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決められた戦場

 俺たちは戦力を分散させられた。でも、それでもここまで来た。みんなの協力がなかったら、俺はきっともっと前に倒されていたかもしれない。だけど、みんなが俺をここまで来させてくれた。

 俺は、校庭の地面を踏み、中央に立つ未来の俺を見つめる。


「やあ。久しぶりだな、俺」

「そうだな、俺」


 爽やかな笑顔で挨拶をしてくる未来の俺に、俺も同じく爽やかな笑顔で返事をしてやった。

 コイツが、今日のこの日の元凶。未来の俺にして、最低の敵。

 俺は無意識に歯ぎしりをしていた。手は強く握られ、体は小刻みに震えている。恐怖、ではない。じゃあ、なんだ? 俺は、どうしてこんなにも震えて……ああ、そうか。


「どうしてだ?」

「あぁ? 何がだ?」

「どうして、お前は仲間だったあいつらを傷つけた!!」


 怒っているのだ。仮にも仲間だったインドラを斬り伏せ、英雄達を無双したという目の前のこの男に。

 未来の俺はフッと笑うと、肩を竦めた。


「弱い奴が殺される。世の常だろ? 何をそんなに怒る理由がある。あいつらが斬られたのは弱かったからだ。あいつらが傷ついたのは、弱かったからだ」

「どうして……どうして、そこまで冷たくなれるんだよ!! どうして、仲間を斬れるんだ!! お前は……俺はいつからそんなに残酷になったんだ!!」


 渾身の言葉が放たれる。しかし、その言葉も未来の俺には通用しなかった。何を当たり前なことをという顔をして、こう言ったのだ。


「俺が残酷なんじゃねぇよ。世界が残酷なんだ」


 そう、当たり前のように。さも当たり前のように、未来の俺は言った。

 世界が残酷だから、あいつらは傷ついた? 世界が残酷だから、未来であいつらが殺された? フッッッッッざっけんなぁぁぁぁぁぁああああああ!!


「何が世界が残酷だ! なら、その世界をぶち壊せ! 守りたいものも守れなかった奴が、ウジウジと世界のせいにするな!! お前は守れたはずのみんなを守れなかっただけだ!!」

「そうさ、わかってる。これが俺のワガママだってことも、これが俺の間違いだってことも。でもよ、仕方ないだろ? お前も俺ならわかるはずだ。俺は、例え間違っていると分かっていても、そのやり方が正しいと思ったら最後までやり通すってよ」


 そう言って、未来の俺は一本の禍々しく黒い剣を取った。多分、あれはダーインスレイヴという魔剣だろう。一度でも斬られれば、傷は癒えないという英雄のお墨付きの。

 ごくりと、生唾を飲んで俺は頬を流れる汗を拭った。

 みんなは頑張ってくれた。今度は俺の番だ。この戦いを終わらせて、みんなと遊ぶんだ。邪魔する奴は全員ぶっ飛ばすって決めたんだ。だから、どんなに怖くても、やるぞ!


「さあ、始めようぜ。俺とお前の、最初で最後の戦争を」

「俺は、勝ってみんなと遊ぶんだ。今までの不幸の分、きっちりと楽しむんだ。そのために、お前をぶっ飛ばす!!」


 俺は一枚のメダルを弾いた。


「俺、御門恭介が願い奪う。信念を突き通し、偽善を破壊し、自身の力を困難という名の壁を破壊し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、真実を貫く拳!」


 瞬間、全身に力が駆け巡る。そして、俺と未来の俺の戦いが始まった。

 こちらに突進してくる未来の俺に俺も突っ込む。交差する直前、振り下ろされる魔剣を強化された素手で受け止め、俺と未来の俺は真剣な顔で相手を殺すことだけに集中する。

 メダルのおかげで魔剣を弾き返すことができるが、どうにも魔剣の威力が大きい。一発一発が重くて、だんだん俺のペースが遅くなっていくのが目に見える。このままでは体が斬られてしまう。一回距離を取ろうとしてジャンプするが、それを見越していた未来の俺がジャンプした瞬間を狙って突進してくる。

 距離を取るどころか、逆に詰められてしまい不利な状況が生まれてしまった。しかし、


「俺、御門恭介が願い奪う。逆境を切り抜け、希望を叶える力を。誰もが笑い合える黄金のような楽園を。今、俺の元に来い、勝利を約束された剣!!」


 二枚目のメダルを弾き、言霊を紡ぐ。

 行くぞ、真里奈!


『ガッテン! 間違えた君に、正しい道を示すよ!』


 迫る剣に、召喚された黄金の剣たちが対処する。甲高い金属音を上げながら、未来の俺の攻撃はなんとか防げた。

 だが、戦況は全く変わっていない。能力を二つ発動してやっと追いつけるレベルで、まだまだ未来の俺には届かない。

 

「おいおい、どうした? まさか、こんなもんじゃないだろうな?」

「馬鹿言っちゃいけねぇ。一高校生に何を期待してんだよ。てか、手加減くらいしろよ」


 毒づくがそれすらも楽しそうに笑う未来の俺を見て、俺は心底落胆した。こいつ、本当に俺を殺る気でいやがる。このままだと、殺されるのも時間の問題だぞ。


『私が交代しようか?』

(いや、嬉しいが、これは俺の問題だ。俺がどうにかする)


 とは言ってみたものの、何をどうすればいいんだろうな。力量も、度胸も相手の方が上だ。これ以上強くなるには、どうすれば……。

 焦るが、いい案は思いつかない。その間にも俺に攻撃を繰り出してくる未来の俺の対応に思考を持って行かれて、どうにも考えがまとまらない。

 ああ、クソ! どうして、俺には特殊な能力がないんだよ! こういう時に俺はどうして役に立たないんだ! なんで、俺は誰かに頼っていなくちゃいけないんだ!!

 叫ぶが、返事はない。当然だ。俺の思いは、言葉になどなっていないのだから。


「ほらほらどうした! このままだと死んじまうぞ!!」

「うっせぇな!! 手加減しろよ!」


 押され始めたことにより、攻撃が俺の体を掠るようになった。そのせいで、反応が鈍りダメージがどんどん蓄積していく。悪循環もいいところだ。

 相手の攻撃は読めない。まあ、普段の俺が敵の攻撃を読んでいるかといえばそうではないのだが。今回ばかりは読みたいと考えるほどやばいのだ。

 と、そんな現実逃避をしていたせいで、肩がざっくりと抉られた。


「がっ!!」


 どさっと、地面に倒れ、肩から流れ続ける血を目の当たりにして痛みが倍増した。肩を押さえ、治ってくれと願いながらその願いが成就しないことを恨んで悶える。

 ク、ソ。マジでいてぇ。

 これがダーインスレイヴの能力、癒えない傷を残す最凶最悪の魔剣の力。どうやら、三種の神器の死ねない体をも無効化するらしい。参ったなこりゃ、勝てねぇや。

 きっと、主人公に意識を持っていかれるだろうと思いながら、そう考えると今日に限っては違った。


『諦めるのか?』

『屈服するのか?』

『隷属するのか?』

『奪われるのか?』

『お前はそれでも主人公か?』


 五人の、そう、五人の声が聞こえたのだ。それは、何処かで聞いいた声。強く、悲しい運命を背負わされた主人公たちの声だった。

 仕方ないだろ。血が、止まらないんだ。力がないんだ。あいつを倒すために、みんなを守るために、圧倒的に力が足りないんだよ。


『そりゃ、残念だな。確かにお前に力は何もない。俺たちの力を使わなくちゃ、何も守れない』

『その上、ついこないだ好意を受け取った鈍感さだ。どうしようもない愚図だな』

『でも、何か勘違いしてないか?』

『確かに、お前が振るっていたのは俺たちの力だ。悪鬼羅刹を破り捨ててきた、最強に等しい力だ』

『そろそろ気が付けよ。力ってのはな、振るっているやつのもんなんだぜ?』


 だからって、どうしろって言うんだ。俺には、もう何も……。

 近づいてくる未来の俺。その手には禍々しく黒い剣が収められている。きっと、止めを刺すために向かってきているのだろう。いっそ、殺されてしまったほうがみんなのためになるのではないか、そう思い始めていた時だった。


「起きたまえ! 君は俺のライバルだろう!!」


 紅の炎が地面を焼いていく。その炎を警戒して未来の俺が遠ざかっていくのが見えた。

 この、炎は……フレイ、なのか?


「君は俺のライバルだ! だから、君を殺すのも俺だ! ほかのやつになんて殺されるな!!」


 ったく、よぉ。せめて、可愛い女の子に起こされたいもんだよな。

 ちぎれそうになっている腕をそのままに俺は片腕で起き上がろうと試みる。だが、痛みで上手く体が動かない。立ち上がることすらできないのか、俺は。

 再び伏した地面を強く何度も叩き、歯を食いしばる。

 どうすればいい。あいつを倒すのに、俺は一体何を差し出せばいい! なんでもくれてやる。腕か! 足か! 頭か! 命か! なんでもくれてやる! だから、一度でいい。あいつをぶっ飛ばせるだけの力をくれよ!!


「クッソがぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」


 何度も、何度も、何度も地面を叩く。悔しくて、悲しくて、惨めで、俺はどうしてこんなにも愚図なのだろうか。もっと、もっと強かったらみんなが守れるのに。もっと強かったら、みんなが傷つくことはなかったのに。

 力が要る。あいつをぶっ飛ばせるだけの力が。


『力が必要か?』

『力が欲しいか?』

『理不尽を壊すための力が必要なのか?』

『信頼を得るための力が欲しいのか?』

『すべてを従える圧倒的な力が』


「そんな力はいらねぇよ。ただ、あいつらを。仲間を守るためのささやかな力でいい。なんだって支払うからよ。お前たちの、主人公の力を俺にくれ」


 一瞬、メダルが光ったかと思ったら、俺の周りに主人公たちが現れた。しかも、半透明ではない。実体化しているのだ。


「なっ……お前たちは……」

「よう、ガキ。あの時はタナトス共々仲良く吹っ飛ばした気がするが、元気だったか?」

「この世界でも随分といたずらをしているようだな。これは懲らしめないとな」

「めんどくせぇが、仕方ないよな」

「早く帰りたいんだけどなー」

「まったくだ。こいつを絞めて、俺はさっさと帰らせてもらう」


 一人は神ですらも己の拳のみで打ち勝つ世界最強の人間、神谷信五。

 一人はアーサーに魅入られ平和を守るアーサーの意志を継ぎし剣をもつ、磯崎京介。

 一人はその身に神殺しと呼ばれる獣を住まわす神殺しの牙をもつ、鬼怒狼太。

 一人は他人の不幸を認めず全ての状況を打開する女神の宝具をもつ、進藤雄馬。

 一人は数多くの仲間を引き連れ数々の敵を倒してきた無と夢の境目の門番、岸谷妙理。

 他世界の主人公が今、俺の目の前に現れていた。

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