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最強の人間、神谷信五

読んでくれると嬉しいです

 自らを神谷信五と名乗った恭介はポキポキと体の具合を調べるためにあちこちを鳴らす。

 そして、頷いたかと思うと笑いだした。


「いやー。この体はいい塩梅だな。俺の体よりも具合がいい。常に生まれ変わっているって感じだな」


 そう言って、目の前に立つ炎を身に纏うフレイを見ると、興味なさげに続けた。


「それにしても、お前は弱いな。さっきの攻撃が全力って言うなら、お前は全然強くない。正直言って興ざめだ」

「何? 僕が弱い? この僕を弱いと言ったのかい? ……ふざけるな」


 瞬間、フレイの火力が倍加する。怒りによる力の増幅だが、それを見てもなお恭介はふん、と鼻を鳴らして遠まわしに嘲笑う。

 いかに強くなろうと、自分には勝つことはできない。そう言っているようで、フレイの怒りは収まることを知らなかった。


「死ね」


 短い言葉とともにフレイの手から巨大な手形の炎が巻き起こる。

 それは恭介の体を包み込むように巻きついてくるが、恭介は軽く手を薙ぎることでその炎をかき消し、再度言った。


「言ったろ? お前は弱い」


 その姿が、その威圧が、恭介の全てが異様な空気を醸し出す。絶対に勝てない何かを作り出し、敵対する全ての存在を圧倒するように上からの目線で押さえつけてくる。

 フレイがこれは恭介ではないと気づくのに数刻の時間も必要なかった。否、異変が起きた時点でフレイは気がついていた。何者かに、この戦いを邪魔されているということに。

 しかし、その邪魔を阻むことはできなかった。

 何故なら、相手は自分よりはるかに強い存在になっているからだ。


「もう一度聞く。君は何者だ?」

「……神谷信五、最強の人間さ」

「最強? ふざけるな。人間がその土俵から出ることはない」

「ああ、そうだろうな。だからこそ、俺は最強だ。『人間』という枠外から突出した。ずっと前に『神をも下した』正真正銘の最強だ」


 言って、恭介は地面をつま先で突く。すると、地面は割れ、あたりを崩していく。

 その被害にフレイも巻き込まれ、炎を下に噴出していなければ作り出された地割れに体を持って行かれただろう。末恐ろしい程の力だ。その力を強敵(ライバル)である恭介の体から出されていることに少しの違和感も感じないが、フレイ自身が焦りを感じるのに理由は必要ないだろう。

 既にフレイに笑って戦うほどの余裕は存在しない。恭介との埋められない力量差をどうやって補おうかを必死に考えるが、プロメテウスの炎を使っても、その差は歴然だ。

 故に、フレイは一か八か全力を出すことにした。かつて、プロメテウスが人に与えた全てを焼き尽くす永劫の焔を発動する。

 フレイは全身を目に悪い血のような真っ赤な炎で包まれていく。


「これを食らってもそんな戯言が言えるかな?」

「はっ! 上等だ! やってみろよ。お前の焔が俺に届くことはないがな!!」

「言ってろ。飲み込め、『神の焔』」


 瞬き程の時間で、フレイを包んでいた焔が弾け、あたりを飲み込んでいく。避けることは許されない、全方位を隅々から燃やしていく炎を見て、恭介は小さくため息をついた。

 やれやれと首を振る恭介。その理由は至極単純、興ざめだった。


「つまらん」


 そんな言葉が漏れると、恭介の全身からありえないほどの圧力が世界に対して発動した。それは存在する全てのものを従わせ、恐怖させ、蹂躙する。それは、フレイが放った焔も例外ではなかった。

 全方位を燃やしていた焔が、消えることのない永劫の焔が一瞬にして消え去った。


「そん、な……ありえない……」

「この世にありえないことはありえない。いいか? 俺は最強だ。最強ってのはな、俺の上に誰もいないってことだ」

「き、君は神をも愚弄するのか!!」

「愚弄? 違うな。これは感謝だ。神は俺に二つのものを与えた。絶対に抗うことのできない力と、元の俺のイケメンの顔だ。神は、俺の上に人を作らない。下はたくさんいるがな」


 言動の何もかもがめちゃくちゃだ。しかし、それを押し通す力が今の恭介には存在した。

 神を下した神童。それが『真実を貫く拳』の所有者の肩書きだ。そしてそれは、世界の禁忌を犯した重罪人の罪名でもある。

 わがままを押し通すために力を使い、迫り来る正しさをただ自分の思い描く真実を貫くために破壊する。真理を破壊し、真実を突き立てる。それこそが、この能力の真骨頂だ。


「うっ……どうやら、持ち主がお目覚めのようだ。ふん、おいガキ。次会うときは、もうちょっとだけ強くなっとけよ? 少なくとも、俺と遊べるくらいにはな」


 恭介の体で、神谷信五がそう言うと、体が力なく地面に伏した。

 もうここに、世界を震えさせる最強はいない。それを感じ取ったフレイは詰まっていた息を静かに吐いた。


「まったく……君は常々僕を飽きさせないね」


 倒れている恭介に、フレイがそう言うと振り返り、校舎とは逆の方に歩いていく。

 それを観戦していた生徒会長が訪ねた。


「どこに行くんだい?」

「……ちょっと、強くなってくるよ。彼が起きたら、そう伝えてくれ。それと、僕の負けだということも」

「現状、勝ったのは君だと思うが?」

「あんな圧倒的な力を魅せられたんだ。僕としては負けを認めざるを得ないだろう?」

「確かにね。わかった。彼にはそう伝えておくよ」

「助かるよ」


 言って、フレイはどこかに飛んでいく。残ったのは荒れに荒れたグラウンドと、ボロボロの結界だ。

 生徒会長はポリポリと頬を掻きながらその惨状を見て、力なく笑う。


「さて、理事長の小言で済むかな、これは」


 妙なところで心配をする生徒会長の後ろで、完全に寝てしまっている恭介。はてさて、ここからどうなるのやら。真実は、神のみぞ知るというやつなのだろう。

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