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閑話 その頃幼女達は……

読んでくれると嬉しいです

 しんと静まっている神社の奥、神崎邸が存在する普通の人には見えない場所で、ひとりの幼女が自分の境遇に愚痴っていた。


「つまんない! つまんないつまんないつまんない! ねえ、薙!」

「……私に言われても困ります」

「アタシがつまんない言ってるの! なにかして遊びなさいよ!」

「……わがままですよ?」

「むー!」


 大声で愚痴っているのはクロエ。恭介たちが合宿で家を留守にするのでその間、神崎の家でお世話になる予定だったのだが、面倒を見る春が恭介の父親に呼ばれて面倒を見ることができなくなったため、誰もいない家にふたりの幼女が居座ることになってしまった。

 しかし、あながち二人共限らなかった。


「仕方ないのぅ! ならば、こないだ買ってきてもらった新作のゲームをしようじゃないか!」

「……おい、アマテラス。俺の剣に変なものを押し付けるな。それとそこのガキにもだぞ? でないと、神崎の娘が怒るだろうが」


 ふたりの幼女の会話に割って入ったのは日本の最高神アマテラス。それに半目で酒を飲みながら睨むのはスサノオ。二人共幼女のお世話役(予定が全くなかったので半強制的に)としてふたりの面倒を任されているのが、問題が二つ。

 一つ目はアマテラス、スサノオは神であり、それによって人の面倒を見るのがとてつもなく下手だということ。

 二つ目は日本を代表するふたりの神は、正座でお茶を飲んでいる幼女、薙よりも私生活がぐちゃぐちゃで、ご飯など自分で作ったことがないことだ。

 よって、このふたりの神は、面倒を見るというよりも見られる側に居る。つまり、しっかり者の薙が三人の本当のお世話役なのだ。

 薙はお茶の入った湯呑茶碗をテーブルに置き、急須を取り出してお茶のおかわりをつぎ足す。

 その動作の一つ一つが様になっており、本人が幼女の体型でなければとても美しいものだっただろうと思わせる。

 茶をつぎ足し終えると急須を置き、小さく溜息をついた。


「……少し静かにしてもらえませんか?」

「いや、我は悪くないだろう!?」

「……黙れと言ったのですが? それとも、未だに私の所有者だとお思いですか?」

「ぐっ……だ、だがなぁ――」

「ほれ、黙らぬか。スサノオは昔から口うるさいだけの馬鹿な男じゃったからのぅ!」


 怒られているスサノオを隣で笑うアマテラス。とてつもなく大人げない気がする。

 スサノオもスサノオで今の言葉にカチンと来たのか、身を乗り出して反論する。


「元はといえば、アマテラスがいけないのだろうが!」

「はっ! 私は最高神じゃぞ? 良いも悪いも私が決めるのじゃよ!」

「こんの、なんちゃって最高神が! なぁにが良いも悪いも私が決めるだ! 引きこもりのクソニートが!」

「なっ……私はそこまで言ってないじゃろうが!」


 本気でにらみ合う神二人を中心に神気が沸き立っている。

 常人ならば、これに当たられただけでも意識を飛ばし現世に帰ってこられるかわからない濃度だが、幸いなことにこの中に一人して常人など存在しなかった。

 事の発端であるクロエはアマテラスが持ってきたゲーム機と新作のゲームに夢中で今では布団に寝転がってゲームを上機嫌でしており、お世話役の薙はずずっとお茶を飲みながら外を眺めていた。


「そもそも、私は引きこもってなどおらん! ひ、日焼けが気になるのじゃよ!」

「日焼けなんぞ、服を厚着すればいいだろうが! 引きこもっているのがバレバレだ!」

「くっ……お前だって、昔の女を忘れられずに黄泉の国までたまに行くくせに!」

「い、今はそんなことは関係ないだろうが!」


 白熱する(?)戦いがふたりの神気をますます増加させ、とうとう住宅にまで神気が影響を及ぼし始めた。神気とは、神の放つ神々しいオーラだ。神というのは善悪強弱老若男女問わずひれ伏させる力であり、それは存在する全てに関与する。

 つまり、神気に当たられた物体は脆くなるのだ。

 ミシミシと神崎邸から嫌な音と揺れが体感できる。


「な、なにこれ!?」

『ふむ、あの二神の口論がこの屋敷を風化させているようだな』


 現状に気がついたクロエはゲームを放り出して布団の上に立ち上がった。

 叫ぶクロエに冷静な一言を下すのはクロエの相棒の原初の神、カオスだ。

 クロエは同い年の容姿を持つ薙(実際は何百歳という年齢である)に抱きつき、この状況をどうにかできないかを無言で請求する。

 薙は抱きつかれながらも冷静に湯呑茶碗を傾け、ずずっとお茶を飲みながら二神の口論を眺めていた。


「昔の女がそんなにいいか! スサノオはいつから年増が好きになったのだ!」

「バカ言え! 我は万年若い子が好きだ!」


 はっきり言って子供の喧嘩である。しかし、子供の喧嘩でも家一つを簡単に壊していしまうのだから見逃すわけには行かまい。

 薙はお茶のなくなった湯呑茶碗をテーブルの上に置き、すっと立ち上がると、二神の間に立ち手を挙げる。


「邪魔立てするな(つるぎ)!」

「そうだ! これは我らの戦い――」


 シュンと甲高い音を上げて挙げていた手が降り下りされた。

 瞬間、薙を中心に一本の線が引かれ、その線を挟むように二神が立っている。


「……この線から出ないでください」

「じゃが――」

「出ないでください」

「だがな――」

「出るな、と言っています」


 怖い。薙という人物は普段から無表情だ。そして、無表情が怒ると非常に怖い。真っ暗の中でホラー映画をヘッドフォンをつけて見ているくらい怖いのだ。

 二神は薙を本気で怒らせたのだと瞬時に気がつき、恐縮したようにぴたっと口論は収まった。


「……もう、十二時ですね。お昼の時間です」


 言って、薙はトテトテとキッチンに向かって歩いて行った。

 残された三人とカオスは再びしんと静まり、昼ご飯が出来上がるのを待つために静かにリビングに向かった。

 結論を言おう。幼女達は今日も自由気ままにマイペースに生きてます。

凪が強い(確信

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