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間違っても、仲間だから

読んでくれると嬉しいです

 制限時間は十分。この制限時間は俺の精神が完全に吹き飛ぶまでの時間だ。

 その間に目の前の馬鹿でかいドラゴンを叩き潰して、ヨハネの馬鹿をぶん殴ってでも止める。

 しかし、どうする? あのドラゴンは動けば凄まじい威力となって部屋ごと衝撃を与えてくる。……部屋ごと?

 俺はドラゴンの動きによる衝撃を避けながらドラゴンの衝撃に耐えるこの部屋に疑問を覚えた。

 ドラゴンの行動は凄まじい。部屋を震わすほどの威力に先程から翻弄され続けていたのだが……おかしい。明らかにおかしいぞ、この部屋。


「なんで、さっきからどこも壊れてないんだ?」


 そう、俺たちが吹き飛ばされて壁にめり込んだりした時のあとは残っている。だが、強風、衝撃、余波による破壊の痕跡が全く見られない。

 どうしてだ? あれほどの攻撃だったんだぞ? 飾りや天井が抜けたっておかしくないはずなのに……。まさか!


「おい龍彦!」

「何かな? 私は避けるので忙しいのだが」


 そう言って、龍彦はドラゴンから目を離してもなお、華麗な回避を見せつけてきた。

 いちいちめんどくさい奴だな。それとウザい。

 

「さっきからおかしくないか? こいつ、さっきから攻撃っていう攻撃をしてきてないぞ?」

「確かに。翼を広げて強風を起こしたりするだけだね。でもそれが何か?」

「これほどの広さで、絶対的力を持つのにコイツはなんでそれを行使しない?」

「ヨハネにこの部屋を壊すなと言われているか、あのトカゲ自身が壊さないようにしているか……もしくは、行使できない理由があるか」

「行使できない理由って、なんだろうな?」


 俺がドラゴンの起こした衝撃を避けながら聞くと、龍彦は肩を竦めてわからないと告げてくる。

 だが、はっきりしたことがある。コイツは何かしらの理由で攻撃はできない。その理由がわかれば攻略はできそうだ。

 考え事をしていたせいか、ドラゴンが方向転換するために尻尾が迫ってきていることに気がつかなかった。瞬時にバックジャンプをしたが、ドラゴンの尻尾は完全には避けきれず、凄まじい衝撃を受け、壁に向かって一直線に吹き飛ばされた。


「大丈夫かい?」

「心配無用だ。こちとら死なないからな」

「それは安心だ。何度血しぶきを上げても助けなくていいってことだからね」

「お前って案外酷い奴だな!」

「男を助けても仕方ないだろう?」


 すらっととんでもないことを言い出す龍彦に若干引きながら俺は体の動きを確認する。

 そうしたら、あることに気がついた。さっきの衝撃、なんかおかしくないか? 俺は体を触り、自分の能力が発動していることを再度確かめる。ある、凶暴な神殺しの牙の力が今も俺の体を支配しようとしているのを感じる。

 だからこそ、おかしいのだ。さっきの衝撃には、気配が感じられなかった。

 この異能、『神殺しの牙』には強大な力を与えるのと同時に、獣のような超直感を与えるのだ。そして、その超直感は相手の位置、攻撃を見えない角度からでも感じ取れるようになっている。

 さっきの攻撃は、俺の不注意で意識が散慢していたとは言え、気配が感じ取れないわけではない。

 ということは、だ。あいつは、もしかして……


「なあ、龍彦」

「なんだい?」

「俺があいつをどうにかできると思うか?」

「全然思わないね」

「だよな~。でも、何とかしてみるわ」


 そう言って、俺は駆け出す。目指すはドラゴンの腹部。

 近づくに連れ、強大なドラゴンは恐怖に変わり、先程よりも大きく感じられた。だが、俺は足を止めない。スピードを増していき、あと十メートルというところで、俺は叫んだ。


「ドラゴンなんて、存在しねぇんだよ!!」


 そして、俺の攻撃が初めてドラゴンに当たった。

 しかし、感触はない。当たり前だ。こんなドラゴンなど存在していなかったのだから。


「そういうことかい」

「ああ。ドラゴンなんて最初からこの部屋に存在してなかったのさ。俺たちはヨハネの幻術に見事踊らされていたわけだ」


 俺はヨハネに向き直り、答え合わせを行う。

 ヨハネのバツが悪そうに眉をひそめるところを見ると、どうやら正解らしい。

 あんなドラゴンは最初から存在しなかった。だから、あいつがどれだけ暴れようがこの部屋は無傷だったんだ。だが、俺たちにはいるように見えたから当然ダメージをくらったように思い込んでしまう。

 これが答えだ。


「さあ、ヨハネ――」

「残念だったな、人間。悪魔は元来騙しを得意とするものだ」


 ヨハネに気を取られていたためか、完全に気配を感じ取れなかった。否、気が付いた今でも気配を感じ取ることはできない。

 まさか、こいつが本体? じゃあ、ヨハネがこの幻術を使っていたわけじゃないってことか?

 俺は背後に現れた黒い翼を持ち、凶悪な爪を生やし、この世に存在する何者にもない尾を持つ、まるで悪魔みたいなものを見張る。

 クソ、避けきれないか……いや、体が動かない!?

 どうやら能力の精神支配が進行しすぎたせいで、体が言うことを聞いてくれない。ダメだ、今動いても遅い。やられる!

 死を覚悟して、悪魔のようなものの攻撃を歯を食いしばりながら耐える準備をした瞬間、


「今回の標的は悪魔サタンか、いいだろう。――――貫け。雷光の名のもとに……金剛杵(ヴァジュラ)!!!!」


 悪魔のようなものの腹を抉り、高圧の電撃を放ちながら完膚なきまでに貫く槍が眩い光を放ちながら俺の視界で静止した。

 一体、何が……いや、あの声とこの槍は――


「英雄神インドラ……」


 この槍、この攻撃、そしてウザったい話し方。あれは正しく――


「やあ、久しぶりだね。エンペラー」

「お前、なんで……」

「話は後だ。ヨハネを確保するぞ、京介!」


 元に戻った龍彦に呼びかけられ、はっと我に返り俺はヨハネに向き直る。

 ヨハネはドラゴンがいなくなったことに憂いた目を向け、ドラゴンの最後を看取った。


「サタンも逝ったか。さて、妾に残されているのは天使のラッパに、獣か」

「もうやめにしようぜ。どうせ何をやったところで結果は見えてる」

「そうじゃな。いっそ、世界ごと消滅させてしまったほうが手っ取り早い、か」


 怖いことを言うヨハネに少しドキッとして、俺は焦った声で言い返す。


「ど、どうせそれも叶わないってことだよ!」

「……何故そう思う?」

「俺が何が何でも止めてみせる。お前が間違い続ける限り、俺がお前を何度でもぶん殴って止めてやるよ」


 ニッと笑い、俺はヨハネに近づいていく。

 しかし、ヨハネはその俺の言葉に憤りを感じたらしい。ムッとなって手を凪った。


「助けなど不要! 妾を止められるのは妾だけじゃ!」

「ちげぇよ」


 言って、俺はヨハネを抱きしめた。ヨハネはいつの間にか詰め寄られていた俺に驚き反抗するが無駄だと分かってからはおとなしくしていた。


「何故、妾を殴らん。殺しても良かろうに」

「どうしてそんなことしなくちゃいけないんだよ。……それにお前は死なねぇよ」

「……何?」

「だってお前、俺と契約してんだぜ?」


 そうなのだ。俺は666の獣と間違って、ヨハネと契約してしまっている。つまり、この勝負はいつまでたっても決着がつかないのだ。どちらも不死なのだから。

 こんな無益な戦いをしたところで、結果は見えている。共倒れだ。

 そんなことをしなくても、手を取り合っても解決できるならそれに越したことはない。

 その意図に気が付いたヨハネも弱々しく笑う。


「なるほど、つまり、この行動も無駄だったというわけか……」

「そういうこと。ったく、こんな面倒に巻き込みやがって、さっさとみんなを解放しろよな?」

「いや、開放などしなくてもいい。先程の皆の声も、全てが幻影だ。敢えて言うのなら、この世界すべてが幻影だ」

「……なるほどなー。どうりでどれだけ暴れても完全に破壊はされないわけだ」


 そう言って俺は壁をどんどんと叩く。見た目はただの壁だが、壊れにくさはそこら辺のモノより明らかに違う。

 はあっと溜息をついて、俺はズルズルと地面にへたり込んだ。


「幻影ってことは、夢ってことか?」

「そうじゃな」

「じゃあ、さっさと目覚めさせてくれよ。そろそろ現実が恋しいぜ」

「よかろう。もう、戦う必要はないからな」


 そう言って、ヨハネが腕を振ると視界がブラックアウトする。

 ああ、終わる。やっと、この無駄な戦いが終わっていく。

 そう思いながら、俺は静かに夢が覚めるのを待ったのだった。

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