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主と従者

 学校に着くなり、手厚いおもてなしが施された。

 空が光ったと思ったら、俺たちの中心に炎の塊を打ち込んできた奴がいたのだ。


「すみませんが、ここから先は行かせられません」


 空を舞うのは、炎を纏う一人の女性。いや、手には羽が生えているためあの姿が本当のものかは分からないが、どちらにしても仲間ではなさそうだ。

 俺が敵の殲滅のためにポケットに手を突っ込むと、それよりも前に真理亜が前に出た。


「先輩。ここは、私が行きます」

「で、でも……」

「私は先輩を信じました。今度は、先輩が私を信じてくれる番ですよ?」

「……わかった」


 苦しい判断だった。でも、信じろという言葉に、俺は言葉を挟むことはできないだろう。よって、俺は真理亜を置いて、先を急ぐことにしたのだ。






 御門恭介が視界から消えたのを確認してから、真理亜は愛用の槍を手にした。


「なるほど、天照様の巫女ですか。ですが、天照様のご加護があったところで、私があなたを殺せない理由にはなりませんよ?」

「どうでしょうか。私はあなたに負ける気が少しもしませんよ? 八咫烏(やたがらす)


 槍を構え、ふぅっと息を整える真理亜。その目には意思というものは存在しなかった。意思を捨て、目的という原動力で体を動かす。これは、情をかけるということを排除した完全に殺害を覚悟した目だ。

 同時に、真理亜の体に神、アマテラスが乗り移った。


「……驚きました。神降ろしですか」

「そうじゃのぅ。神降ろしとはよく言ったもので、私もよく理解しておらぬのじゃ。……まあ、こやつは姉を超えたとだけ言っておくべきかのぅ」


 言って、雰囲気が戻る。真理亜の眼が輝く。全身をありえないスピードで動かし、八咫烏の頬を槍が掠る。

 その動きについていけていなかった八咫烏は一瞬遅れて避けたために頬を傷つけられたが、傷つけられた今も何が起きたのかわかってはいなかった。

 真理亜が消え、そして攻撃された。だが、それ以上の事は判断できなかった。ありえない動体視力を持っている八咫烏の目をもってしても見れない動き、神速を遥かに超えた未知の領域のスピードに八咫烏は驚きを隠せない。


「私は、あなたたちに出会って、先輩が倒れてから特訓しました。とりあえず、姉を越えようと、必死に毎日のように神降ろしをひたすら繰り返しました。そうしたらある日、神様の力を完全に自分のモノにできる、神を『喰らう』ことができたんですよ」


 神を喰らう。読んで字のごとく、神を喰らったのだ。神という概念を喰らい、我がものとする咎人の最頂点に来る罰。それこそが神を罵倒し、貶し、喰らうというものだ。

 毎日のように神様のだらだらとした生活を見てきて、肝心な時に役に立たないと知っている真理亜だからこそできた、罰を恐れぬ力だった。

 それを聞いてもなお、八咫烏に理解はできないだろう。何故なら、神に人が歯向かうなど、ありえてはいけないのだから。


「巫女であるあなたが、そんなことできるわけが――」

「できるんですよ。私は、神様の悪いところだけを見て育ってきましたから。朝起きたらお酒をもってこい、ゲームを買ってこい、結婚したい、男が嫌いだと子供みたいにのたうち回ってきた神様をよく知っていましたから」

「……。アマテラス様、私は今、どう答えたらいいのでしょうか?」


 もちろん。返事はない。アマテラス自身も反省の念と真理亜の怒りに絶句しているからだ。

 不甲斐ない主と、その従者たる敵は、真理亜の日頃の恨みをぶつけるという形で校門を大破させて集結した。


「八咫烏さん? 今度から合コンをするときは天照様を連れて行ってくださいね?」

「あ、いえ、私は――」

「ん?」

「そ、その……」

「はい??」

「わかりました」


 ちなみに、その恨みに恭介を苦しめたという念が入っていたことは、八咫烏には全くわからなかったのだった。

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