始まった現実
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事は二発の銃声だ。元々気配は察知していた俺は、夜にも関わらず床に入ったまま、周りのいやな感覚の元を探していた。
そこに放たれる二発の銃声。さすがに、動かなくてはいけないと思い、慎重に床から出たのだが、
「どこに行くんですか?」
「さっきから一睡もしてないのに、まさか戦う気なの?」
「それは無理だと思うなぁ」
俺が慎重に床を出たのは、俺の横で寝ているこいつらを起こさないためだったのだが、どうやら勘付かれたみたいで、三人の美少女は体を起こし、俺に話しかけてきた。
俺は、焦ったように見え見えの笑いを見せながら、言い訳を探す。
「あ、いや、その……み、水が飲みたいなぁって」
「お水ならそこの冷蔵庫にあるじゃないですか」
「あ、だから、水道水が」
「水道水もそこので十分です」
そう言って、真理亜が俺の嘘にツッコミを入れてくる。まあ、元々そんな嘘で騙せるとは思っていなかったが、ここまで完敗となると少しだけ悔しさがある。
しかし、他に嘘が考えられないため、俺は悩んだ末に本当の事を言うことにした。
「ちょっと、様子を見に行ってくるだけだよ」
「先輩の場合、様子を見るだけじゃ済まないじゃないですか。それとも、先輩の様子見は敵を殲滅することなんですか?」
「あ、えーっと、その……」
「真理亜ちゃんの言う通りだよ。恭ちゃんはいつだって様子見とか言って、事件の中心に行っちゃうじゃん。恭ちゃんはいいかもしれないけど、心配するこっちの身にもなってよね」
「……おっしゃる通りです、返す言葉もございません」
なぜか、美少女二人に言葉攻めされている俺に、ベッドの上で座っていた薫がいいことを思いついたような顔をして、勢いよく立ち上がった。
「そうだ! 私たちも様子見に行けばいいんだよ! そうすれば、恭介先輩も暴走しないだろうし」
「ダメだ! 俺が言うのもなんだけど、これから行く場所は危険なんだぞ?」
「そうだとしても恭介先輩なら、守ってくれるでしょ?」
う、と言葉を詰まらせる俺。
薫の幼い顔といい、言葉の内容といい、気恥ずかしいことこの上ない。しかし、当の本人、いや三人はそのことを確信していた。
どんなに危険な目に遭おうとも、俺がどうにかしてくれる。と
残念ながらそんなことはない。俺にだってできないことはあるし、精一杯の事をしても守りきれるかどうかもわからない。
そんな中に大切な仲間を連れて行けるほど、俺は頭は狂っちゃいない。
「ダメだ。お前たちは、ここに残れ」
「……強情だなぁー。真理亜と綺羅先輩はともかく、薫はいいでしょ? 死なないんだし」
「死なないとか、そう言う事を言ってるんじゃないんだよ。俺は、お前たちに怪我をして欲しくないんだ。だから、今は俺だけで行く」
そう言い残して、俺が歩き出そうとすると、俺の横に綺羅と真理亜が並んだ。背後には薫もちゃんと付いてきている。
どうしたことか……いや、わかりきっていたことだが、どうやらついてくるらしい。
「私たちは先輩に似て、強情らしいです。一度言い出したことは、絶対に曲げません」
「……それは強情じゃなくて、単なる我が儘だろ……はあ、どうなっても知らないからな?」
「大丈夫だよ。私たちだって、自分の身くらい自分で守れるから」
そう言って、三人は笑顔を向けてくる。
俺は顔を逸らして、三人に見えないように顔を赤くした。恥ずかしいったらこの上ない。でも、安心するのは確かだし、心強いのも確かだから断ることも強制できない。いや、したくない。
俺は、心から三人に感謝し、部屋を出る。すると、
「やあ、君たち。こんな時間に散歩かい?」
ドアを開けると、目の前に生徒会長が現れた。
俺たちは驚き、言葉も出せずにその場で立ち尽くしていると、生徒会長が朗らかな笑みを浮かべながら、道を開けてくれる。
だが、何が起こっているのかわからない俺たちはしばらくはそのままで立っていた。そうしたら生徒会長が俺たちに言葉を下す。
「行くのだろう? 散歩をしに。全く、君という劣等生は夜遊びが大好きなようだね」
「……あ、ああ。いや、生徒会長、あんた一体……」
「ああ、申し遅れたね。僕は君が通う大星高校の生徒会長であり、神崎家当主、そしてボクたちが通う高校の理事長を勤めている前国王の神崎亜矢の命令により君たちの監視を頼まれた天才美少女だよ」
ニコッと、可愛らしい笑みを見せて、生徒会長が改めて自己紹介をしてきた。
だが、それは自己紹介というには表面的すぎる内容だった。
「前国王って、神崎の婆さんが一枚噛んでたのか?」
「いやいや。実は頼まれたのはついさっきなんだよ。ボクは元々君に興味があった。だけど、学校のデータバンクには君の情報はほかの生徒に比べてはるかに厳重なブロックを敷いてあった、はっきり言って異常だ。だから、理事長である神崎亜矢の家にハッキングをしかけたところ、面白いデータがもらえたんだよね」
ニヤッと、先程までの大人な、可愛らしい笑みはそこにはなく、ただ背筋をゾクッとさせるほどの恐怖を覚えさせる姿だけが目に入る。
だから嫌なんだ、この人は。まるでなんでも知っているかのように、まるで心の中を見透かされているかのように見つめられる瞳。絶対の強者に睨みつけられているような錯覚を覚えるその姿。どう考えても俺の天敵だ。
「さあ行きたまえ。君たちにはやらなくてはいけないことがあるのだろう? 話は、そのあとでも遅くはないさ」
「あ、ああ。生徒会長はどうするんだ?」
「ボクかい? まあ、やることがないからね。コーヒーでも飲んで君のデータを徘徊するよ」
正直、やめてほしいのだが生徒会長は言ってもやめてくれそうにないので、諦めて俺は歩き出す。そんな俺の背中に生徒会長の言葉がかかる。
「ああ、そうそう。生徒会長なんて他人のように呼ばないで、親しみを込めて安○院と呼びなさい」
「絶対に嫌だからな!」
「あっはっはっは、冗談だとも。でも、今度からは牙獣とフレンドリーに呼んでくれると嬉しいな」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ眉を吊り上げ、小さく頷いた。
そして、再び止まっていた足を動かし、戦場に向かう。そこに、新たな面倒が存在するとは知らずに……。