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聖戦の夜

短いです、はい

 事は一通のメールから始まった。差出人は、御門恭介と書かれていたそれには、こう書かれていた。




『愛すべき、クズ野郎へ

このメールは見なくてもわかるだろう。しかし、形式として出さねばならないと判断し、差し出した。

今夜、決着を付けよう。俺と、お前の戦いに終止符は必要だ。どちらかが倒れる確固たる終止符が。

逃げても構わない。まあ、逃げてもこの町の人が死ぬだけだから、お前には関係ないだろうがな。

では、お前が逃げないと仮定して時間の指定をしよう。今夜七時、俺とお前がよく知る場所、桜坂高校で待っている。母校が壊されたくなかったら、急いでくるんだな。


追伸

逃げるなよ?』




 そんなふざけたメールを見て、俺はスマホを叩き割りそうになった。しかし、既のところで思いとどまり、俺はスマホを床に投げた。

 決着。一体何に決着を付けようというのだろうか。俺があいつに喧嘩を売った覚えはないし、逆にあいつが喧嘩を売ってきたことはあったが俺は思うところがない。まあ、インドラを傷つけたのは、『仲間』として許せないが。


「戦いに、行くんですね?」


 不意に、夕食を作っていた真理亜が不安そうに聞いてくる。俺は、少し迷ったが小さく頷いた。

 すると、みんなが俺の周りに集まってくる。どうやら、ついてくる気のようだが、それは先刻承知である。最後の戦いとは言わない。きっと、この先も険しい戦いがあるのだろう。でも、俺はそれをみんなで乗り越えようと決めた。決めてもらった。

 俺も、そろそろこの国の王様だということを認めなければならないだろうか。……いや、そんな決意は、そんな思いは必要ない。俺は俺でいる。それが一番だ。


「みんな。俺は……」


 綺羅を見、真理亜を見、薫を見、薙を、クロエを、春を見て、俺は胸に手を当てた。(ここ)には真里奈(あいつ)がいる。俺は、とっくに一人じゃなかった。

 ずっと、仲間を探していた。信じられる人を探していた。でも、昔の俺は探すと同時に避けていた。嫌われるのが、拒絶されるのが怖かったから。

 きっと、今の俺も何も変わっちゃいないのだろう。新しい変化に、この感情に、嘘を探そうとしている。この現在(いま)に嘘があったらどれだけ安堵できるだろうかと思ってしまっている。

 でも、わかったから。俺は、こいつらが好きだって、知っちまったから。だから、


「俺は、みんなと一緒にいたい。偽りかも知れない今も、絶望しかない未来も、何もなかった過去よりは輝いて見えるんだ。何も守れなかったひ弱な俺は、もう嫌なんだ。すべてを救う。例え、俺の何を失っても。守るためなら、俺は視力だろうが、腕力だろうが、脚力だろうが、信頼だろうが、すべてくれてやる。……そんな、不器用なゾンビだけど。いいのか?」


 もちろん。俺は嫌な俺を知っている。今から、その嫌な俺と戦いに行くのだから憂鬱なのはこれ以上になくある。でも、あいつも言っていたから、決着は付けないといけないと。

 決心はない。勝算も、ひらめきもない。でも、やると決めた。守れなかったのを、今度こそ守ると決めたんだ。

 俺の言葉に、みんなが頷く。俺は、大きく息を吸うと、玄関に向かった。






 一通のメールを送って、未来の御門恭介はこの時代で買ったスマホを地面に捨てる。これ以上、スマホを使用するつもりは毛頭なかったからだ。

 そして、やってしまったと、とうとう時間が来たのだと、そういう顔で真っ暗に曇った夜の雲を見る。

 天気は最悪。状況も芳しくはないのだろう。風は吹いていないが、所詮戦いに左右する程の強風は吹きまいと高を括っていたため、どちらでも良い情報だ。


「マスター。震えているのですかー?」

「はっ。この時期、冷えるからな」

「そう、ですかー……」


 よく未来の御門恭介に懐いていた夜見は、きっと未来の御門恭介の作戦を知っているのだろう。しかし、未来の御門恭介はそれを悟ってもなお、作戦の変更はしない。

 もう来てしまった。これが未来の御門恭介の選択であり、戻ることのできないたどってきた道の最終駅。もう、彼は決めたのだ。この時代で、この悲しみの連鎖を断ち切るのだと。

 

「もうすぐだ。あと少しだ。……こんな言葉を、何度口にしただろうか。何度、俺はあの光景を見れば良かったのだろうか。なあ、みんな。俺は、間違っていたんだろうか?」


 顔を見ず、縋るように未来の御門恭介は問う。

 すると、即座に夜見が否定する。


「そんなことないですよー。昔のあなたは知らないですけど、でも、でも、夜見は――!」

「ああ、わかってる。お前たちは俺を否定しない。俺を間違っているだなんて絶対に言わない。だって――」


 振り返り、みんなに無表情のまま、言った。


「俺の仲間だもんな」


 夜の学校。過去と未来の少年が、決着を付ける。悲しい戦いが、始まる。

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