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人が人であるための言葉は何か――――?

そろそろこの件終わり……?


読んでくれると嬉しいです

 これはどういうことだろう?

 目の前で、死にかけていた少年が私のために力を振り絞り、あれ程までにボロボロの体で力の権化であるドラゴンを相手にしようとしている。

 止めなくては、そう考えていたのも束の間。少年は叫ぶ。


「俺に力を貸しやがれ!!」


 少年が手にしていたメダルが光り、少年の力が大きくなっていくのが見て取れた。

 本当に、彼は私を助けるつもりなんですか? 一度は殺そうとした人なのに。またいつ裏切られるかもわからない人なのに。そんな人を助けるというんですか?

 私は感極まって涙してしまいそうになるが、少年の異変に気がついた。


『て、てめぇ、何者だ?』

「――人間だよ。ただ少し強いだけのな」


 彼は、決してそんなことは言わない。短い付き合いだけれども、彼は一度だって自分のことを人間だとは言わなかった。

 もちろん、怪物とも言わなかったが、彼はもう人ではないと勘付いているのかもしれない。

 なのに、今の彼はそれをゆうに無視した。


「せん、ぱい? どうしたんですか?」

「ああ? ああ、こいつの彼女か何か? まあ、安心しろ。お前は俺が守ってやっからよ。こいつの体を使って、俺があいつを狩る」


 狩る? 名前だけを聞けば龍神の加護を受けた雷神を彼は今、狩ると言ったのか?

 ありえない。そんな力が人間に備わっているとは思えない。

 しかし、次の瞬間少年は空を飛んだ。否、空気を蹴った。


「知ってるか? 空気ってのは何も吸って吐くだけのもんじゃねぇ。こうやって――」


 一気に駆け上がり、ドラゴンの目の前まで飛ぶと、再び空気を蹴り、


「蹴るもんなんだよ」

『ふんっ! てめぇの蹴りは通用しねぇって――がはっ!』


 ドラゴンは顔面を蹴られ、吹き飛ぶ。

 余裕を見せていたが、何も守りを入れていなかったわけじゃない。なのに、少年はそれすらもお構いなしに吹き飛ばしたのだ。

 圧倒的すぎる。こんな力が、一体少年のどこに?


「おいおい。龍神のように見えるのに、それっぽっちか? てめぇも大概だな。弱すぎんだよ」

『てめぇ……こっちが力を出し切ってねぇのによくもまあ大口が叩けんじゃねぇか!』

「なら出してみろよ。全力のお前を狩ってこそ、最強の意味がある。俺を楽しませてみろ、この駄龍が!!」


 再びの衝突。激しい衝撃波が地面をえぐり、亀裂を生む。

 私は、見ていることしかできなかった。

 なんですか、何なんですかこれは! 桁違いじゃないですか!


「オラオラオラオラ! 本気出してその程度か、ああ!?」

『餓鬼が! ふざけるのも大概にしやがれってんだ!!』


 雷が飛び、拳が突き刺さり、血反吐を吐く両者。怪物映画でも見ているんでしょうか? でも、怪物映画はこんなゲスいものではないですかね。

 私は口をぽかんと開け、両者の楽しそうな二人だけの戦争を見ていた。

 しかし、少年は私を助けてくれた少年とは変わってしまった。

 人格が入れ替わるかのように、まるで何かに取り付かれたかのように。


「せ、先輩!!」


 気づいたら、私は先輩と叫んでいた。

 

「なんで変わっちゃうんですか!! 本当のあなたで勝ってくださいよ!」


 こんなことを言っても、きっと先輩には届かない。

 そうわかっていても、


「守ってくれるなら……最後までカッコつけたまま勝ってくださいよ、バカぁぁぁぁああああ!!」


 私は、私の心の全てを込めて、目の前の力を振り回す先輩に言葉をぶつけた。

 すると、先輩の動きが鈍くなる。

 目の前まで来ていた雷が、先輩に直撃してしまいそうになる。


「先輩!!」


 私は焦って先輩を呼ぶが、その心配はいらなかったらしい。

 先輩は右手で雷を受けきり、私の方を向いた。


「ほほぅ。俺の圧倒的な力を突き返すか。いいぜ、巫女。もっと叫んでみろ。お前の声で、眠っている彼氏を起こしてみろよ」

「か、彼氏なんかじゃないです! 起きてください、先輩!」


 先輩の体がぴくりと反応するのが見えた。

 まさか、起きかけている? 私が叫んだから? まだ、私を助けようとしているから?


「バカはねぇだろ。こちとら一生懸命抗ってんだぜ? 応援の一つでもしたらどうだよ」


 ニッと笑った先輩の顔が、いつもの先輩の笑顔で、私は不快にも涙してしまった。

 ボロボロの体で、きっと痛みで何も考えられないだろうに。それなのに先輩は、無視しても何の危害もない私を、むしろ無視したほうが利益があるような私を助けようと、血まみれになりながら、痛みに耐えながら、抗っていると言ってくれた。

 そのせいで、私はポロポロと涙をこぼす。

 これほどまでに、私を一人の人間として見てくれた人がいるだろうか。

 今まで、巫女として、贄として、神の住まう器として扱われてきた私を、先輩は一人の人として見てくれる。

 

「ったく。そんな悲しそうな顔すんじゃねぇよ。俺はここにいんだろうが。それとも、俺がいない方が良かったか?」

「いえ……いえ、いて、ほしいです。わ、私を、助けて、欲しいです」

「聞こえねぇぞ!! もっとデカイ声で言いやがれ! 世界に響くくらいデカイ声で叫びやがれ!! お前は今、何がしたい!!!!」

「わ、わた、私は! 生き、たいです!!!!」


 腹に込めた空気を、心の中でずっと思っていた感情とともに吐き出す。

 生きたい。死にたくなどない。友達がいる、家族がいる、先輩がいるこの世界に生きていたい!!

 ああ、私は、先輩のことが……。


「はっ。やっと自分に正直なったのか。そうだ。人生を持った人は、簡単に死んじゃいけねぇ。死にそうになったって、抗わなきゃいけねぇんだ。死を受け入れちまったら、そいつはもう人じゃない。人が人であるために必要な言葉はただ一つ『生きたい』それだけだ」


 先輩は、優しい、勝ち誇ったような笑みを私に向ける。

 ちょっとムカっとしたが、それが先輩なのだとわかったから、私も笑みを返した。


「はい……すみませんでした」


 死のうと考えていた私は、先輩を無意識に怒らせていた。

 それを今、謝ったのだ。

 そして、再び生きるための戦いが始まった。

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