俺が俺であるために……
や、やっとシリアスが終わった……?
読んでくれると嬉しいです
未だに全身が最強の力の副作用でもある硬直が続いている。
ったく。全力って言っておいて、力で俺を飲み込むか、普通? ありえねぇんだよ、この主人公は!
俺が歯を食いしばって雷を止めていると、
「はははは!! いいぜ、いいぜ、いいなぁおい! 最高じゃねぇか!! 巫女も、現状も、この馬鹿野郎もよ!! それでこそ戦いだ! それでこそ、主人公ってもんだ!!」
勝手に話してんじゃねぇよ! 集中が乱れんだろうが!
しかし、体が自由に動かない。力で、全身が潰れそうになる。
これが、最強の人間の本当の力。圧倒的なまでの抑圧力じゃねぇかよ。こっちまで、潰れそうになるぜ。
でも、俺には守るものが、守るべきものがあるんだ。こんなところでぶっ倒れっかよ!
「先輩!」
卑屈なまでの純粋な叫び。
自身を傷つけてまで、こんなどうでもいい町を守ろうとしているバカ。
俺は、そんな現実をぶっ壊す。
町のために生まれた人生なんて、そんなもんは嘘だ。嘘のために生きてきた人生なんて間違いだ。だから、俺はその嘘を壊す。間違いを正す。
それが、あいつの不幸になろうとも。幸せになろうとも。
確かに、俺には関係ないさ。あいつが死のうとも、俺は明日からものうのうと生きていける。きっと、あいつが言ったように神崎真理亜という存在を忘れて、笑って生きるんだろうさ。
「だけど! 俺は今、知っちまったんだ! あいつがこんなくだらないことに命を無駄にしようとしていることも、こんなくだらない人生を生きてきたことも、それに後悔してしまっているということも!! そんなもんを見ちまって、無視できっかよ! 目の前で泣いてる女の子を、泣かしたままにできっかよ! いい加減、そのデカイ力を渡しやがれ、クソ野郎ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
叫ぶ。弱々しくても、どんなに無駄でも、守りたいと願う心は無駄にはならないから。
俺が、守ろうとしている女の子はまだ、生きているから。
今ならまだ、間に合うから。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
脳の線が切れそうになる。顎が外れそうになる。喉が潰れそうになる。
だけど、それがどうした?
あいつはもっと苦しんだ。あいつはもっと悲しんだ。あいつはまだ、叫んでいるんだ。
助けてと、生きたいと。きっと、それはあいつにとっての禁句だ。禁句を言ってまで助けを望んだんだ。
出会って数日も経ってねぇよ。でも、人が人を助けようとするのに、理由も時間も関係ねぇだろ?
(おめでとう。この世界の主人公くん。お前は晴れて俺の力を掌握した。守りたいと願うその信念。そのためなら、たとえ全てを壊してもいいというその理念。本気で本物の感情だ。さあ、一発ぶちかましてこいや。お前のそのデッケェ信念が、誠の真実だと証明してこい)
俺の目の前に、俺と同い年くらいの黒髪の少年が拍手を俺に送っていた。
お前が、神谷信五、なのか?
少年はニヤッと笑って頷いた。その笑みが純粋な少年の笑みをしていて、ある種の輝きを放っていた。
俺も笑い、自由になった体を前に進ませる。
『ぜはははは!! 頭のネジでも吹っ飛んだか!? そのまま体も吹っ飛べや、小僧!!』
「危ない、先輩!!」
龍は俺に向かって、突進をしてくる。
それに、俺は右手を突き出し、ニヤッと笑う。
「安心しろ、神崎」
『なっ』
俺は突進してきた、自分より何十倍もの大きさの龍を右手一つで受けきって、神崎に笑みを送る。
「お前はもう、一人じゃねぇ。たくさんの人から支えられて、たくさんの愛情をもらって生きているただの人だ。俺とは違って、お前は生きているし、楽しい人生を生きてんだよ。だからよ。勝手に死のうとすんじゃねぇよ。そんなこと、誰も望んじゃいねぇんだからよ」
「せん、ぱい……はい。はい……すみません、でした……」
「わかりゃあ、いいんだ。生きろ。生きて、今までの無駄な人生の分を取り戻せ。もう一度言う。お前は生きている。生きてりゃあ、いいことだってあるさ」
俺は右手に力を込めて、握力で龍の鱗にヒビを入れた。
さっきまではあんなに硬かった鱗も、今ではただの紙のようだ。
ったく。最強の人間ってのはどんだけ怪物だったんだ? こんな怪物を圧倒する力なんて、普通ありえないだろうがよ。
「さあ、駄龍。そろそろ、終いにしようや。あいつのくだらない運命も、こんなくだらない戦いも」
『なっ、や、やめろ! そんなのを食らったら、俺様は――――!!』
俺は龍が逃げられないように、顔を掴んだまま左拳を握り締め、タメを作る。
そして、俺は叫びながら拳を振り切った。
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺が放った左拳は龍の体の鱗を貫き、鱗を吹き飛ばした。
そして、落ちてくる龍に俺は右拳を握り締めて、
「クソ野郎ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」
龍の鱗が剥がれ、肉となっているところに俺の右拳が激しい衝撃となって突き刺さる。
若干の自身への悲観を掛け合わせてしまい、八つ当たりのようになってしまっているが、それも合間見えて、龍の意識が消えかかているのがわかった。
そして、俺は再び叫んだ。
「カンナカムイ!」
名を叫ぶと、タナトスからもらっていた三種の神器である絶対服従を使用した。
無数の鎖が、龍の体を締め上げていく。
『な、何をする?』
「俺の仲間になりやがれ! 敗者は勝者の言うことを聞くもんだぜ?」
俺がそう言うと、龍は一拍置いて、笑いだした。
『がははは! 俺様を仲間に入れるだと? いつ裏切るかもわからん俺様を? バカじゃねぇのか、お前?』
「ああ、バカだよ。その上死なないっていうどうしようもないゾンビさ。でも、後悔はない」
『……いいぜ。なってやるよ。お前が、俺様を使役するのに値するのかどうか、見極めてやらァ』
「よろしく頼むよ」
そう言うと、鎖が契れ、契約は完了された。
龍は俺の下まで降りてきて、顔を下げていた。それはまるで、眷属が主に頭を下げているようで、なんだか背中がムズ痒くなった。
「カンナカムイ……って、長いから雷電でいいや」
『なっ……くくくく、まあ、今はお前が主だ。お前が付けてくれた名なら、しょうがないか』
「ああ、しょうがないんだよ。諦めろ」
笑い合う俺と龍。
そんな俺たちを見て、安堵したのか尻餅をしてしまった神崎を俺は見つけ、駆け寄った。
そして、俺は神崎に手を貸す。
「大丈夫か?」
「え? あ、はい」
神崎は俺の手を取り、立ち上がった。
その表情には、もう死のうという感情は見当たらなかった。
「あ、雨が……」
「ん? ……そういえば、止んでるな」
空を見上げると、さっきまでの雨はなかった。
眩しい太陽が強い光を垂らし出し、春の温かい日差しがグラウンドに入ってくる。
俺は伸びをして、体をほぐす。
「んー! あー。今日もいい天気だ。きっと、いいことがあるぜ?」
「先輩……そう、ですね」
『ぜはははは! 主は呑気なもだぜ!』
こんなに晴れていて、晴れやかな気持ちなんだ。いいことくらい、飽きるほどあるさ。
俺はボロボロになった上着を脱ぎ捨て、ポケットに手を突っ込み、教室に戻った。
さーて。言い訳はどうすっかな?




