俺は化け物で、大馬鹿だから
コメディってどう書いたっけ……
読んでくれると嬉しいです
夜。俺たちはいつものように一つのベッドで狭苦しいのを我慢しながら横になっていた。
こないだ大きなベッドを買わないかと持ちかけたところ、俺以外の全員一致で反対されたため、この狭いベッドを使っているが、正直寝づらい。どうして、女子ってこういうのが好きなんだ?
そういう不思議なことを考えながら、俺は眠れない目を強引に瞑る。
すると、俺が寝ていないことに気がついたのか、全員が俺の方に体をくっつけてきた。
「眠れないんですか?」
「……真理亜か。ああ、ちょっと狭くてな」
「うっ……そ、そんなに私たちにくっつかれるのがイヤ、なんですか?」
「男としては嬉しいけど、寝づらいのは確かだよな」
俺と真理亜の会話を聞いてか、次々と俺の体を締め付けていた腕が離れていく。いや、嬉しいって言ったよね? 急にいなくなるとなんか淋しいんだけど。
みんなの態度の変化に少しは戸惑いを覚えつつ、俺は天井を見ていた。
実のところ、眠れない理由はそれだけではない。今日、神崎の婆さんに言われた選択肢のことも、少しは頭に引っかかっていたのだ。
今日まで、俺は敵を倒して、仲間を増やして、絆を求めてきた。絶対に揺るがない絆を。正直に言うと、俺は裏切られることが怖かった。誰かが俺を裏切るんじゃないか、騙すんじゃないか、そんなことが気になって、この体になるまで綺羅以外の誰とも関係を持とうとはしなかった。
この体になってからは、毎日が新しい感じだ。確かに、面倒な敵との戦いはある。けど、敵を倒して得られる平和はこれ以上になく輝かしく見えた。何の目標もなかった俺にとって、生きる価値を見出すのに申し分無かった。でも、それにだって大きな犠牲は必要だった。
絶対に死ねない体。人を超越した力。人の意思を捻じ曲げる異能。これらはタナトスから贈られた三種の神器であり、俺を人の身からかけ離れさせたもの。化け物たる俺の象徴。
化け物は決して人とは関わってはいけない。関われば、人を破滅させてしまうから。破滅させたことに苦しんでしまうから。
俺はそんなことは望まない。みんなが苦しんでしまうなら、俺はこいつらとの関係を断ち切る。大好きなみんなを、苦しめたくないから。
考えを深めていると、真理亜が俺の手を握ってきた。
「先輩」
「ん? どした?」
「また、悲しいことを考えてませんか?」
「……どうしてだ?」
「先輩の顔、なんだか怖いです」
顔に出るとはこういうことか。どうやら、俺に似合わず難しいことを考えていたせいで表情が険しくなってしまったらしい。
それを見ていた真理亜は心配してくれたわけか。ったく、格好つかねぇな。
自由になっていた左手で頬をポリポリと掻くと、今度は薫が俺の体の上に乗っかって問いかける。
「結婚の話でも気にしてたの?」
「ばっ、そういうんじゃねぇよ」
「図星だ~♪」
「か、薫! 先輩を困らせないでください!」
「とか言って、困ってるは真理亜だったり~♪」
薫のお調子者も今日のは許容できそうにない。まあ、薫が怒る理由を知っているので、俺がどうと言えた立場じゃないが。
薫のイジリが今日に限って激しいのは、婆さんが言った真理亜との結婚の話だろう。多分、薫やほかのみんなの態度が変化したのはそれが理由だ。俺は断ったが、みんなにはそうは聞こえなかったらしい。いや、もしかしたらそこが原因じゃないかも。
考えてもわからない女の子の気持ちに俺は苦難するが、焦れったかったのか薫が単刀直入で聞いてきた。
「ねえ、恭介先輩。恭介先輩が結婚しない理由って、やっぱり自分が人間じゃないから?」
「……なるほど、な。そういうことか」
どうやら、みんなが怒っているのはそこだったみたいだ。
「何?」
「いや、何でもない。えっと、理由……だったな。はっきり言えばそうだ」
「やっぱり。今でも自分は偽善でみんなを助けたとか、言わないよね?」
「それは……」
答えることができなかった。昔、薫に言ったように、俺は偽善でみんなを助けたとは言えなかった。言いたくはなかった。でも、他に理由が見当たらない。俺は何のためにみんなを助けたのか、その理由をまだ知らなかった。
「はぁ。まあいっか。でも、恭介先輩。恭介先輩の考え方は間違ってるよ。確かに、恭介先輩は人じゃないかもしれない。けど、人と同じように誰かを好きになれるはずだよ?」
誰かを好きになれるはず。確かにそうだ。俺は誰かを好きになれる。なっていいはずだ。じゃあ、俺は一体誰が好きなんだ?
真理亜を見、綺羅を見、クロエを、薙を、夜羽を、春を、薫を見て、俺は違和感を覚えた。
この場にいる女の子を見ても、全員に同じ感情しか沸かない。全員に同じくらいの好きを感じてしまっている。俺は、全員を好きになってしまっている。
それに気がついた瞬間、全てのことが繋がったような気がした。
真理亜を助けたとき、俺はこのどうしようもない世界を命をかけて守ろうとしたバカを助けたくなったのと同時に、俺はそんな真理亜が大好きになった。
クロエを助けたとき、世界に否定された彼女が可愛そうだった。同じ境遇をもつ同士で共感が湧いた。でも、クロエは俺より強くて、一人でもなんでもできるように頑張る姿に俺は惚れた。
綺羅を助けたとき、綺羅は俺以上に俺を知っていて、影ながら俺を助けてくれたことを知った瞬間、俺は綺羅がいなくてはいけないんだと気がついた。そして、気が付いたら好きになっていた。
春の時も、薫の時も、薙も、夜羽も、全員が俺のために、自分のために世界に挑戦した。化け物となった俺にできないことを人間のままこなそうとした彼女たちを、俺は好きになっていた。だから、俺はみんなを助けた。守りたいと願った。
そうか。そういうことか。
ははっ、と小さく笑いを漏らして、俺はみんなの顔を見回した。
「はあ。俺って馬鹿だったんだな。やっと気が付くなんて。俺は、お前たちのことが好きだったんだ。そうでなきゃ、助けられないもんな」
「そ、そう。ふーん。薫たちのことが……そう」
何やら、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった薫。俺がハテナを浮かべていると、薫が慌てて話を変えてきた。
「そ、そんなことより、どうするの? これから、たくさんのことがあるでしょ?」
「ああ、そうだな。たくさんのことがありそうだな。まあ、手短に、俺は未来の俺を倒すことにするよ。勝たなくちゃ、お前たちとお別れすることになるしな」
ニッと笑って、俺は未来の俺を倒すことを決意した。
また明日も、その次も笑い合うために。俺は勝たなくちゃいけない。例え、未来の俺が正しかろうとも。
「じゃあ、まずは私たちを化け物にしてください」
「……真理亜。今なんて?」
「私たちを化け物に、て言いました」
「お、おいおい。まさか、不死になる気か? でも、あれは……」
「大丈夫です。後悔なんてしません。これはみんなで決めたことですから。先輩と、その……い、一緒に居るためには、どうしても寿命が邪魔ですから」
そう言って、真理亜が顔を隠す。どうやら恥ずかしかったらしい。
みんなの顔を見れば、決意は固まった目をしていた。みんな、不死になることを嫌がってなどいない。
……困ったな。ここまで愛されていたとは。俺も罪作りってか?
ははっ、と笑って、俺はみんなの名前を唱えた。
「――仲嶺綺羅――神崎真理亜――鵲夜羽――野々宮春――」
瞬間、みんなの体を黄金の鎖が縛り付けていく。しかし、次の瞬間、鎖はちぎれ契約が完成した。
これで、みんな不死になったのだ。
「みんな、体は大丈夫か?」
「はい。どうってことないですよ」
「そうだね。強いて言えば動きやすくなったって感じ?」
「うんうん。自分の体じゃないみたい」
「わ、私も大丈夫です、お兄ちゃん!」
契約が終わると、体を一斉に動かすみんな。そして、なぜか俺に抱きついてきた。
え? 何? ハーレム? マジで?
「これで同類だね。恭ちゃん」
「今度からは自分は化け物だからとか言わせないから!」
「そうですよ! これで逃がしません!」
「お、お兄ちゃんは私のぉ!」
あ、あはは。こりゃ、参ったな。
幸せの中で、俺は少しだけ困惑した笑いを上げていた。