女の子は降っては来ない。がしかし、落ちているものだ
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朝の一件から、十分。俺たちは学校に登校するために用意を始めたのだが、そこでも問題が起きた。
神崎が……しくじったんだ。
事は一瞬だった。
綺羅が用意した飯を静かに食べていた俺は、一枚のトーストを口にした。俺はトーストに何も付けない派なんだが、そこで神崎がやらかした。
「なんで何も付けないんです? 美味しいのに」
「ん? そんなに美味しいもんか? まあ、たまには付けてみるか」
その瞬間。机にフォークが突き刺さった。いや、突き立てられた。
当然、犯人は綺羅だ。しかし、俺はその時なぜ怒っているのかわからなかった。……普通誰も分かりはしないだろうけど。
立ち上がり、綺羅は神崎の目の前に立つ。
神崎か? 神崎は綺羅の恐ろしさがトラウマになっている。つまり、今にも失禁しそうになっていた。
俺は何事もなかったかのように、トーストを置き、スープに口を付け始めた。
「ねぇ? なんで私が作ったものを食べてるの?」
「え? だ、ダメなんですか?」
「ううん。そもそもこの家で食べるのがまずダメ」
「それって、ひどくないですか!?」
「……死ぬ?」
「笑顔で聞かないでくださいよ! 死にませんよ!」
「ちっ」
「なんで舌打ち!?」
いやぁ、今日もいい天気だ。快晴で曇天だ。うん。恐怖で何考えているのかわかんないや。
俺は喧嘩(一方的な言葉責め)を近くから遠目で見て、庭でのんびりするおじいさんの気持ちに習ってコーヒーを口にした。
と、そんな逃避をしていると、神崎が俺にヘルプの目を向けてきた。
だから、俺は無視してやった。
「先輩! 助けてください!」
「バッカお前! 俺に振るな! 殺されちまうだろうが!」
「私がどうなってもいいって言うんですか!」
「知るか! 俺は俺が大切だ!」
「友達を守るのに理由はいらないんじゃないですか!?」
「それはそれ。これはこれだ! 今はこれの方だ!」
「意味分かりませんよ!」
俺もだよ! 何言ってんだよ、俺!
黒化して恐怖の権化と化した綺羅。恐怖で身動きができない神崎。それを見て見ぬふりをして、一生懸命逃避作業をする俺。
「がはははは! これは修羅場だな! 主も大変だ! はははははは!」
終いには雷電が笑い出してしまった。
ったく。どうして俺の家には普通のやつがいねぇんだよ! あれか? 類は友を呼ぶってか? ふざけんなよ……。
俺は肩を落として、溜息を着く。
なんだか、この頃溜息を着く回数が日に日に増えていく気がするのは気のせいだろうか?
「ねえ、そこのお二人さん」
「き、綺羅さん? お二人ってどういう意味かな?」
「お座り」
「いや、だから綺羅さん――」
「お座り」
「……はい」
「そこで負けないでくださいよ! もうちょっと粘って――」
「座れ」
「はい」
やばい。マジでやばい。何がかって? ナニがだよ。……ごめん。思考がおかしくなってきた。
それにしてもやばいです。マリオがピーチ姫を助けに行ってクッパを助けて世界征服するくらいやばいぞ!
「さて、何から話してもらおうかな?」
「だから、なんで俺まで座らなくちゃいけないんだ? 俺って関係ないよね?」
「なっ……私を一人にしないでくださいよ! も、漏らしちゃいますよ!」
「いいよ! 全面的に大歓迎だよ! 後片付けさえしてくれればしてくれよ! 俺を助けてよ!」
「黙れ」
「「はい」」
怖い怖い怖い! 目が本気だよ! 殺されちまうよ!
俺は逃げようとするが、綺羅の威光に体を地面に縫い付けられたかのように動けないでいた。
神崎は……ダメだ。完全にトイレに行きたがっている。
流石にこのままだとまずいと感じ取った俺は、意を決して綺羅に抱きついた。
よし! これで綺羅は元に戻る! 元に、戻る。戻……る?
「恭ちゃん」
「はい」
「ふざけてるよね?」
「……はい」
「はぁ。もういいよ。恭ちゃんなんて大嫌い」
「え? ああ、うん。そうだな」
「そこは否定してよ。バカ」
「お前は俺に好かれたいのか? 嫌われたいのか?」
「知らない」
「はっきりしてくれよ……」
おいおいおい。知らないってなんだよ。まあ、いいけど。
なぜか、黒化の綺羅は無償で怒りを鎮め、天へとお帰りになられた。ふぅ、何とかなったな。
俺は額の汗を拭き、テーブルの上にあった朝食を食う。
どうしてか、そのトーストはいつもと違ってほろ苦く感じられた。
全員の支度が終わり、やっとの思いで遅刻ギリギリに家を出ると、早々にもう一つの問題にぶち当たった。
「た、助けてください」
そう言って、女の子が俺の家の玄関の前で倒れたのだ。
「……は?」
またしても、俺の生活は歪み、変化していく。
この幼女との出会いは、その布石でしかなかった。




