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それぞれの思いは、交差する

読んでくれると嬉しいです

 仲間であるケルベロスとアジ・ダハーカが半殺しにしたインドラを返しに行ってくると言って元気この時代の御門恭介のもとに行ってから、なぜかアジ・ダハーカだけが傷ついて帰ってくるまで、未来の御門恭介は町の中で一番高いビルの上で一人座ってつまらなさそうに周りを見ていた。

 実際、彼はこの景色を何度も見ているのだ。同じく、何度も壊されているのを目にしている。それはつまり、この景色が今度どうなるのかを知っているということで、本当の意味での見飽きたということになる。

 と、そんなことで時間を潰していると、出かけていた二人がひょっこり帰ってきた。もちろん、未来の彼にはどちらかが傷ついて帰ってくるであろうと予測はしていた。だからだろうか、仲間が傷ついたのにも関わらず、何の感情も沸かなかった。

 ただ、帰ってきた二人に、


「お帰り。どうだった?」


 そんな素っ気ないことを言うだけ。

 しかし、二人はそんな素っ気無さを知っていたかのように、極めて淡々と話す。


「強かった。あと、お腹すいたー」


 無表情でお腹を摩りながらいうのはケルベロス。ほかのみんなからは愛称でケルと呼ばれているが、その中身は非常に凶悪なものだ。

 地獄の番人として存在するケルベロスは三つの能力を身に宿している。それは、死者が必ず通るとされるもので、彼女はそれを常に使えるように常備されている。そして、その能力は『保存』、『再生』、『霊化』の三つである。

 そんな危険満載な少女が、後ろにいる傷ついているドラゴン、アジ・ダハーカを指差して、


「アジ・ダハーカが使えなかった」

「おい。流石に怒るぜ? むしろ、俺様が戦っている時に何してやがった」

「お腹すいたから、あの子達を食べようとしたけど。あの子達も強かった」

「ちっ、あいつらはよぉ。なんか臭いが違うんだよな。おい、ボス。何か知ってるんだろう?」


 二人の実体験から推測される予想をぶつけていても、限界は訪れる。限界が訪れれば答えを聞くしかないだろう。そして、その答えを未来の御門恭介は知っている。

 アジ・ダハーカが未来の御門恭介に聞くと、彼は笑って手を振った。


「お前たちに言ってもわからねぇよ。あいつの強さは、誰もわからない。まあ、ひとつだけ言えるのは、あいつを殺せるのは俺だけだ。逆を言えば、俺を殺せるのもあいつだけさ」


 そう、誤魔化すような言葉を出して、未来の御門恭介は再びビルの屋上から下界を見下す。


(つまらない。見ている風景も、この感情も。俺は、いつからこんなにつまらない男になったんだろうな)


 未来の御門恭介がそう考えていると、予期せぬ来訪者が現れた。


「よう、クソガキ。元気……じゃねぇようだなぁ?」


 ニヤッと、他人を不快にさせる笑みは昔変わっていない。来訪者の正体は自分の父親だった。正確には、この時代の、だが。

 しかし、予期していなかったとしてもいつかは通らねばならないとは思っていた。未来の御門恭介はおもむろに言葉を説く。


「Too late do you offer to make peace with me, for now I have drawn the sword Dainsleif, which  was smithied by the dwarfs, and must be the death of a man whenever it is drawn; its blows never miss the mark, and the wounds made by it never heal.(ヘグニはこう答えた。「おまえが和解を求めるにしても、もはや遅すぎる。私がもうダーインスレイヴを抜いてしまったからだ。この剣はドウェルグたちによって鍛えられ、ひとたび抜かれれば必ず誰かを死に追いやる。その一閃は的をあやまたず、また決して癒えぬ傷を残すのだ。)」


 完全に、目の前の親を殺す態勢に入っている。だが、そんな未来の息子を見ても、御門流星はいつもと変わらないムカつく笑顔でこう言った。


「そう構えるなよ。おじさん、少しだけ興奮しちまうぜ?」


 さっきまで、いや、今もなお突っ立っているだけなのにも関わらず、未来の御門恭介は身動きひとつできなかった。その理由は、目の前の御門流星の殺気によって、体が完全に恐怖に臆してしまっているからだった。


(まだまだ、足りないってことか。でも、それは俺の計画に必要ない要素だ)


 そう割り切って、未来の御門恭介は頭のスイッチを入れ替えた。それはすなわち、恐怖という考えをリセットし、短い間だけでも体を動かすことが出来るようにするということ。この場合、動物が持つべき恐怖というものから完全に感じることはなくなる。しかし、それは体の防衛である摂理を完全に無くすということで、危険度は言うまでもなく高い。

 しかし、それをする価値があった。目の前の敵はそれを行ってでも消す必要があったのだ。


「いいぜぇ。親父を完全に敵と見なすことで恐怖をシャットアウトする。なかなかうまい作戦だ。でもな、それは俺が三十年前に通った道だ――」


 つまり、俺はそのときの俺より強い。と言って、御門流星は向かってくる息子に自ら向かっていく。

 未来の御門恭介の攻撃範囲に入った瞬間、何の躊躇いもなく未来の御門恭介は剣を振るう。だが、それは御門流星には当たらなかった。なぜか、目の前から忽然として消えたのだ。

 しかし、敵が消えても露骨に探す素振りをしない。耳を潜め、感覚に物を言わせて全ての情報を取っていく。そして、そこから逆算して敵の位置を割り出す。

 瞬時にその高等技術を使って、敵の位置を特定し、攻撃のモーションに入っていることも分かっていたので、攻撃が来る位置に剣を設置する。

 だが、


「グッ……!」

「甘ぇんだよ」


 剣を設置した位置に攻撃は来なかった。代わりに、体をくの字に折り曲げる強力な蹴りが体の中心に粘り強く突き刺さった。

 悶絶ものの攻撃だったが、未来の御門恭介は一息で具合を戻す。そして、再び剣を構えた。


「やめとけ。お前じゃあ、俺は殺せないし、倒せない。それに、お前はやることがあるんじゃないのかよ?」

「……知っているのか?」

「お前の仲間たちより、な」


 勝ち誇るような笑みに、憎たらしさを感じて未来の御門恭介は舌打ちをした。

 なおも、御門流星は当然だろ? という顔をやめない。


「まあ、お前の選択だ。どうなろうと、俺たちには関係ない。でもな、後悔だけはするな。あそこでああすれば、あの場で何かしておけば。なんて、胸糞悪い言い訳はやめろ。後悔はな、できなかったことの結果だ。もし過去に戻っても、あそこでああすることも、あの場で何かをすることもできやしねぇんだよ。一度通っちまった道は、二度と変えられねぇ」


 言って、御門流星は言うだけ言ったと変えるために踵を返した。

 それを、未来の御門恭介は制した。


「待てよ」

「なんだ?」

「……見届けてくれよ。俺が何を選んだのか、あいつが何を選ぶのか。この戦いは、あいつに、俺に、再認識させるための戦いなんだ。……俺は俺を殺す。例え、間違っている選択でも、これは俺が選んだ道だ。だから、その見届け人になってくれよ。あんたなら、親父達なら、安心できるんだ」


 ポーカーフェイスとはこういうことを言うのか、表情こそ無表情だが内心では焦っていた。何にではなく、この場にある全てに、だ。親父の出現、仲間の強さ、考えてきた作戦、先にある戦い。すべてが、今の彼を焦らせていた。

 問いに、答えは出された。


「言われなくてもそうするつもりさ。母さんもいるから安心してくれよ。ああ、それと。いいことを教えてやる。この世に成功の二文字はないぜ。見る人がみれば、全ての事象は失敗だったと言う奴がいるように、お前の選択も、生き様も、姑息な作戦も、失敗だって言う奴がいるのさ。まあ、存分に戦えよ。喧嘩は江戸の華ってな」


 手を振って、御門流星は高らかに帰っていった。

 その姿を見て、終始食えない親父だと未来の御門恭介はポーカーフェイスの下で苦笑していた。

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