どうしてこうなった?
読んでくれると嬉しいです
かくして、俺は生徒会長の無理矢理な行動のせいで、俺は夏季合宿という名の地獄の勉強会が始まろうとしている。
俺は一週間の着替えと勉強道具を持って、集合場所である学校に向かって歩いていた。
「な、なあ、本当にお前たちも来るわけ?」
「何かご不満が?」
「そーだよ。楽しそうだしいいじゃん?」
「それとも恭ちゃんは生徒会長さんと二人きりがよかったの?」
ジト目で聞いてくる真理亜と、すでに不満で不満でしょうがない綺羅。心から楽しそうにしている薫の三人が俺の言葉に即答してくる。
あー、うん。これはどういう状況か、正直俺にもわからないんだけど。どうやら、この三人はついてくるみたいだ。
今日の合宿は学校が行っている行事なので、学校の生徒しか参加できない。よって、幼女であるクロエと薙は参加できず、春は親父に電話で呼ばれたとかなんとかで参加せず、雷電は酒が飲みたいから来なく、フレイはこんな合宿より戦いが起こっている本国に帰っていった。
したがって、今日のメンバーは俺の監視役を任された暇人たちなのだ。
真理亜と薫は仕方ないとして、綺羅の親がまさか許すとは思わなかった。いや、許すのは必然というべきか。何故なら、綺羅が親に言った一言は度肝を抜かれるほどのものだったのだから。
綺羅のやつ、親に向かって『私、恭ちゃんのことが好きだからついていくね!』というのだから、目眩が収まらない。
綺羅の親も『それじゃあ、しょうがない! 恭介くん、綺羅のことを頼んだよ!』だ。バカじゃないのか、この親子は!
はあっと、必然的に溜息を止まらない。まったくもって、悩みの種は肥大していくばかりだ。
「そーいえば、恭介先輩。薫、合宿先で背中流してあげるね♪」
「マジか! ……いや、今の冗談だから! その煌めいてる刃を向けないで!!」
薫の嬉しい言葉に心から喜ぼうとすると、綺羅と真理亜のナイスコンビネーションの攻撃が俺の喉元に向かって走る。
直前で改まってくれたおかげで血祭りに上がらなかったが、夏休みということもあって人目が多い。ただでさえ目立つのに、さっきの攻撃は周りを警戒、遠巻きにさせる十分な理由になった。
いやね? 俺も目立ちたくないんですよ。でもね? 俺の後ろを歩く女子たちが嫌ってほど目立っちゃうんですね。そしてなぜか、男子の濃厚な殺気の込もった視線が痛い痛い。一瞬俺に惚れちゃったのかと思うくらい濃厚だから、勘違いしそうだったよ。
「まったく、先輩は少し場所を考えて欲しいです」
「そうだよ。危うく人前で殺しちゃうところだったよ?」
「え? 俺が悪いの? さっきの、俺が悪いの?」
仕方ない人だと言わんばかりの呆れっぷりは、なぜか俺に向けてのものだった。
違うでしょ!? 元凶は薫さんですよ!? 俺は悪くないでしょ!?
反論の一つでもしたかったが、どうやら学校についたみたいだ。
無駄に目立ちながら学校の校門を潜り、俺たちは合宿先に行くためのバスを探していると両手を振って場所を教えてくる生徒会長がいた。
「あっ、こっちだよ」
「……」
「? どうかしたのかい?」
すすっと振り返って歩き出す俺たち。
だが、俺の首に縄が絡まり、これ以上の進行を止めさせる。
「嫌だなー。ボクを見ただけで逃げないでくれよ。それほどボクが苦手かい?」
「苦手だよ! 苦手だけど、それ以上にその乗り物は一体何だ!?」
「ん? バスだよ?」
「バスじゃねぇーよ! それは一般的にリムジンって言うんだよ!」
そう、俺たちが逃げた理由は学校内に止まっているリムジンだった。そして、それをバスだと言い張る生徒会長だった。
だから嫌だったんだよ! この人は確かにすごいけどさ! すごいのは重々知ってるけどさ! だからって、リムジンを召喚するか!?
「お嬢様。そろそろお時間です」
「あ、うん。わかったよ。さあ、みんな、乗りたまえ」
「乗りたまえじゃないでしょ!? もしかして、これで合宿に行くわけ!?」
「そうだけど、問題が? ……ああ、費用なら心配無用だよ。このリムジンは暴力団からかっさらってきたものだから」
平然と言うが、それは危ないのでは? などと考えるまでもなく危ない。
今すぐ逃げ帰りたいものだが、生徒会長はそれすら許さないだろう。なぜ、そんなことがわかるか? 俺の家に、そう言う奴が何人もいるからだ。
逃げることも許されず何もできないまま、俺は仕方なく生徒会長が用意したリムジンに乗る。
「じゃあ、行こうか」
生徒会長がクイッと顎で運転手に出発の合図をすると、運転手はリムジンを動かした。
乗り心地は最高だが、何分暴力団から強奪してきたというリムジンなので安心はできない。そんな中、生徒会長は気持ちよさそうにリムジンの座席に寝転がり、飲み物を早速飲み散らかしている。
自由だなー、この人。まあ、この人のリムジンだからだろうか?
そうも思ったのだが、どうやらリムジンに慣れていないのは俺だけだったらしい。真理亜は勝手に冷蔵庫を開けてコーラを取り出し、綺羅も悩んだ末に同じコーラを取り出して飲みだした。薫に至っては既に寝ている。
え? それが普通なの? 勝手に冷蔵庫とか開けちゃいけないって教えられるのは貧乏な家だけなの?
「君も何か飲みたまえ。それとも好きなものがなかったかな?」
いや、好きなものも何も、水からジュース、ワインにビールまで完備されているんですけど……。
俺はかなりの種類がある中からただの水を取り出して一口飲む。
うん、おいしい水はやっぱり美味しいわ。
「君は珍しいね。リムジンに乗ってまでわざわざ水を飲むなんて」
「俺は水が好きなんですよ」
「そうかい。ボクはてっきり、女の子の乳が好きなのかと――」
「あんた何言っての!?」
おいしい水を勢いよく吹き出し、俺は即座に否定した。
そんな俺を見て、生徒会長は首を傾げ、
「もしかして、粉ミルクの方が良かったのかな?」
「馬鹿だろ!」
「馬鹿じゃない。ボクは天才さ!」
天才と馬鹿は紙一重とはよく言ったものだ。つまりは、天才も馬鹿も変わらないってことだろう? この人がいい例だ。
深い溜息をつき、俺は座席に深く座る。
一時間ほどそうしていると、リムジンが止まり、目的地に到着した。
リムジンを降りると、そこは四方を森に囲まれた綺麗な学校が存在した。……って、学校!?
「おい、生徒会長」
「ん、何かな?」
「ここ、どこだ?」
「ああ、そういえば言っていなかったね。ここは我が高校の一世代前の校舎、箱庭――」
「冗談はいいから、本当ことを言えよ!」
「むー。ならば本当のことを言おう。我が校の夏季合宿先であり、現在も学校として機能している華桜高校だ」
誇らしげに言う生徒会長。対して、俺は嫌な予感がしまくりで、ぽかんと口を開けていた。
マジか。マジかよ……他校に夏季合宿とか、どんな企画だよ!!
「やぁ、いらっしゃい。話は聞いているよ、さあ、こちらに」
校長らしい人に招かれて、俺たちは校内に入る。
真理亜も綺羅も、緊張はしていないようだが、リムジンの中でぐっすり寝ていた薫はまだ眠いのか目を擦りながら俺の腕にしがみついている。
うん、薫さん? そういうのはやめようね? ほら、怖いお姉ちゃんたちが俺をどう料理しようか悩んでるから。このままだと、今夜は一生寝ることになっちゃうから。
「ここが、君たちが寝泊りする場所だよ。勉強をする場所はこの部屋の隣で、ご飯はあちらの部屋でしてもらうよ。何かあったら気軽に声をかけてくれたまえ」
そう言って、校長はスタスタとろうかを歩いて帰ってしまう。
俺たちは早速荷物を降ろして、ゆっくりし始める。
「まあ、今日はゆっくりしたまえ。本格的な勉強会は明日からにしよう」
言って、生徒会長も部屋でゆっくりする。あー、来ちゃったよ。地獄の夏季合宿に来ちゃったよー!
じたばたしても仕方ない。諦め……られるか!! こうなったら何が何でもサービスシーンをもぎ取ってやる!
俺の意気込みが伝わったのか、生徒会長がニヤッと嫌な笑みを浮かべて素晴らしいことを言い出した。
「そうだ。近くに海があるらしいんだが、海に行かないか?」
生徒会長、あんたマジ最高だよ。