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高校二年の秋

読んでくれると嬉しいです

 朝飯を食べ終わって、俺たちはまだ傷が癒えていないインドラを交えて作戦会議を開始した。

 ちなみに、薙は充電中と行って食事中から俺に抱きついてまるでコアラみたいな格好でずっと寝ているが、そのせいで美少女たちの視線が痛いです。どうしたらいいですか?


「インドラ。お前の傷はいつ治るんだ?」


 インドラは神様だ。神様は人々の信仰があればいくらでも蘇られるのだそうだ。よって、今負っている傷も時間が解決してくれる。そう思っていたが、どうやらそうもいかないらしい。

 インドラが難しそうな表情を見せて、俺に苦しそうに言った。


「この傷は……癒えない。そういう魔剣に喰われた傷だからね」

「喰われた? どう見て切り傷だろ?」

「ダーインスレイヴ。この名前を知っているとは思わないが、そういう魔剣が存在するんだ」


 静かに語られた昨夜の戦い。それは戦いではなく、一方的な虐殺だった。聞く限りでは、インドラ英雄一派は全滅。死んでいなかったとしてもその、ダーインスレイヴとかいう魔剣のせいで重症を負い、現在延命中。そういった状況の中、インドラは俺たちに説明をしてくれているとわかったら、流石に無茶はさせられそうにない。

 よって、今度の戦争ではインドラ英雄一派は不参加となる。


「なるほどな。全員、その魔剣とやらに斬られて、重症か。えっと、死なないんだよな?」

「今のところは、ね。でも、時間の問題だ。魔剣を折るか、僕たちが消えるか、今はそういう話になっている。結局、君の嫌がっていた戦いをしなくちゃいけなくなった」

「知ってるなら、そういう原因を作るなよ……まあ、いつかは通る道だったけどな」


 ふむ。となると、今度の戦いでは戦闘面は俺と、ヴリトラ、雷電が主力になるのか。対して敵は……少なくても三人はいるんだよな。今聞いた話だと、そこに得体の知れない奴らが三人加わることになる。どう見たって役者不足だ。というよりは、俺たちの戦力不足だ。

 俺は埋まらない席を自分で補わなくてはいけないと考え、同時に鬱憤が貯まる。俺は戦いの素人だ。何を今更と言われるかもしれないが、俺は九ヶ月前までただの高校生だったんだ。武道だって、剣術だって、もちろん戦術など以ての外の世界に生きていた。こんな俺が、どうしてこんな状況に陥っているんだと何度も疑問に思ってきたが、それはついに答えは出なかった。

 気が付けば戦っている。それが九ヶ月問いかけた末の回答だった。俺は、何の目標もなく、何の理由もなく、何の前触れもなく戦っていた。敵が現れて、俺の仲間が勝手に暴れて、傷ついて、だから、俺は戦った。気が付けばここまで来てしまった。未来の俺と戦う羽目になった。ヤレヤレ系の主人公になるつもりはないが、今回ばかりはしてもいいと自分で思う。

 と、自虐的に考えている俺に、意見が入ってきた。


「はいはーい! 薫も戦うよ!」

「は?」

「わ、私も戦いますよ!」

「え?」

「もちろん私もね!」

「へ?」


 何を言っているんでしょうか、この馬鹿女どもは。

 俺は引きつった表情のまま、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 いや、だってね? さっきまで普通ではないが、女の子だったこいつらがいきなり戦うとか言い出すんですよ? 流石に驚くでしょうよ。まあ、戦いのセンスは俺よりあるけど……

 でも、俺は即座にその意見を蹴った。


「ダメだ」

「なんで? 薫たちも戦えるよ!」

「そうです! 私たちだって!」

「もしかして、私たちが傷つくのが嫌、とか言わないよね?」


 さすが幼馴染、俺の考えていることをズバリ言い当ててきやがる。そうだよ。俺はお前らが傷つくのが嫌なだけだ。とは、カッコ悪くて言えやしない。俺はそのまま綺羅たちを見つめ、意思を押し通そうとする。

 だが、こいつらの性格を知っている俺はもちろんわかっていた。こいつらが一度決めたら二度と意見を変えることはないと。でも、今回ばかりは俺も譲ることはできない。何せ、こいつらを傷つけることになるかもしれない大切な決議だから。


「私たちは、やっと恭ちゃんと同じ土俵に立てたの。恭ちゃんがこれまで苦しんできた世界に、やっとの思いで足を踏み入れたの。どうしてか、わかるよね? 好きだからだよ。好きだから、大好きだから、そばにいたくて、守られたくなくて、助けてあげたくて、だから頑張った。頑張って、強くなった。恭ちゃんは、私たちをまだちゃんと見てくれないの?」


 綺羅の真剣な言葉に、俺は少し揺らいでしまった。でも、意思を強く持って反発する。


「そうかもしれないけど、今回はダメなんだ。今回の敵は、俺が倒さなくちゃいけない。これは、俺が起こした事件だ」

「やっぱり、何もわかってないんだね」


 綺羅は呆れたように首を振った。また、これ以上の話は無用と判断したのか、一歩下がる。すると、交代で今度は真理亜が入ってきた。


「先輩。先輩は私たちを見てくれてません」

「見てるよ。俺は、お前たちをよく見てる」

「いいえ、見てません。だって、先輩は私たちが強くなったのを知らないですよね? 例えば、クロエさんは自身の魔力を自由に扱えるようになりました。春さんは二匹の龍を従えるようになりました。薫は女神の力を自由に扱える。綺羅さんはスサノオ様と契約しましたし、私だってアマテラス様との正式な契約が済みました。みんな、先輩に追いつきたい一心で、そばにいたい一心で頑張ったんです。知ってましたか?」

「……しらなかった。それは、知らなかったよ」


 どうやら、俺が寝ていた二ヶ月の間、そんなことをしていたらしい。薫に関しては、自身の延命の延長線上に位置していた自由な力の操作ができるようになったのだと、薫から後で聞かされた。

 それにしたって、みんなそんなに追いつきたかったのか? 俺なんかのそばに、いたかったのか? 俺は、ついこないだまでなんで戦っているのか、なんで助け続けたのかもわからなかったのに?

 俺の心が、完全に傾いている。陥落までに有する時間はもう数刻も残っていないだろう。だから、俺は最後くらい男らしく諦めようと、心に誓って自ら揺らいでいた心を崩壊させた。


「ああ、クソ。そんなこと言われたら、断れないだろうが。お前たちの努力を見ちまったら、聞いちまったら、断るのが悪いみたいじゃないか」

「じゃあ――」

「ああ、いいよ。でも、無茶だけはするな。いいな?」

「わかってますよ」


 そう言って、無茶をする気マンマンそうな笑顔でハイタッチをする三人。まあ、いっか。

 真理亜たちの戦いに了承を出すと、背後からクロエが抱きついてきて、


「アタシも戦うから!」

「お、おう。まず、離そうな? 結構この体勢きっついからな?」


 言ってはみたものの、どうやら薙が抱っこされているのに嫉妬しているクロエはなれてはくれなかった。その代わりに、春が俺の腕に抱きつき柔らかい追撃してくる。


「私も本気出しちゃうよ?」

「あ、ああ。わかったから、一度離れような、二人共? 早くしないと俺の体が戦う前にボロボロになっちまうよ……」


 当然。その日、俺の体は上と下がこんにちはしました。

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