最強の足音
久々に英雄さんたちが出てくるかも
読んでくれると嬉しいです
恭介の家から二キロ離れた場所で、スナイパーライフルのスコープから恭介の家を眺めているウサ耳をもつ少女、夜見は誰にも聞こえないように小さく舌打ちした。
どうやら、ベッドの中でイチャイチャしている恭介らを見てお怒りのようだ。
舌打ちを聞かずとも気配で感じ取った未来の恭介ははぁ、と小さくため息をついた。
「夜見。ムカつくのはわかるが集中してくれ」
「撃ち殺していいですよー?」
「ダメだ。やめろ。マジで。トリガーに指を掛けるな。落ち着け、な?」
全力で夜見の殺害予告を収めた未来の恭介は過去の自分を双眼鏡と自身の片目にはめ込まれている義眼の異能の一つ、『遠視眼』を行使して観察していた。
正直、こちらも相当お怒りだ。それも、夜見よりも殺気立てているので誰も声を掛けることができないでいるという状態で、未来の恭介の仲間たち(夜見を除いた)はビクビクとしているだけで精一杯だった。
「ちっ、昔の俺はこんなにもムカつく奴だったのか。見ていて、爆ぜろって感じだな」
「むしろ脳幹を打ち抜くですよー。その後に心臓を数発撃ち抜けばいいんですよー」
「やめろ。ムカつくが、あいつは生かしておかなくちゃいけない。だから、トリガーから指を外せ! お前じゃ、間違っても一発で仕留めちまうだろうが!」
「私はそれでもいいですよー!」
「それじゃあ、俺がダメなんだよ! いいから大人しくしていてくれ!」
むぅ、と頬を膨らませてスコープから顔を離す夜見。室内ではないため風が髪を靡かせ、少しだけ肌寒くなってきた季節。夜見は不意にくしゃみをした。
「風邪か? ったく」
くしゃみをしたのを見て、未来の恭介が自分の羽織っていたマントで夜見を包み、自分も温まっていた。どこからどう見て抱き寄せられ、肩を寄せ合っているようにしか見えない状態になって、夜見は顔を急速に赤くしていった。
未来の恭介以外全員が夜見が恥ずかしがっていることに気がついたが、未来の恭介は抱き寄せたまま双眼鏡でずっと恭介を監視し続けているためそれには気がつきようもない。
むしろ、体が暖かくなってちょうどいいとしか思っていないように見えるが、素でそれをやってのけてしまうあたり、未来の恭介は男として成長しているということだろう。
「ま、マスター!?」
「ん? なんだ?」
「そ、その……」
「寒いのか? ったくしょうがねぇな」
ぎゅっ。ひゃわぁぁぁぁああああ!
双眼鏡で眺めている未来の恭介にとって呼ばれたことは寒いという催促でしかなくて、夜見にとっては嬉しいが恥ずかしいという声にもならない悲鳴を上げるしかなかった。
「恭介様、全員が揃いました」
「ああ、わかった。夜見、寒くないか? ……どうした、顔が真っ赤だぞ?」
「な、何でもないですよー……」
「そうか? じゃあ、話を始めるぞ」
そう言って、双眼鏡から目を外し、義眼である右目を眼帯で隠してから未来の恭介は仲間が居る方に体を向けた。
そこには昔ほどではないが、昔の仲間たちと変わり無い戦力をもつ五人の先鋭たちがいた。
一人目は月の兎。インドラの話に出てくる犠牲の象徴の兎だ。
二人目は八咫烏。天照大神との深い関係のある烏だ。
三人目はアジ・ダハーカ。絶対悪と評される悪の根源である龍だ。
四人目はウルスラグナ。アジ・ダハーカと正反対の戦いの女神であり、勝利神でもある。
五人目はケルベロス。地獄の門番で保存、再生、霊化という異能を持つ三つ首の犬だ。
全員、仮の姿として人間の姿をしているが、もちろん戦う時は姿を本来の姿に戻すだろう。しかしながら、人間の姿をしているからといって本来の力が力なので普通の人間が近づくことですら悪影響を及ぼしかねない程の危険性をはらんでいる。
そんな集団を携えて、未来の御門恭介は一礼した。
「俺の招集に答えてくれてサンキューな。正直、こんなに集まるとは思わなかった。まあ、俺に会うのはまだまだ先のことだったが、何分急な仕事でな。すまないがこれから力を貸してくれ」
「言われなくてもそのつもりですよー」
「私もその所存です」
「俺様は戦えればそれでいいぜ」
「私があなたに勝利を与えると約束しましょう」
「お腹すいたー」
それぞれの回答が返ってきたことに未来の恭介は頷くと、英語で何かを唱え始めた。
「Too late do you offer to make peace with me, for now I have drawn the sword Dainsleif, which was smithied by the dwarfs, and must be the death of a man whenever it is drawn; its blows never miss the mark, and the wounds made by it never heal.(ヘグニはこう答えた。「おまえが和解を求めるにしても、もはや遅すぎる。私がもうダーインスレイヴを抜いてしまったからだ。この剣はドウェルグたちによって鍛えられ、ひとたび抜かれれば必ず誰かを死に追いやる。その一閃は的をあやまたず、また決して癒えぬ傷を残すのだ。)」
唱え終わると、地面からは如何にも触れてはいけないオーラを放つ真っ黒な刀身を持つ剣が突き刺さっていた。
それに手をかけて、未来の恭介は遠くに向かって言った。
「お前らはもともと俺の仲間だ。だから、お前たちが俺に勝てるはずがないんだよ。なあ? 英雄ども」
遠くに見える五つの人影、それは現代の恭介の仲間であり、元未来の恭介の仲間である英雄一派の姿。そして、微かに見て取れる表情からは驚きと敗北の色を彩っていた。
何故なら、未来の恭介が手にしている剣は最悪にして最低の魔剣、ダーインスレイヴだったから。その刀身は何にも犯されることのない漆黒。そして、逸話が正しければ、ダーインスレイヴが抜かれたい以上誰かが死に追いやられるのは確かだった。
故に、英雄一派が本気を出す必要性が十分に出てきた。
「貫け。雷光の名のもとに……金剛杵!!!!」
インドラが放った高圧電流を纏った槍は、まっすぐ未来の恭介の元に飛んでいく。しかし、未来の恭介はそれに少しの恐怖も感じさせず、ただダーインスレイヴの鋒を向けるだけだった。
そして、その理由は次の瞬間にはっきりした。
「無駄だよ。お前の攻撃じゃあ、俺のダーインスレイヴは折れない」
「なっ……!」
金剛杵はダーインスレイヴの鋒でまるで貫かれたかのように静止していた。
まるで、攻撃がなかったかのように静まり返った中で、未来の恭介がクイッと顎で指示すると、戦いに飢えていた野獣たちが一斉に英雄一派を思う存分に蹂躙した。
心臓を打ち抜かれ、腕を切断され、体の半分を焼かれ、体を両断され、体中を穴だらけにされた英雄一派は、言葉通り一瞬で沈黙した。
「さあ、喰らえ。ダーインスレイヴ。奴らは、お前の血肉だ」
ダーインスレイヴは刀身から黒い枝を生やし、生物のように死体になっている英雄たちを巻き取り、喰らっていった。
全てが終わった中で、未来の恭介は眼帯を外し、遠視眼で恭介の家を見て、小さく笑った。
「もうすぐだ。もうすぐ、俺が俺を殺す。待っていろ、てめぇの首は、てめぇが狩ってやるよ」