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覇王、御門恭介

御門恭介、覚醒……って感じ?


読んでくれると嬉しいです

 龍の最大の攻撃をあっさりと切り倒してしまったので、龍は驚いて声も上げられないかと思ったが、それは俺の思い上がりだった。

 なんと、龍は自分の攻撃がなぜ通らなかったのかを瞬時に調べ上げていた。そして、結論が口から出たとき、それは遠からずの答えとなっていた。


「オメェ。二つの匂いがするな。なるほど、中に誰かいるな?」

「外れてないけど、当たってもないね。これは神降ろし。本来は神様のありがた~いお言葉をもらうためのものだけど。今回は私を降ろしてみましたー♪ なんてね。でも、恭介ちゃんの意識もちゃんとあるからあなたの結論はやっぱり遠からずだね」


 俺の声でこれを語るだけで、十分鳥肌ものだが今回ばかりは仕方ない。

 今の俺の状況を大雑把に伝えれば、俺の意識をそのままに真里奈の意識が覚醒しているという感じだ。つまり、一つの体に二つの意識が同時に在ることになる。

 しかし、真里奈が言ったように、これは二重人格といったものでは決してない。

 神降ろし。神を身に降ろし、神の言葉を聞く儀式だと記憶にはあったが、これはその応用。自分自身という霊体を人の身に降ろすという神降ろしを確立した真里奈だからこそできる技だ。

 そして、この技の最もな特徴は、二人の一つの行動を瞬時に計算し、行動することができるということだ。

 普通、人は脳の半分を使って生きている。しかし、今の俺ならば百パーセントの効率を出すことができる。それはつまり、通常の二倍の早さで結論を導き出すことができるということだ。


「はっはー!! なるほどな!! 二つで一つの存在か! そりゃあ、さっきの攻撃も防げるわけだ! だが、お前たちに一切のダメージがなかったわけじゃないだろう?」


 ニヤリと、何かを悟ったように龍が笑うと、俺も笑い肩から血が噴き出した。

 そう。さっきの攻撃は避けることができない代わりに最低限のダメージだけを受けた。どんな攻撃を受けても回復し続ける俺の死ねない体があってこその肉を切らせて骨を切るという荒業だ。

 そんな体だから、受けたばかりのダメージですら既に完治しつつあった。


「残念だけど、あなたじゃ私たちは倒せないよ?」

「果たしてそうか? 俺様がお前たちを倒せなければ、お前たちにも俺様は倒せないぜ?」

「……そうかもね。絶対悪。昔、どこかの神話群で見たことがあると思ってたけど、まさかゾロアスター教の邪龍、『絶対悪』のアジ・ダハーカだったのは誤算かな?」


 そう言って、真里奈が俺の体を動かしてクルクルと剣と化した薙を振り回している。

 だが、その動きをやめたかと思うと、ポケットに手を突っ込み一枚のメダルを握った。


『ここからは交代。私が考えて――』

「俺が戦う。わかったぜ、真里奈。――俺、御門恭介が願い奪う。逆境を切り抜け、希望を叶える力を。誰もが笑い合える黄金のような楽園を。今、俺の元に来い、勝利を約束された剣!!」


 真実を貫く拳を使っているにも関わらず二つ目の能力を解放する俺。しかし、いつかの日にきた能力の同時使用の頭痛は来なかった。

 何故なら今、俺の中にいるのは俺一人ではない。真里奈がいて、手元には薙がいる。つまり、今の俺なら三つの能力は同時並行することができる。ただし、代償はすべて俺持ちだが。

 唱え終わると、さっきまで住宅街だったのが、いつの間にか黄金の剣が飛び交う黄金の住宅街へと姿を変えていた。

 この黄金の世界の中では、誰もが俺の作ったルールを邪魔できない。この世界のルールは俺の平穏を守るというただ一つの言葉だけが適応され、その他の言葉は意味を失う。

 よって、この黄金の世界は俺にとっての桃源郷であり、絶対に崩されない不朽の夢である。


「薙。まだ行けるか?」

『問題ないです。恭介様のため、それに元マスターの真里奈様の願いでもありますから』

「サンキューな」


 俺は草薙の剣をきつく握った。そして、地面に突き刺さっていた黄金に輝く名も無き聖剣を手に取る。

 この世界に存在するのは黄金の名も無き聖剣たち。それは偽物であり、本物と同等の力を有するがために世界から否定された集合体の名前。この能力の罰は、否定された聖剣たちの不幸の代行。つまり、未来の幸福の消失だ。

 だが、それがなんだ。未来がどうなろうと、俺はいつだって正しい選択肢を選んでみせる。選び続けてみせる。だから、行くぞ。最後の一つの能力開放を!!


「行け。聖剣たち。俺の幸福を喰らって、否定した全てを否定しろ!!」


 次々と剣が龍の体を抉っていく。だが、龍の回復スピードも満更でもない。抉った箇所をそれを上回るスピードで回復していく。

 くっ。やっぱりこれだけじゃ届かないか!


「甘い甘い!! そんなんじゃー、俺様は殺せねぇぞ!!」

「ちっ――俺、御門恭介が願い奪う。悲しみに暮れる女神の宝具を。目まぐるしいほどの収束する信頼を。今、俺のもとに来い、目指すべき希望!!」


 これでは足りないと分かってしまったから、俺はもう一枚のメダルを開放した。

 そして、この能力を発揮するには女神の接吻が必要だった。この能力の真骨頂を言うならば、自分を愛してくれる女神の力があってこそ発揮される絶対に曲げられることのできない希望の一筋。それを一点に集中させて放つ膨大なエネルギーだ。

 今回選んだ女神は、薫だった。


「来やがれ、花宮薫」

「よっと。何ー、恭介先輩?」

「薫。お前は……いや、聞かなくてもわかってるが。これからもずっと俺のそばにいてくれるか?」

「もちろんだよ。だって、大好きだもん」

「そう、か。じゃあ、俺に力を貸してくれ」


 言って、俺は薫と初めて真面目なキスをした。いつもの不意打ちのキスではなく、俺から薫に向けた愛情のキス。それを終えると、俺の手には一本の光り輝く大きな槍が存在していた。

 俺はその槍を強く握り、龍に狙いを定める。


「はっ! そんなもので俺様が貫けるか!!」

「できるさ。これは希望の一閃。この場にいる全ての人の明日のための希望なんだから!!」


 俺は光り輝く槍にこの場に蠢く俺の全ての力を集中させた。確かに、この力だけではあいつは貫けない。でも、俺の全霊をかけた一発ならどうだ?

 黄金の聖剣の数々が、光り輝く槍に飲み込まれていく。

 その槍を打ち出すのは真実を貫く拳から手に入った強靭な体。三つの力を集約させた一撃を、お前は受けきれるか、蛇野郎!

 俺は一気に槍を打ち出す。


「ふんっ…………な、何!?」


 龍も槍を受けきる体制に入っていたが、それは龍の間違いだった。龍は逃げるべきだったんだ。

 龍の硬そうなウロコをガリガリと削りながら、肉を、骨を、内蔵を、全てを回復される前に消していく光の槍。既に龍は逃げるタイミングを逃した。これで、倒せた。そう思った瞬間だ。


「もういい。帰るよ、アジ・ダハーカ」


 ガシッと俺の全霊をかけて放った光の槍を掴み、ぐちゃぐちゃと嫌な音を上げながら龍の体から引き抜かれ、粉々に砕かれた。それをしたのは俺の家に突然訪ねてきた俺たちと大差ない大きさの少女。少女は、返り血をものともせず、最初に持っていたパンをムシャムシャと食べ始めた。

 あ、あいつ、何者だ?


「私はケルベロス。地獄の門番って言えばわかる、かな? まあ、どっちでもいいけど……アジ・ダハーカ。私お腹すいた」

「わ、わかった。ここは退散しよう」

「じゃあ、飛んで」

「け、けが人なんだが」

「……だから?」

「俺様がそんなことをすると思うのか?」

「お腹すいたー」


 一向に退こうとしないケルベロスと名乗った少女に呆れたのか、ある程度回復したアジ・ダハーカはため息をしながら大きな翼をはためかせた。

 捨て台詞として、こんなことを言いながら、


「今度は本気でやり合おうぜ! 今度は俺様が勝つからな!!」


 まったくもって迷惑極まりない言葉を残して、災厄を去っていった。

 否、これからもっとひどい災厄が来ることを考えると落ち着いていられるわけがないのだが、それでも勝ち取った平和を貪るくらい、どんな悪神でも許してくれるだろう。

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