだな。面倒だったら消しさればいいとか、そういう考えやめてくんない? 主に俺の家が危ないから。
神々の喧嘩が巻き起こりそうになったとき、再び来訪者が現れた。
「こんちわー。……あれ? もしかしてお邪魔?」
金髪のサラサラヘアーに、整った顔。ただ、普通の人と違うのは空から天井を突き破って降ってきて、尚且つ体に炎を纏っているという点だけだった。
いや、如何にも不審者か。
ということで、
「あーもう! お前ら、全員外に出ていきやがれ!!」
流石に俺の韓袋の緒が切れた。