紅蓮の狂戦士
本日2本目!
読んでくれると嬉しいです
ということで、俺たちはグラウンドに来ていた。
「……なあ、どうしてもやるのか?」
「当たり前じゃないか! これから今世紀最大の戦いが始まろうとしているんだぞ!?」
……戦闘狂もここまで来るとかっこよく聞こえるのは気のせいか?
とにかく、俺たちはこうして人目にバリバリ映る場所で戦わなくてはいけなくなった。
てか、これってまずいんじゃないか? 人目に移りすぎだろ。俺が授業中の教室に目線を向け、何人かがこちらを向いているか確認したところ、誰ひとりとしてこちらを見ていなかった。
それどころか、何もないように興味を感じられない。
一体どういうことだ?
「やあ、君たち。話に聞くと大それた喧嘩をするんだって? 面白そうだからボクにも観戦させてくれないか? もちろん、ほかの人には見せないけどね」
そう言って、俺たちの間に入ってきたのはついこないだお世話になった生徒会長の牙獣さんだった。
牙獣さんはいつもの飄々とした表情で俺たちを見据える。
「構わないだろう?」
「ああ、観戦者がいるのはいいよ。でも、巻き込まれないように気をつけてくれよ?」
「あはは。大丈夫さ。ほら、ボクは天才だからね」
何が大丈夫なのか分からないが、牙獣さんが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。というか、ここは生徒会長として喧嘩を未然に止めて欲しいのだが……。
まあ、牙獣さんの性格を知ってしまった今、こうなることは目に見えていたことだ。むしろ、生徒たちに見えないようにしてくれたことは感謝しなくてはいけないだろう。
俺はどう足掻いても逃げることのできない強敵との戦いに心を決める。
ポケットに手を突っ込み、一枚のメダルを握り締めた。
「どうしてもやるんだな?」
「ここまできて諦めることはできないさ。それに、僕は君と戦いたかった」
「仕方ないか……行くぞ、フレイ」
「ああ、来なよ。御門恭介」
俺がメダルを弾くと、フレイの全身が紅蓮の炎で包まれていく。
戦闘が開始した。それを感じ取った俺は素早く言霊を紡ぐ。
「俺、御門恭介が願い乞う。理念を貫き、世界を否定し、自身の力を夢の為に、仲間の為に使い、全てを圧倒し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、最強の人間神谷信五の力!」
瞬間、フレイの熱気と俺の力の威圧が地面に境界線を描く。
フレイも完全に力を解放したわけではない。当然、俺も力を全て出してなどいないが、果たしてこれでどこまで戦えるだろうか。
俺の能力のカウントダウンが始まっているのにも関わらず、両者とも動かない。動けない。相手が強すぎて、どう動いてもミスにしかならないのだ。
だが、このままでは俺の能力のタイムオーバーが来てしまう。
一か八か、俺は地面を蹴った。
「は、ああああああああ!!」
「遅いよ!」
前に駆ける俺に、フレイが放った火炎玉が向かってくる。それを、俺は地面を強く蹴ってジャンプで避ける。
「なるほど、ね!」
続いて、フレイが炎の壁を作り出す。その壁は俺の着地地点に設置されており、このままでは俺は足から燃やされてしまう。
俺は素早く足を踏み込み『空気を』蹴った。
完全に力が出ていないためか、中途半端な蹴りになってしまったが炎の壁に直撃は避けられた。
一瞬、フレイを見失った俺はフレイを探す。が、その間にフレイは後ろから俺に襲い掛かってきた。
「燃えろ!」
「当たるかよ!!」
俺は地面を思いっきり殴って、大きなクレーターを作り、向かってくる火炎玉の射程から体をずらした。そして、殴ったために中に浮いた大きな地面の欠片をフレイに向けて蹴り飛ばす。
フレイは余裕な顔で全身から炎を浮かび上がらせ、迫り来る地面の欠片を蒸発させた。
「このチート野郎が。どんな攻撃を当たらねぇじゃんか」
「君のほうがチートじゃないか。どんな攻撃をしても生き返るんだから」
「言えてるな!!」
言って、俺は地面に手を突き刺し、地面を『持ち上げた』。
持ち上げた地面をフレイに向けて投げる。だが、それすらもフレイは笑って蒸発させた。ほんとチートだな!!
「あはは。やっぱり君との戦いは面白いな!!」
「俺はちっとも面白くねぇよ! ったく、なんで久々に学校に来て戦闘しなくちゃいけないんだよ!!」
「いいじゃないか! 戦いは楽しいよ!!」
「お前と一緒にすんな!!」
始まって二分も立っていないのに、最初とグラウンドの形が随分と違うのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないな。地面には焦げた跡や、大きなクレーター、剥がれた地面の表面など、真新しい傷跡が残っていた。
こりゃあ、婆さんに怒られちまうな。
そんなことを考えながら、俺はもう一度同じメダルを握り締める。
残り時間が少ない今、これ以上戦うには全力を出すしかない。それに、フレイも全力を出すようだ。
「さて、ウォーミングアップもここまでにして。そろそろ戦おうか」
「もう俺の負けでいいから、やめにしないか?」
「やめてくれよ。ここからが楽しいんだろう?」
二度目の説得も失敗。となれば、残った道は……。
俺はメダルを弾き、言霊を紡ぐ。
「俺、御門恭介が願い奪う。信念を突き通し、偽善を破壊し、自身の力を困難という名の壁を破壊し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、真実を貫く拳!」
「万物を燃やせ、プロメテウスの炎」
メダルをキャッチすると、目の前に紅蓮の炎を着こなすフレイが立っていた。
チャンスは一度。フレイの大技の後の一瞬のみ。
俺はフレイの動きを見過ごすまいと集中する。一撃に、全ての力を込めるため、全ての細胞を使って集中した。
それを知ってか、フレイはそれすらも燃やし尽くすように高笑いしながら着こなしている炎を高ぶらせた。
「燃えろ、燃えろ! 燃やし尽くせ!! プロメテウスの炎!!!!」
「ちょ、これは避けれないだろ……」
どう見ても避けることなど許されない超巨大な紅蓮の炎のウェーブ。フレイのやつ、俺を本気で殺す気だな。
まあ、死んだところでどうってことはないのだが……。
――――ドクンッ
負けを認めたとき、俺の心臓が強く脈打った。
なん、だ?
意識が遠くなっていく。体の感覚が遠くなっていくような気がして、俺は意識を保とうと必死に足掻く。だが、それは強力な何かに阻まれた。
『負けるくらいなら、勝ちやがれ。そうじゃなきゃ、最強じゃねえ』
この声……どこかで……。
俺が最後に見たのは、迫り来る超巨大な炎のウェーブを片手で薙ぎる俺の姿だった。
「君は……何者だ?」
フレイの声が微かに届く。だが、俺からは何も言えない。その代わりに、俺の体が受け答えした。
「俺か? 俺は神谷信五だ。強いて言うなら人間だな。ただし、ほかよりも少しだけ強い、な」
ニヤッと笑うその表情は俺のそれではなかった。