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原初の女神と勝利の女神

 とうとう二人になってしまったが、心配の念は全くと言っていいほどない。むしろ、落ち着いていると言えるだろう。

 そんな俺に、薫は言う。


「今度は、薫の番かな?」

「何言って――」


 いるんだ? と言えなかった。またしても道を塞ぐ敵が現れたからだ。

 全身を黄金の光に包み、神々しいというにふさわしい羽衣をつけているのは、まさしく女神。強敵だと思わせるのに数刻の時間も必要ないものだった。

 突然現れた女神は俺にお辞儀すると、ニコッと笑った。


「すみませんが、ここから先は通行止めです」

「そうもいかないんだよねー。薫たちは止まっていられないの。後ろでみんなが頑張ってるから。だから、悪いけど、あなたの相手は私が相手をするよ」

「お、おい、薫。大丈夫なのか? 相手は女神なんだろ?」

「ありゃ、気づいてたの? うーん。勝算はあるけど、正直きついかなー」


 じゃあ、と言い返すと、薫は有無を言わせぬ笑顔でこう言った。


「それでも、薫は恭介先輩のことが好きだから」

「え――?」

「だから、恭介先輩の邪魔をするものはすべて排除する。例え、相手が神様であろうと何であろうと、薫が恭介先輩の道を切り開いてあげる」


 その笑顔は、前で輝いている女神の光よりももっともっと光っていた。輝いていた。

 薫が言ったとおり、後ろで俺を送り出してくれた奴らが居る。足止めなんてされている時間はない。なら、俺は薫を信じて先に進むしかないだろう。

 俺は握りこぶしを作って、黙って走り出した。


「通行止めだと――」


 女神が攻撃を仕掛けてきたが、それは薫が打ち消した。


「言ったよね? 薫たちは止まっていられないの」






 攻撃を打ち消された女神は目標を恭介から薫に変え、朗らかな笑みを向けた。


「人であるあなたに、何ができるのですか?」

「侮ってもらっちゃ困るなー。薫は、女神様だよ?」

「何を言っているのですか。神気のない女神がどこに――」


 言いかけて、言葉は止まった。何故なら、先程まで神気のかけらもなかった薫の体からにじみ出るように神気が出てきたからだ。

 普通、人から神になるには、膨大な時間と運が必要だ。しかし、その時間を一瞬のうちに埋めてしまうものが薫にはあった。それは薫の決意が生んだ奇跡。神の招来。あるいは、


「薫はね。彼女の代理だった。本当なら、彼女が神様になるはずだったの。でも、薫の好きな人を、ううん、好きになった人を守るために死んじゃった。彼女もまた、恭介先輩が好きだったから。守りたいって思っちゃったから。だから、この力は薫の力じゃないと思ってた。でも、わかったんだ」


 すっと息を吸って、薫は清々しい顔で言う。


「これは薫の力。薫だけの力。彼女から受け継いだんじゃなくて、薫が手に入れた薫だけの奇跡なんだって」

「何を、言って……」


 あるいは、女神の復活。

 滲み出ていた神気が、ストッパーを外したかのように一気に溢れ出てきた。その神気の量は、目の前の女神を優に超えている。

 ここで、一つの真実を語ろう。薫は真理亜と幼馴染だった。それは決められたものだったのだ。真理亜の祖母が決め、真理亜がなぞって来た道筋でしかなかった。

 全ては、神崎真里奈の死から始まった悲劇だったのだ。

 最初、薫の中に居るものは真里奈の中にいた。だが、真里奈は幼い時に恭介を守るために死亡した。そのせいで中にいたものは新たな器を探し、そして薫の体に入った。

 中にいたもの、それすなわち神の魂。悲しき運命をなぞった神の魂だ。その名は黄泉津大神よもつおおかみ。日本をつくる神を多く生み出し、最後は醜い己を見て逃げ出した兄であり夫に捨てられた悲しい運命の女神。つまり、崇められる対象なのだ。そして、神崎家が崇めてきた対象は天照ではなく、天照を生み出したこの神である。

 その女神が、薫の決意で現世に再来したのだ。


「なっ……あ、あなたは、国生みの子を生んだ伊邪那美神(いざなみのかみ)。で、でも、黄泉の国に閉じ込められたのでは――!」

「悪いのぅ。少し体を貸してもらうぞ、娘よ。――して、御身は異国の神で間違いないかのぅ?」

「え、ええ。そうですが……」

「で、だ。妾が黄泉に閉じ込められていた件じゃが。妾は復活したのじゃよ。魂と化した妾を、昔救ってくれた者がおってのぅ。まあ、彼女は死んでしまったが、こうして心優しき娘が多くて日本は安泰じゃ」


 はっはっはっと笑って、薫の体を借りていたイザナミが言う。

 それを聞いて、女神は相手が本物だとわかったのか急に黄金の剣を持って迫ってきた。


「無駄じゃ。この娘は傷つけさせはせんよ」


 言って、半透明な壁を作り出し、剣を受け止める。女神は舌打ちをすると、自身を風に変え、後ろを取る。


「か、おるの体を勝手に使うなぁぁぁぁああああ!!!!」


 大声を出した薫から膨大な神気が吹き出し、風に変わっていた女神を吹き飛ばす。


「これは薫の体なの! 女神だか、悲しい運命を持っているとか関係ないよ! 薫のものは薫のものなの! だから、この力も薫のものなんだよ!!」


 どうやら、薫は自身の体を勝手に使われたのが相当腹がっているらしい。漏れ出す神気を無視して当たり散らしている。

 実は、薫は自身の自由を奪われるのがとても嫌いだ。例外は恭介に自由を奪われること、つまりは結婚のみである。そういうことから、真理亜の祖母の拘束も嫌いなのだ。

 だからだろうか、崇められる対象だった薫はそれを嫌って、真理亜と幼馴染という関係を作り出したのだ。

 そんなことは知らない女神は体を大きな猪に変え、今度は突進してくる。


UOOOOOOOOOOO!!!!!!


「うるさい!!!!」


 薫の一括で猪の化身は女神の姿に戻される。それほど、言葉が強制の意味を持っているということだ。

 女神を完全に無効化させる。今の薫は、どんなわがままでも通せる存在に化している。

 

「くっ……勝利の女神と呼ばれた私でも抑えられないなんて……」

「あなたの名前や肩書きに興味ないよ。でも、その力はちょっといいかな?」

「な、何をする気ですか!?」


 伸ばされた手に恐怖して身をすくめる女神。しかし、それは和解の握手だった。


「敵のあなたの名前や肩書きに興味ない。けど、仲間になってくれるなら、少しは興味でそうだよ」


 言って、薫は笑う。

 それを見て、女神は唖然とした。甘いと、そう思いながらも薫の手を取る。


「よっと。じゃあ、今から仲間だね。よろしく」

「甘いですよ、ホント。でも、私の負けですね。私はウルスラグナ。勝利の女神の肩書きがあります」

「あはは、甘いのは恭介先輩のがうつっちゃったんだよ」

「ふふ、それもそうですね。彼は、甘いですから」


 笑い合う二人、その先で激戦が繰り広げられているとは心にも思わずに。

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