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忘却の過去

読んでくれると嬉しいです

 ひとつ前の部屋から膨大な爆発音と、漏れ出す炎が見えたが、それは後回しにして、俺は目の前にいる巨大な龍を見据えた。

 強靭な足腰に、凶悪な牙を見せつけ、手と足に生える硬そうな爪は今の俺が相手にならないことを物語っていた。

 そう、今の俺では勝てはしない。この龍にも、その後ろで憂いた視線を向けるヨハネにも。

 だから、俺は相棒からもらったメダルを宙に弾く。


「俺、御門恭介が願い奪う。信念を突き通し、偽善を破壊し、自身の力を困難という名の壁を破壊し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、真実を貫く拳!」


 メダルをキャッチした瞬間、俺の体に強烈な痛みと、筋肉が膨れ上がるほどの力がみなぎる。

 俺の横にいた龍彦も、本気を出したみたいだ。感じが、変わった。


「さあ、行こう。最優先目標は大きなトカゲだろう?」

「ああ」


 なぜかキザに決めて話すのはこの能力の副作用か何かだろう。でないと、俺はこいつの認識を大分変えなくちゃいけなくなってしまう。

 とにもかくにも、俺と龍彦は地面をかけた。


「グゥゥゥゥゥゥ」


 龍の決して小さくはない唸り声が聞こえた。

 同時に、龍は両翼をはためかせて強風ではない暴風を作り出す。

 その暴風に俺と龍彦の進行は止まった。


「無駄だ。人ごときにこの悪魔は倒せはしない」

「わからないぜ? 案外、人間の方が強いかも知れない」

「ありえないな。人の度を越えるものは皆等しく怪物だ」


 暴風に吹き飛ばされた俺と龍彦を見下したようなヨハネの言葉に必死に反論する俺。

 だが、ヨハネの最後の言葉は心に来た。その言葉は、俺が考えていたことと同意だったからだ。

 俺は、ははっと笑ってゆらゆらと立ち上がった。


「怪物……怪物ねぇ。そうさ。人には超えちゃいけない一線ってのがある。それは何事においても同じだ。力だろうが、幸福だろうが、不幸だろうが、人間関係だろうが、学力だろうがな。けど、それを超えたところで、人は人ならざるのか?」

「何が言いたい?」

「お前は、人を舐めてんだよ。人の度を越えた行為は決して愚者の道じゃない。修羅の道であっていいわけがない。そいつが人であろうとする限り、そいつは一生……人だ」


 ゆっくりと歩き進む俺の横に、いつの間にか龍彦がいた。

 龍彦は多少のダメージはあるが目立ったものはなく、まだ戦えそうだった。

 俺は龍彦の方に目をやり、龍彦は俺に向かって笑った。

 それが、答えだった。


「確かに、お前のやっていることは俺のためなのかもしれない。俺は何かを忘れているのかもしれない。でも、それでもあいつらを巻き込んでいいわけがない!! ヨハネ! お前は間違えた!!」

「それでも、解明せねばならぬのだ。どんな犠牲を払ってでも、知らせねばならなかったのだよ。少年」

「伝える方法はいくらでもあったはずだろ! 言伝でも構わなかった! こんな……こんな酷いことをして、お前は一体何を俺に思い出させたいんだ!!」


 俺の叫びに、ヨハネはそっけなく、もしくは冷たい視線に乗せて、言う。


「自分で考え、気がつかねば意味がないのだ。さあ、続けよう。お前の記憶が戻るまで、な。少年」


 そうかよ。お前は、分かってやっているんだな。こんなことはいけないとわかってやっているんだよな。

 俺はがっくりと肩を落として、深い溜息をついた。

 ったく、俺の周りはおかしい奴ばっかりだ。しっかり者だけど思い込みが激しい後輩に、お茶目で甘えん坊で子供みたいな後輩。ヤンデレだけど大切な幼馴染に、過去に闇を持つ許嫁。変態な堕天使に、頭のいい幼女達。

 ホント、この体になってからいいことなんてない。むしろ忙しくなる一方だ。

 それでもこいつらは俺の大切な仲間だ。はいそれと失っていいわけもない。

 ホンッッッット! 俺は取捨選択が苦手だな!


「お前の言い分はわかった、ヨハネ。お前がどんな酔狂なことに全てをかけているのかも十分に理解した。その上で言うぞ。お前は間違えた」

「……わかっておるわ」


 俺は全身の力を抜き、ポケットから一枚のメダルを取り出す。


「俺の仲間を傷つけたこと、高くつくぞ?」


 そして、メダルを弾いて唱える。


「俺、御門恭介が願い奪う。凶悪で傲慢な鬼の力を。月夜に輝く銀色の雄々しい狼の力を。今、俺のもとに来い、神殺しの牙!!」


 メダルをキャッチすると、全身に抗いがたい洗脳と沸き起こってくるありえないほどの力を感じて、俺は吠えた。


「ああ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 地面が砕け、割れ、潰されていく。

 その中央で、俺は紅と黄金の瞳を目の前の龍に向けて放つ。


「ここからは俺の領分だ」

「私たちの、だろう?」


 隣に立つ龍彦に視線は向けずとも、俺は笑って答えた。

 さあ、始めよう。間違いだらけのこの馬鹿げた戦いを終わらせるために。

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