夏だ! 海だ! 魅惑の女の子だ!!
季節が若干ずれてる気が……まあ、それは置いておいてレッツゴー!
読んでくれると嬉しいです
季節は夏! 夏と言ったら海! 海と言ったら麗しき魅惑のボディーのお姉さん! つまり、男たちの季節の到来だ!!
男は女のケツを追い。女は男に持て囃される! ああ、何とも素晴らしいかな、夏景色!
しかし! 御門恭介はそんなことを言っている暇など一切ない! 何故なら、俺には一瞬でも女の子に目がいった瞬間に首がちょんされてしまうからだ!
そんなこんなで、魅惑のエロエロボディーのお姉さんたちを見られないまま、俺は生徒会長、真理亜、綺羅、薫の五人で海に来ていた。
「な、なあ、勉強会に来たんじゃ……」
「何を言うんだい! 勉強なんて二の次だ! 今は、こんなにも可愛らしい女の子たちの見るからに美しい体を独り占めできるんだよ!?」
「いや、独り占めって……」
確かに、生徒会長が言うことはある種正しい。勉強などよりも、男である俺からすればこちらのほうが何倍もマシだ。しかしだ。俺の良心が、その美しい体を見ていていいのかと訴えてくるのだ! 後輩や幼馴染の露出を間近に見ていてホントにそれでいいのかと!
俺は自分の中にいる天使と悪魔の全面戦争を目の当たりにしていると、着替え終わった綺羅たちが出てきた。
「いきなり海に行くって言うから、即席の水着しかなかったよ」
「で、ですね。私も、ちょっと胸がきつくて……」
「えー! 真理亜、もしかしてまた胸が大きくなったんじゃない!? ずるい! 薫なんて、成長の兆しが止まったっていうのに!」
じゃれ合いながら(?)こちらに来る三人を見て、俺は危うく鼻血を出しそうになった。
それもその筈、綺羅は即席の水着だというが、三人の露出度が半端ない。真理亜に関しては胸元から股まで多く開いたザ・大人の水着を着ている。
綺羅は赤のビキニで、貧乳ではないが真理亜と比べるとかなり小さい胸だったのがなぜか色っぽく見える。
薫は……やめよう。これ以上言ったらなぜか、かわいそうになってくる。スクール水着だなんて絶対に言えない。しかも、それが似合っていて逆に可愛いだなんて口が裂けても言えはしない。
「いやー。眼福眼福。さて、ボクも着替えようかな」
そう言って、生徒会長が俺の隣で服を脱ぎだした!!
いや、待って! 着替えるってここで!? あんたには恥じらいってものがないのか!?
「な、なっ……」
「うむ。どうかしたのかい?」
見えなかった。いや、着替えシーンを見る気は毛頭なかったのだが、それにしても服が擦れる音がしたと思った瞬間、着替えが終わっているなんて……。
生徒会長がどういうテクニックを駆使して着替えたのかはわからない。だが、その技術に、俺は完全に敗北したと言わざる負えないだろう。
なんだろう、この敗北感。これが牙獣クオリティ……。
俺が生徒会長の最大のポテンシャルに敗北した瞬間であった。
「なんだ。生徒会長は下に水着着てたんだね」
「当たり前じゃないか。一秒でも長く楽しみたいからね」
……なんだ。最初から着ていたのか。ははっ。そうか。俺は、敗北したわけじゃないのか……。
俺は、生徒会長に完全に敗北したわけではないということを知り、少しばかりの心の平穏を取り戻し、水と戯れる楽園を見る。
「ああ……」
そこには、四人の女神がいた。
ちゃぷちゃぷと水の上で遊んでいる薫と、生徒会長に水をかけられて驚いた拍子に胸が遊ぶ真理亜、そんな二人を見て何をやっているんだかと声を漏らしながらジュースを口にする綺羅。
素晴らしい。素晴らしいぞ、さすが海! ここまで素晴らしいワンシーンがほかにあっただろうか! いやない! これこそが、男が求めた絶対的楽園! これであと、ポロリがあれば最高だ!!
俺はあるはずもない、神の悪戯(ポロリ)を見逃すまいと目を血走らせながら四人の女神を眺めていた。
小一時間ほど女神たちの遊戯を見ていたが、当然ポロリなどあるはずもなく、かと言って海で遊ぶ気にもならず俺はパラソルの中で缶コーヒーを飲みながらギンギンと照らされる太陽を見た。
すると、俺の背中に湿り気のある何かと、首に冷たい腕が巻きついてきた。
「ふぁっ!」
「あはは! 恭介先輩変な声出たー!」
どうやら犯人は薫らしい。
薫はぼーっとしている俺の背中に抱きつき手を回してきたみたいだ。どうしてそんなことをしてきたかなど聞くまでもない。薫のことだから、俺にも楽しんでもらいたかったのだろう。
楽しんでいないわけではない。むしろ、海で遊ぶ女の子たちを見てニヤニヤしていたいところだ。
しかし、薫は他の女の子に興味を持たれるのは少しだけ癪だったらしい。
「ねーねー。恭介先輩」
「な、なんだよ」
「薫、体が冷えてきちゃった♪」
いや、明らかに元気だよな、お前。むしろ、テンションが上がってるよな?
だが、確かに薫の体は少しだけ冷たい。その冷たさも季節が夏だったらのことだが。
「お前はいつでも体が冷えてるだろうが。この冷え性が」
「えー。でもでも、このままだと風邪ひいちゃうかもよ?」
「なら、パーカーでも着ればいいじゃんか。わざわざ俺に抱きつく意味は――」
「むー! 恭介先輩ばかぁ」
そう言って、薫が俺の胸に顔を押し付ける。
おいおい。待てよ、待ってくれよ。可愛すぎんだろうがよ!
俺は、薫の行動に動くことができず、いや動きたくなく、そのままの体勢でいた。
「恭介先輩……」
「な、なんでしょうか」
後輩に敬語を使ってしまう俺はダメでしょうか? いいえ、後輩に涙目上目遣いでこんなことを言われたら誰でもそうなります。
「ギュッてして?」
ギュッてして……ギュッてして……
薫の言葉が俺の脳内を残留思念のごとく反響し、連続再生されていく。
ああ、なんて甘美な響き。ここでギュッとしたら、きっと後で殺されるんだろうなぁ。でも、後輩のお願いだし。それに可愛い女の子のお願いだし。
俺の両腕が少しずつ薫の体を覆っていく。
ああ、ダメだ。このあと何が起こってもいい! たとえ何十回死のうとも、この女の子の願いを叶えられないなんて、男として失格だろう!!
その言葉が俺の優柔不断な体にムチを入れ、思いっきり、だが優しく薫の華奢な体を抱きしめた。
瞬間、俺の後頭部に剛速球のビーチバレーボールが直撃、パンクした。
「すみません、狙いが外れました」
「あ、あはは。真理亜はお茶目さんだな――ゴフッ!」
「あー、ごめん。手が滑って包丁が頭に刺さっちゃった。でもいいよね? お茶目でプリティーな幼馴染のことだもんね」
「あ、あはは。そ、そうですね」
ふっ。ここまでは想定内だ。むしろ、想定していた中で最も害が少ない! この洗礼された素晴らしい頭ではもっと残酷なことをシュミレートしていたぞ!
などと無駄に勝ち誇ってみたものの、痛いのには変わりない。
だってねぇ? 頭にパンクするほどの威力持ったボールと明らかに狙った包丁が刺さってるんですもん。そりゃ痛いわ。
俺はそれでも、これは日常これは日常と唱えながら薫の体を抱きしめていた。
当の本人は俺のぬくもりの中で寝てしまっていて事態を把握していないのだから報われない。
万人が叫び逃げ惑うようなこの現場を見ていた生徒会長はニコッと笑って、一言こう言った。
「君たちはやっぱり面白いね。まさか、海でこんなサプライズを見られるとは思わなかったよ!」
と、どうやらこの現場が仕組まれた劇のようなものだと勘違いしているようだった。
生徒会長、まさかとは思ってたけど。あんた、将来大物になるよ。
俺は大量の血を流したせいで薄れゆく意識の中で、生徒会長の大きな器と随分と図太い精神に感服した。