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目覚め

読んでくれると嬉しいです

 目を覚ますと、そこは真っ暗な世界ではなかった。

 明かりがあり、景色があり、何より温かさがあった。……いや待て、ホントに温もりを感じるんだけど。


「ん~」


 目を覚まして早々に、俺は体から体温が消えていく感覚を味わった。

 この感じ、前にあった気がする。そう、あれは確か……。

 俺は恐る恐る自分にかけられている布団をめくると、そこには白い肌を堂々と見せる少女がひとり。花宮薫だ。

 すっと、布団を元の状態に戻し、俺はゆっくりと布団から出る。が、その前に、


「んー……あれ? 恭介、先輩?」


 どうやら、シーツの擦れる音で薫が目を覚ましてしまったらしい。俺を呼ぶ死神の声が聞こえる。

 こんな時、決まって世界は俺に不幸を呼ぶ。そう例えば、こんなふうに、


「先輩、起きました?」

「恭ちゃんの具合はどう?」


 俺がいた部屋の一つしかないドアが開き、二人の美少女が入室してくる。

 そして、二人は見る。裸の少女と、青い顔をしている男子が二人で部屋にいるという現実を。

 もう、ね。神様ってホントくだらない事に尽力するよね!

 当然、いつものようにナイフやら槍やらが飛んでくるのだと確信した俺は、動かず、逃げず、そのままの状態で立ち尽くした。

 しかし、俺の思っていたものとは全く違うものが飛んできた。


「先輩!」

「恭ちゃん!」

「おわっ! ど、どうした!?」


 刃物を警戒しただけあって、俺は二人の猛アタックに度肝を抜かれた。真理亜と綺羅が俺に抱きついてきたのだ。

 ……今日は、厄日か?

 いつも、あれほど攻撃的な二人がこうして俺にプラスのことをしてくる。大概、そのあとは何かしらの面倒事が待っているのだが、今日はそれの度を越えている。

 待て待て待て。これは今後の布石だ。そうに違いない。でも、でもだ。これはこれで嬉しいだろうがよ! なんだよ! 神様も捨てたもんじゃないな!

 さっきとは正反対なこと言っているが、これが思春期の男子というものだ。

 抱きついてきた二人の顔を見ると、二人共泣いていた。

 ……あれ? ちょっとおかしいぞ?


「ど、どうしたんだ? お前たちらしくもない。いつもなら、ナイフや槍を投げてくるものなのに……」

「投げたかったですよ! なんで、二ヶ月も起きないんですか! なんで、何度も心肺停止になんてなるんですか! クロエさんも寝込んじゃうし! 全部先輩のせいですからね!」


 全部俺のせいにされても困るのだが……。

 まあ、俺が寝込んでいたのは本当のようだ。押し倒された拍子に、ここがどこだかをはっきりとさせられた。ここは病室。そして、思い出してきた記憶から察するに、俺は意識を失って病院に運ばれたのだろう。

 そこまで勘付いて、俺は真理亜と綺羅の頭をそっと撫でた。

 心配、させちまったようだな。


「先輩のバカ。バカバカバカ」

「はは。返す言葉もないな。綺羅も、薫も、真理亜も、心配させてすまなかった。その、なんだ、もう大丈夫だから」


 俺は、空笑いをして、そう伝えた。

 しばらくして、抱きついてきた綺羅たちが俺から離れ、自由になった俺はいつからいたのかわからない生徒会長に声をかけた。


「生徒会長。もう、あんたが誰かなんて聞かねぇよ。ただ、ひとつだけ教えて欲しいことがある」

「はは。何かな?」

「神崎の婆さんの居場所を教えてくれ。できれば案内も頼みたい」

「……校長はお忙しい――」

「そんなことはどうでもいい。神崎の婆さんに確認しなくちゃいけないことがあるんだ。こっちは急ぎなんだよ。嫌だって言うなら、国王の命令としてさっきの言葉を再度問いかけるぞ?」


 怒気の含んだ重い言葉を生徒会長にかけると、生徒会長はいつものヘラヘラした笑いではなく、少し困ったような笑顔になって、頬を掻く。

 その背後から、見たことのある婆さんが入室してきた。


「何用かの。現国王殿?」

「こ、校長……」


 入室者は俺が通う高校の校長であり、前国王で神崎家の当主だった。

 婆さんは俺のベッドの横にある椅子に腰掛け、俺の言葉を待っている。

 タイミングは良くないが、ここには俺の過去を知る人物と、その関係者が存在している。あとは、親父達が来てくれれば万全なのだが、そうも言っていられないだろう。

 俺は、すっと息を吸って、


「神崎真里奈。知らないはずないよな?」


 パンドラの匣の蓋を、ゆっくりと開き始めた。

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