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正義の愚者

読んでくれると嬉しいです

 木に寄りかかって眠っていた青年が目を覚ますとあたりは暗くなっていた。

 未だ眠い目を擦りながら、起こされた原因を睨みつける。その先には一つの校舎があり、それは中で寝ている自分と似た少年だった。


「お目覚めなのですよー?」


 青年は一瞬怒りで睨みつけていた目が、瞬時に寝る前の冴え渡った目に戻り、ずっと監視していたであろう部下の一人に問いかける。


「ああ、残念ながらな。……守備はどうだ?」

「良くないおじさんたちが接近中。距離千百メートルなのですよー」

「わかった……新月だな、いけそうか?」

「私を誰だと思っているのですよー?」


 スコープに目をつけたままニヤリと笑う少女。月の兎、夜見は神話で登場する兎の力を持った神霊である。よって、時間と場所に条件と制限を持つが、人では作り出せないありえない奇跡を巻き起こせる。例えば、今構えているスナイパーライフルで、見える範囲のごくごく小さな虫でも射抜くことが可能だ。

 そして、夜見の特性は断罪。悪さをした輩は、絶対に夜見には勝てない。

 故に、今接近してきている男たちでは、夜見には勝てるはずはないのだ。

 スナイパーライフルの引き金に指を通す夜見に、俺は待ったをかける。


「待て。銃声で目的物が動くかも知れない」

「そんなこと言っている場合なのですよー? 逃げられたら流石の私でも――」

「わかってる。だけど待ってくれ」


 スナイパーライフルを構えている夜見の背中を優しく撫で、今度は動きが収まった夜見の頭を優しく撫でていく。

 夜見は撫でられて弱々しい声を上げると、ふにゃっとその場に崩れてしまった。


「は、反則なのですよー」

「こうでもしないと、お前が銃を撃ちそうだったからな」


 などと言いつつ、撫でるのをやめないのは青年が可愛らしい姿を見せる夜見を面白がっているからだろう。

 しかし、事は刻一刻と進んでいく。しかも、良くない方向に。

 青年は撫でるのをやめると小さく舌打ちをして、普通の人では目視できない距離にいる男たちを遠視で眺める。

 数は五人か。明らかに戦闘経験がある奴らだ。果たして、あの俺に対処できるだろうか。

 考えるが、その間も敵たちは目的物がある場所に近づいていく。


「距離千メートルを切ったなのですよー」

「……」


 夜見ならば容易く射抜けるだろう。が、その結果がどう影響するのか考えたくもない。きっと、あの俺は俺たちを犯罪者だと決めつけ、戦いになるだろう。

 今はまだ、その時じゃない。


「距離九百メートルを切ったなのですよー」


 思考のスピードと敵のスピードが比例していない。仕方ないことだとは思うが、青年はそのことに憤りを感じ、再び舌打ちをする。

 どうする。どうするどうするどうする。

 焦り、緊張、久々に味わう戦闘の酸味。苦痛を思い起こさせる現状に救いの手は存在した。

 焦っている俺の肩に手を置いて心配そうな声を上げる八咫烏。どうやら、夜も更けてきたので監視をやめて戻ってきたらしい。


「恭介様……」

「……仕方ないか。夜見、距離は?」

「八百五十メートルなのですよー」

「……撃ち殺せ」


 俺が命令した途端、一発の銃弾が発射された。銃弾は音速を超え、敵の一人のこめかみを射抜いた。

 次弾が装填され無言で発射される。銃弾は状況を掴めていない敵の一人の今度は頭の側面を射抜いた。

 しかし、次弾が装填される前に、敵たちは咄嗟の判断からか、三方に分かれそれぞれ草むらに隠れてしまった。

 バレたな。

 冷え切った頭がそう判断し、スナイパーライフルを構えている夜見に戦闘中止の命令を送る。


「まだ行けるのですよー!」

「ダメだ。相手はこの地に詳しいみたいだ。きっと、俺たちの居場所も勘付いたはずだ」

「それでも――」

「今、お前たちを失うわけには行かないんだよ。わかってくれ、夜見」


 初めてスコープから目を離した夜見に、俺はそんな言葉をかける。

 すると、夜見はウサ耳をシュンとさせ、子供のように頬を膨らませながら小さく頷いた。

 俺は遠視で見える範囲で全ての状況を把握する。目的物がある場所に電気が点いた。どうやら銃声が聞こえ目を覚ましたようだ。男たちに関しては未だ隠れているようで姿は見えない。

 把握した上で、青年たちは場所の移動をし始める。


「ケルとアジ・ダハーカに報告。俺たちは場所を地点Aから地点Bに移動する。ウルスラグナは……勝手に来るだろう。さあ、行くぞ」


 移動を始めた青年たち。場所はわかっている。だが、どうにも不安が拭えない。

 青年は知っている。こういう時の不安は大抵計算外の事が起こると。そして、それは計算外も計算外、誤算中の誤算を引き起こす。

 移動先の近くまで来て、青年は自分が犯したミスを思い知った。


「ちっ……」


 目の前には捕らえられた男たち。そして、その先には目的物、御門恭介がいたのだ。

 恭介の背後には戦闘を行ったのであろう少女たち三人と日本神話の英雄、スサノオまでいる。

 これは、青年にとっての最大の計算ミスである。


「……お前たち、いったい誰だよ」


 キッと睨みつけられる青年。そして、青年の背後で少し困ったような顔をする夜見と八咫烏、そして飛んでついてきたアジ・ダハーカと野をかけてきたケルが合流する。

 青年は逃げられないと判断し、内心では焦りに焦っていたがそれを外には出さず、小さく会釈をしてから、堂々と、そして優雅に挨拶を交わした。


「やあ。当代の覇王様。少しばかり早いが、お前の命を頂く御門恭介だ。以後、お見知りおきを」

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