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覇王と魔王

読んでくれると嬉しいです

 表に出ると、外は暗く、気味悪いという率直な感想を思わせた。

 しかし、そんなことを考えている場合ではない。ここで足を止めれば、相手のいい的だ。すぐさま足を動かし、茂みに姿を隠す。


「あはっ。なんだかワクワクするね!」

「俺はお前のその能天気さにびっくりしてるよ!」


 相手に悟られないように隠れたにも関わらず、その意図をもろともしない大声を出して喜ぶ薫に俺は頭を抱えたくなって叫ぶ。

 せっかく身を隠してなんだが、近くに少なくとも仲間ではない気配を感じる。しかし、どこにいるのかまでははっきりしないため、無闇に動くこともできない。

 モヤモヤする感情を感じ取ったのか、薫は俺の背中に抱きつき笑う。


「相手の位置がわからないの? じゃあ、教えてあげるよ!」

「え? いや、お前何する気――」

「光よ――」


 薫が唱えた瞬間、あたりがまるで朝になったかのように明るくなった。

 どうやら、女神化をして副産物である光を撒き散らしているらしい。しかし、


「おま、バカじゃねぇの!? これじゃあ、俺たちの位置もバレバレじゃねぇか!」

「てへっ♪」

「てへっ♪ じゃねぇよ! ……ああクソ! 敵が来やがった!!」


 薫の光を求めて、多分三人の敵が旋回しながら俺たちを取り囲むように近づいてくる。

 どうする。一人一人を相手にしてると時間がかかる。かと言って、全員一斉には俺にはキツイ。

 俺が困っていると、真理亜がいつもの槍を手に俺の前に立ち、綺羅もスサノオからもらった勾玉を握りして俺の前に立つ。

 何をする気だというのは野暮だろう。こいつらのことだ、きっと一緒に戦うつもりだ。


「やめろ! 相手が手練だったらどうするんだ!」

「大丈夫だよ。それでも、私たちは勝つつもりだから」

「そうですよ。いつまでも先輩にいい顔ばっかりはさせません」

「そういう問題じゃねぇ! 手に余る敵だったら――」


 叫ぶ俺を無視して敵たちがこちらに走ってきた。俺は言葉を切ってポケットに手を突っ込んで使えるメダルを掴んで戦闘態勢を整えようとするが若干時間が足りない。

 迫り来る敵。だが、三人の内の二人は吹き飛ぶこととなる。


「おいで、スサノオ」

「行かせませんよ」


 俺の心配とは裏腹に、一人は日本神話の英雄、スサノオの顕現の余波により吹き飛び昏睡する。もう一人も、真理亜の最速の攻撃に体を突かれ意識を吹き飛ばされていた。

 残るは最後の一人。どうやら、最後の一人は薫を狙っているらしい。


「俺、御門恭介が願い乞う。理念を貫き、世界を否定し、自身の力を夢の為に、仲間の為に使い、全てを圧倒し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、最強の人間神谷信五の力!」


 一気に膨れ上がり全身を駆け巡る力が一瞬だけ体を縛るが、次の瞬間には俺は人間の領域を超えたスピードで薫と敵の前に立ち、握り込んだ拳を敵に向けて何の躊躇もなく突き出した。

 俺に殴られた敵は木を二、三本抉り取りながら倒された。

 開放した力を引っ込め、俺は無茶をした二人に怒りの表情を向けた。


「お前たちな!」

「いいじゃん。言った通り、勝ったでしょ?」

「そうですよ。負けませんでした」

「そういうことを言ってるんじゃねぇんだよ! もし、攻撃を受けてたらどうするつもりだったんだ!」

「まーまー。そんなに怒らないでよ、恭介先輩。薫たちだって何の考えもなしに動いたわけじゃないよ?」


 薫の緊張感のない喋り方に少しだけ怒りを覚えたが、倒した敵を縛り付けていた薫を見ると、どうやら言葉の意味は本当のようだ。

 その証拠に、薫はいつもの可愛らしい顔を冷たい表情に変え、どことなく真っ暗闇の方を見つめていた。

 俺も釣られてそっちを見ると、そこには少数ながらも嫌な予感しかしない集団が立っていた。


「……お前たち、いったい誰だよ」


 俺の率直な言葉を聞いて、集団の中央にいた青年が軽い会釈をした。


「やあ。当代の覇王様。少しばかり早いが、お前の命を頂く御門恭介だ。以後、お見知りおきを」


 青年の挨拶にこれまでにない違和感を覚えた。当然だ。『御門恭介』は『俺』なのだから。

 しかし、青年は自身のことを『御門恭介』と自己紹介した。つまり、相手は俺と同じ名前を持つ、男ということなのか?

 いや、それにしてはおかしい。このタイミングで、同姓同名のやつが来るなんて運命ではない。策略だ。

 俺はキッと青年を睨み、威嚇する。


「そう、怖い顔をするなよ。……ああ、断っておくが、同姓同名なのは偶然じゃない。必然だ。俺は、お前なんだからな。もっと正確に言うなら、お前より数十倍生きたお前だ」


 正直言っている意味がわからない。しかし、相手が強いということだけは理解できる。立ち方からしても、話し方からしても、その堂々とした姿は他に何も言わせない威圧感を醸し出していた。

 だからと言って、何もしないわけではないが。


「どういうことだよ! 前に、真理亜が来た時のように、タイムスリップしてきたのか? また、未来で何か起きたのか!」

「そういえば、そんなこともあったな。だが、安心しろ。お前の未来に、未来と呼べるものは存在しない」

「ど、どういう意味だよ」

「そのまんまの意味さ。お前はこれから数十年生きた末、殺される。仲間は犯され、陵辱の限りを尽くされ、無残に殺される。お前の未来は、未来じゃない。絶望という地獄だ」


 それが本当のことだとしても、嘘のことだとしても、それを平然と言えるコイツが俺のカンに触った。仲間を見殺しにしたコイツが、俺には許せなかった。

 だから、


「ふざけるなぁぁぁぁああああ!! お前は、お前は仲間を見捨てて来たのか!!」

「大声を出すな、ガキが。叫ぶことしかできないクソガキが。見捨ててきた? ふざけるな? 反吐が出る」

「なんだと?」

「いいか? 俺は勇者じゃない。英雄でもない。救世主でもない。……ただの化け物だ。力を持て余している知恵のある凶暴な化け物だ。化け物はな、ただ壊すことしかできないんだよ」


 青年の言葉に、俺は拳を強く強く握り締めた。

 今、何かの能力を発動すれば、俺はきっとあいつを殴りに飛ぶだろう。それほど、俺は怒り狂っていた。

 しかし、青年はそんな俺を見て、こう言ったのだ。


「お前じゃ何も守れない。これまで辛うじて守れたものが、いつか目の前で犯される。それを目の当たりにして、果たしてお前は平然としていられるか?」

「くっ……」


 言い返せない。きっと、今のように怒り狂ってしまうから。この怒りを誰にぶつければいいのかわからず、俺は地面に足を強く踏みつけた。


「そうだとしても、俺は諦めない! 何か、何か方法が――」

「お前は……いや、俺たちはそうだから負け、仲間を失ったんだ。学べよ、これまでも仲間を失いそうになったことがあっただろう?」


 俺の中にフラッシュパックするインドラとの戦い。俺は、真理亜と薫を同時に失うそうになった。あの時は鎖の力でなんとかなったが、次もそうだとは限らない。

 もし、そのことを言っているのだとしたら、俺には言い返す言葉もない。


「良かったな。あの時、突然鎖の使い方が分かって」


 その物言いに、俺は再び違和感を覚えた。

 確かに、あの時は突然鎖の扱い方が頭に入ってきた。だが、鎖はメダルと違って使い手の記憶なんてなかった。いや、それまでは感じ取れていなかっただけなのか?

 そう思った瞬間、俺の中で全てのピースが合わさった。

 これまで、幾度となくピンチになったことがあった。だが、その度々にメダルや鎖が反応して仇討ちを脱してくれた。もしかしたら、アレが俺の意思ではなく、主人公の意思でもなく、こいつの意思だったとしたら?

 そうだとしたら、俺はこいつに……。


「まさか……」

「やっとわかったのか。そうだよ。お前は与えられた力で、与えられた任務を遂行したに過ぎない。お前は、自分の意思で能力を使えたわけじゃないんだ」


 事実を聞き、俺は地面にへたり込んだ。

 じゃあ、真理亜を助けた時も、クロエも、綺羅も、薫も、春も、凪も……全部コイツが救ったのか? 俺は、使われただけなのか?

 俺は、立つことができなくなってしまった。足が、腕が、心臓が、脳が、体全体が力を失ってしまった。意識はあるのに、思うように体が動かせない。言葉も、俺の意思も伝えられない。

 俺は、完全に戦力外になってしまった。


「まあ、今日ご対面するつもりはなかったんだ。またいつか、相まみえる事があるだろうが、そのときはどうか、俺に殺されてくれよ」


 そう言って、青年は森の暗闇の中に溶けていく。

 俺は、青年の言ったことの意味を捉えると共に、さっきの言葉の精神的ショックが甚大だったため、心を閉ざし、覚めぬ夢の中に堕ちていった。

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