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平凡が珍しいのは気のせいか?

読んでくれると嬉しいです

 コンコンコン。リズムよく黒板に打ち付けられ、擦られて色をつけていくチョーク。それに合わせて、シャーペンの微かな音が耳にやさしい。

 俺は机に広げられた宿題と睨めっこしながら、時には黒板の文字を見たりして、実に普通な学生生活をしていた。

 うん。なんかね? 日常が落ち着かないんだけどね? 俺はそんなにスリルを求める少年だったかな?

 俺は普段なら喜ぶべき平和というものになぜか緊張感を持ち、いつどこから敵が襲ってきてもいいように意識を集中させていた。まるで、中学二年生のような心情だ。

 ああ、テロリストが来ないかなぁー。なんて、不謹慎なことが考えないが、それに近い考えを起こしている時点で末期だ。まあ、そういう考えになってしまうのもある意味仕方ないことなのだが、それにしてもこの平和は俺としては由々しき自体だ。

 大概、こういう平和のあとは面倒が降ってくるように相場が決まっている。今にも、誰かが襲われただ、誰かが消えただと周りがうるさくなる……はずだよな?


「御門恭介くん。この問題だけど……」

「あ、はい。えっと、さっき出した数式をXに代入すればいいんですよね?」

「そうだよ。そうしたら、次の問題だ」


 ちなみに、さっきから黒板でチョークを使って宿題を説明しているのは天才の生徒会長さんだ。

 生徒会長さんは俺が答えた問題が合っていることを確認してから、うんと頷いて次の数式を黒板に書き出す。その際、手には教科書等の参考書は存在しない。生徒会長曰く、数式が全て頭に入っているとのことだ。

 全くね。なんだろうね、この差は。どうして人ってこう、理不尽を作り出さなきゃ生きていけないの? そんなに自分を惨めに見せたいの? マゾなの?

 俺は黒板に書かれた数式を見て、それに代入する形で問題を解いていく。


「問題は解けたかな?」

「まだです。えっと、ここは……」

「あ、ここはこの数式を使うんだ。……そう。そうしたらね――」


 生徒会長さんのやさしい教え方は解き方は知っているけどその過程はよくわかっていないクロエと違ってわかりやすかった。

 いや、クロエの教え方が悪いとは言わないけど。さすがに小学生に教えてもらう高校数学ってなんかおかしいでしょ? いや、俺が数学ができないのがいけないんだけどね?

 そう考えると、俺はつくづく女の子に頭が上がらないところが多いなと思いながら、俺は山積みになっている宿題の山を一瞬見て、はあ、と溜息をついた。


「ホントにこの宿題終わるのかよ……」

「終わるさ。一日二十五時間くらいすれば」

「すみません。一日は二十四時間ですよ?」

「はっはっはっは! そんな細かいことは気にしないでくれたまえ!」


 ダメだこの人。大事なところが抜けている……。

 俺はさっきまで尊敬すら覚えていた生徒会長に少しだけ肩が重くなるような感触を感じながらカリカリとシャーペンを走らせる。

 そういえば、先ほどから背後で殺気を感じるのだが……大丈夫だ問題ない。後ろで包丁を研いでいる綺羅や笑顔で槍を握っている真理亜や、笑っていない目で女神の力を解放している薫なんていなかったんや。

 俺は現実と言う理不尽から目を逸らし、宿題といういくらかの仮設的希望に逃避した。


「あっはっはっは。君のお友達はなんともユニークな性格をしているんだね!」

「俺はそこまでポジティブになれませんよ!」

「? 何を言っているんだい? ほら、今夜の調理のために包丁を研いでくれていたり、君が寝ないように叩く棒を用意したり、君が勉強しやすいように光を当ててくれているじゃないか!」


 違う! 違うんだ生徒会長さん! 確かに、(俺を)調理するために包丁を研いだり、俺が寝ないように突き刺す槍を持ったり、俺が殺しやすいように光を当てているけれども! 断じて、生徒会長さんのような考えのものじゃない!

 俺は背後にスタンバッている処刑人に背筋を凍らせながら、ゆっくりシャーペンを動かす。

 止まるな。止まったら、もれなく俺の心臓が止まる!

 嫌な汗が俺の頬を撫でる。すると、


「おっと、この部屋の温度は高いかい?」


 そう言って、生徒会長さんが俺の頬を伝う汗をハンカチで拭った。

 瞬間、俺の頭の横を鋭利な刃物がマッハの域のスピードで通り過ぎ、壁を貫通させていった。

 ばっと振り返ると綺羅がギランとした鋭い目で俺の顔を見て、ニヤリと笑った。

 ……怖い。非常に怖いんですけど、これやだー。

 吹き出す冷や汗。それを首をかしげながら何の悪びれもなく拭き取って行く生徒会長さん。

 この悪循環はおかしいだろうか。いいえ、誰でも。生死ー♪


「うむ。おかしいなぁ。部屋の温度は下げたけど、まだ暑いのかい?」

「い、いえ、お構いなく……」

「そうはいかないよ! この合宿は君の進級が掛かったものなんだからね!」

「そこまで悪くねぇよ!」

「この前のテストの点数を公表してもいいのだよ?」

「マジすみませんなんでもしますからそれだけはやめてください」


 なにげにこの人性格悪くない? いや、俺の点数そこまで悪くないよ? 国語が二十点で、数学が十点で、英語が二十九点かな? 盛ってないよ? 盛って、ないからね?

 俺は生徒会長さんに脅され、背後でプレッシャーをかけられ、いったい心の平穏はいつ訪れるのか。ちなみに、寝るときも安心できない。女子軍に体を絡め取られながら抱き枕化しなくてはいけないし、かと言って起きているとインドラが絡んでくるし……

 ホント、この合宿嬉しくないです! 女の子の裸見たり、女の子に抱きつかれたり、女の子に舐められたりしたけど、嬉しくない! 嬉しく……ない……はず!


「さあ、そこの問題が終わったら昼食にしよう」

「ら、ラジャー……」


 当然、そんなことを考えたところで現実は変わることはしないし、そう簡単に変わっても困る。

 ここが終われば一応は休憩だ。休まらない休憩だけど、ほんのちょっとの気分転換にはなるだろうから、俺はそのためにシャーペンを走らせた。

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