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ハーレム=楽園といったい誰が決めたのか

読んでくれると嬉しいです

 合宿二日目の朝、俺は右も左も腹の上にも美少女の顔があって、正直もう慣れた。いや、慣れるという言葉はおかしいのだろうが、合宿以前に自分の家でそうなっているのだから仕方ない。

 だがしかし、俺の身動きを止めている美少女たちはまだ起きる気配がない。つまり、俺は全身を縛り付ける少女たちの体を上手くすり抜けなくてはならないのだ。


「とはいったものの、これどうやってすり抜けるんだよ……」


 言葉で言うのは簡単とはよく言ったものだ。右では真理亜が俺の腕を抱きしめていて柔らかいものが素晴らしく感じられる。左では綺羅が俺の腕を抱き寄せ、柔らかい太ももが俺の手のひらを挟み込んで指一本動かせない。腹の上では夏にも関わらずものすごい厚着をしている薫が可愛らしい寝息を立てながら幸せそうに寝ている。

 これをどうやってすり抜けろと? 真面目に十秒だけでいいから時間を止められないかな? チェンジザワールドとかなんで使えないの?

 などと愚痴でもない愚痴を漏らし、俺はそのまま美少女たちの抱き枕でいようと心に決めて小さな溜息をついた。


「君も大変だね。確かに、英雄にはそれ相応の女神が必要だが……」

「……あのすみません。なんで神様がここにいるんですか?」


 静かな部屋で声を上げたのは、昨日の夜に俺のそばにいると宣言したBL野郎……インドラだった。

 しかしね、なんだろうね。インドラから殺気ではない、嫉妬心なるものを感じるのは気のせいかい? いや、気のせいだよね? そうだよね?

 インドラは英雄神でありながら、先日間違いを犯し、俺によって制裁を下されたのだが、さすがは神というべきか、致命傷を食らっても一ヶ月くらいで直してきたのだ。

 そして、インドラ曰く、俺に興味ならぬ興味を持ったらしく、負けたことを言い訳に俺の傘下に勝手に下り、挙句俺のそばにずっといるという誓約まで一方的に交わしやがった。

 そういえば、いつの間にかフレイのやつも俺の仲間に認定されているが、フレイもフレイで俺の傘下にいれば俺と戦えるから仲間になったとのことだ。

 いやね? 美少女が増えるのはいいんですよ。ええ、いいですとも。でもね? イケメンは嫌いなんだよ! なんでこの頃俺のそばにはイケメンがよってくるのかな!? しかも、何かと俺に興味あるやつ! 頭おかしいだろ!?


「どうかしたのかい?」


 すっと顔を近づけてくるインドラ。

 待て待て待て! 近いから! 顔近いですから!

 俺は両腕を塞がれているため、近づいてくる顔を押し返すこともできずインドラをテリトリーに踏み込ませてしまった。

 インドラは心配というよりも楽しんでいるようで、俺になおも顔を近づけてくる。


「恭ちゃんは~……私のもの!」


 勢いよく俺とインドラの顔の間を皮一枚で通り過ぎていったのは鋭利な包丁。

 投擲者はぐっすりと寝ている綺羅様です。

 あっぶねぇ! 綺羅のやつ、いつの間に精密投擲ができるようになったんだ!?

 俺は一瞬でグッショリになった背中をそのままに、投げられた包丁を見て生唾を呑んだ。


「おやおや。君の伴侶は中々に凶暴だね」

「は、伴侶!?」


 俺が裏返った声で言うと、今度は輝かしい槍と翼が目に入り恐怖する。

 伴侶という単語は、二人の潜在意識を無視して本気を出させるトリガーなのだ。つまり、この場合俺が死ぬか、インドラが死なない限り収まらない。

 そして、今の状況から見て、死ぬのは俺だ。


「ま、待て、真理亜! 薫! 俺を殺したら元も子も――」


 次の瞬間、合宿所のベッドが真紅に変わり、俺はというと肉塊とかしていた。





 体が元に戻るまでの十分間。俺の鮮血を浴びた少女たちは俺が肉塊になったことに気がつき、いつものように体に付着した血を流しに朝からシャワーを浴びに行った。


「君の不憫だねー」

「そう思うなら、二度とあんなことするな。いいな?」

「フリかい?」

「ぶっ飛ばすぞ?」


 俺はなんとか復活した頭でインドラと会話しながら体が戻るのを持っていると、血を流した少女たちが部屋に入ってきた。

 そして、笑顔で、


「おはようございます、先輩」

「おはよ、恭介先輩♪」

「おはよう、恭ちゃん」


 といつもの挨拶を交わして、俺の目の前で着替え始めた。

 わかるかみんな、これが倦怠期の夫婦の姿だ! 違うか。違うな。


「はっはっは。君は不憫だねー」

「言うな。悲しくなる」


 俺は着替えが終わるまで目を瞑っていると、しゅるしゅると絹が擦れる音と、ピトッと肌が触れ合う音が……肌が触れ合う音?

 体が回復するまで約十分。綺羅たちがシャワーに行っていた時間約九分。こうしていた時間、約一分。まずい。非常にまずいんじゃないか?

 試しに腕を動かしてみると……感触がある。

 サーっと血の気が引いていくのが分かる。


「へへ♪ 恭介先輩あったかーい♪」


 感覚が回復していくに連れ、空気とは違う冷たさが俺の肌にまとわりついているのが分かる。

 はっはっは、薫はお茶目だなー。いいかい? こういうのはふたりの時だけとなんと言ったら……はいすみません。薫さん、一刻も早く離れてください。


「か、かかか、薫!? おま、何して――」


 驚きすぎて、目を開けると裸の薫が俺の胸に抱きついてきていて、頬ずりまでしていた。いや、それ以前に、視線を前の方に動かしたのがまずかった。目の前には真理亜と綺羅がまだ着替えているのだ。

 つまり、今の俺の視界には裸で抱きついてきている薫と、黒のブラジャーとパンティーを履いている真理亜、手で胸元と下半身を隠している綺羅がいた。

 あー。オワタ。


「せ、せ、せ、先輩のエッチ!!」 


 真理亜の強烈なビンタを抵抗もできず食らい、呆然としていると目が笑っていない綺羅が俺に質問してくる。


「はは、恭ちゃん。今日は何回死ぬの?」

「こっちが聞きたいです」


 グサグサとどこに隠していたのか包丁を連続で投擲させ、俺の胸元に深く沈む。

 ドバドバと本日二度目の流血を見ながら、俺は俺の胸元にいた薫がどうやって逃げたのかを本気で考え始めた。

 当の本人は、再び俺の胸元に顔をくっつけるとペロッと生暖かい舌が俺の血を少量持っていった。


「ふふっ、おいちぃ」


 舌をちょっと出して、薫がまるで犬のように俺の血を舐めていく様を見ながら、俺は顔面に光の槍を食らい、二度目の死亡を確認したのだった。

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