本気と書いて、ダルイと読む
うぅ! 今回もシリアスですみません!
読んでくれると嬉しいです!
「さあ、蛇野郎。お仕置きの時間だぜ?」
俺は膨れ上がった自身の力に絶対の自信を持って、空を滞空する龍に言う。
しかし、この力で本当に龍を倒せるのだろうか。そんな疑問が今更に出てきたが、流石にそうも言っていられない。目の前に、敵がいるのだから。
俺は大きく深呼吸をして、構えをとった。
『ぜはははっはは!! 人間でも立ち向かってくるか!! 俺様は嬉しいぜ! さっきの女はダメだ。弱すぎんだよ! さあ、お前はどれくらいだ!?』
「弱い? おいおい。どうすんだよ。俺は、あいつより弱いんだけどな!」
俺は地面を蹴り、龍の顔面まで大ジャンプをして、龍の顎を蹴りあげようとする。
しかし、龍の顎は意外にも固く、ダメージを受けたのは俺の方だった。
どういう皮膚してんだよ!もう少し強く蹴ってたら足が折れてただろうが!
そう言った愚痴を漏らしながら、俺は地面に着地して龍を睨んだ。
『がはははは!! その程度か!? このカンナカムイ様に挑んでおいて、その程度だっていうのか!? 失笑だ! 失笑だぜ、人間!!』
「うっせんだよ!! 龍が喋ってんじゃねぇよ!! てか、もっと柔らかくなりやがれ、クソ野郎!!」
『それは聞けない冗談だな! 俺様の皮膚は頑丈だ。今後一切誰にだって貫けるもんじゃねぇよ!!』
クソッタレ! そんなんじゃ詰じゃねぇか!!
俺は舌打ちをして、再び空に飛び上がる。
今度は腹を狙って、蹴りを繰り出す。しかし、そこも頑丈な鱗によって阻まれる。
そして、今度は尻尾で弾かれ、地面に背中を強打する。
「がはっ……クソっ。なんでこう俺はダメなんだよ……」
『それが人間の限界って言うやつよ! まあ、人間に生まれた自分を恨みな、小僧!!』
「はっ。恨むの対象はてめぇだよ。なんでこんなとこ来てんだよ!!」
俺は龍の口から放たれた雷を一身に受け、爆発した。
グラウンドに大きなクレーターを作り、その中央に煙を上げながら倒れている俺。
龍は流石に俺は死んだと思ったのだろう。俺から、視線をずらしたんだ。
あーあ。ズラすなよ。俺は、死んじゃねぇぞ?
俺は回復しきっていない体に鞭打って、集中が向いていないうちに龍の腹に蹴りを入れた。
『ああ? まだ生きてんのか? ちっ、面白くねぇやつだな』
「ああ、死んでねぇが何か? こちとら死ねねぇんだよ」
『そりゃ可哀想にな。けど、そのおかげで、一生いたぶられんじゃねぇか!!』
再び雷が全身を貫く。
体から焦げ臭い煙が嫌な音ともに天に昇る。
全身の力が抜ける気がした。どうやら、最強の力がタイムアウトしたらしい。
クソッタレ。掌握しているメダルを全て使い切っちまったよ。こいつをどうやって倒せばいいんだよ。
俺が体を起こそうとしていると、俺と龍の間に立ち塞がる者がいた。
「何を、しているんですか。先輩」
神崎だった。
俺は絶句した。見る限り、戦える状況ではない。それよりも、早く病院に連れて行って検査なりをしないといけないレベルだ。
なのに、神崎は俺の前に、龍の前に立ちふさがった。
これが何を示すのか。サルでもわかる。
「それは、俺のセリフだ。神崎。お前、何してんだよ」
「私は、この学校を神々の怒りによって破壊されるのを防ぐためにいます。学校だけではない、この町を守るために私は生まれて、今に至ります。だから、私はここを死守しなくてはいけないんですよ」
はっきり言っているが、俺には意味がわからなかった。
この町を守るために生まれた? 今まで生きてきた理由が、そんなものなのか?
「私の役目は、この町を守ること。そのために散らせるための命。私の本懐は生まれてから今に至るまでこの町のために命を捧げることでした。その夢が、今叶うんです」
神崎は、涙ながらに槍を強く握り締め、震える声で言った。
町のために命を捧げる? それが夢? 違う。違うだろうがよ。
俺は、笑っている膝を叩き起こし、立ち上がる。
「てめぇ。本気で言ってんのか?」
「はい」
「お前の命はそんな事のためにあると、ホントに思ってるのか?」
「はい」
「お前は……お前はそれで満足なのかよ!」
「……はい」
頑なに肯定し続ける神崎。俺はそんな神崎の答えにうんざりした。
肩を落とし、全身の力が抜け、今にも倒れてしまいそうになる。
しかし、俺は倒れるのを拒否した。
このままにしたら、本当に神崎は死んじまう。町が、神崎によって、神崎の命によって救われてしまう。
そんなのは……そんなのはよ、
「ダメに決まってんだろうが。そんな選択肢が、合ってるわけねぇんだよ」
「先輩の言い分はわかります。けど、私の存在は私が死んだ瞬間、家族以外の記憶から消えてしまいます。つまり、先輩の記憶からも消えてしまうんですよ」
「だから、なんだよ?」
「だから、先輩は何も気にすることはないんです。今まで通りの普通の生活をしてください」
「お前は、どうすんだよ?」
「言ったじゃないですか。私は消えるんですよ」
「お前が守ろうとしている、この町は誰が守るんだよ!!」
「私の代わりはいくらでもいますよ。安心、してください」
そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだよ。
俺が聞きたいのは、お前の本当の言葉だ。そんな、言い訳じゃねぇんだよ。
俺は全身に力を入れて、一歩進んだ。
目の前には神崎がいる。しかし、神崎は俺をもう見ていない。だけど、俺は進んだ。
もう、誰かが死ぬのは嫌なんだ。死ぬのは俺だけで、十分だ。
「先輩! 何して――」
「うるせぇんだよ!! 何が町を救うための命だ! 何が本懐だ! 何が代わりはいるだ!! ふざけんじゃねぇ!! お前の代わりはいねぇんだよ!! お前はお前しかいねぇだろうがよ!! そんなくだらない理由で生きられるほど、人生甘くねぇんだよ!!」
「せん、ぱい?」
「ああそうだよ! お前を守りたいとか、町を救いたいとか、ヒーローになりたいとか、普通の生活をしたいとか。全部俺のわがままだ! 本当はここに立つことすらおかしいっていうことくらい分かってんだよ! でもよ! 目の前で、そんな悲しそうな顔されたら、助けたくなるだろうがよ! 人生ってのに抗ってみたくなるだろうがよ!! それが、それがそんなに悪いことなのかよ!!!!」
叫んだ。心の中で燻っていた全ての感情が爆発するのがわかった。
だが、止める術を、俺は知らない。
だから、バカみたいに突き進むんだよ。猪のようにぶつかっても進むんだよ。遠回りなんてできるかよ。バカは、バカなりに考えて行動してんだよ。
バカも突き通せば真理に近づけんじゃねぇのか? 天才だけが行ける頂きに行けるんじゃねぇのかよ。
「悲しい運命をバカみたいに背負ってるやつを救うことすらできねぇのかよ、俺は! 死ねねぇ体を持っていて、どこぞの主人公の力が使えて、何もできねぇのかよ!」
俺は最強の力のメダルを握り締め、嘆く。
その言葉で、現状が変わるとは思えない。けど、何かが、何かが変わればそれでいいんだ。
こんな最悪な結末は、俺が許さねぇ。そんな世界は、俺がぶち壊してやる!
(ほほぅ? 言いやがったな、てめぇ)
どこからか声が聞こえる。
誰だ? 何者だ?
(お前は見たことがあるはずだ。俺の記憶を、俺の力を。俺は神谷信五。最強の人間だ)
最強の人間? まさか、存在してるのか?
俺は頭に流れる言葉を一生懸命聞く。
(世界を壊してまで、てめぇのそのちっぽけな信念を突き通したいか? 理念を突き通す覚悟があるか?)
「覚悟なんて持ち合わしたことねぇよ。でもな、命に変えても守りたいものがあるんだ!」
(おもしれぇ。気に入ったぜ。一部なんてけちぃこた言わねぇよ。全力だ。だから、俺の手を取れよ)
目の前に手が出された。
俺は迷わず、その手をとった。そして、
「力を貸しやがれ! てめぇが本当に主人公だって言うならな!!」
力が一気に膨れ上がるように感じた。
『ごちゃごちゃ何話してやがんだよ、小僧!!』
龍の口から高圧電流が放たれた。
しかし、俺はニヤッと笑って、その高圧電流を『掴んだ』。
『なっ!』
「ぬりぃんだよ。こんな電気、静電気だぜ?」
『て、てめぇ、何者だ!』
圧倒できる力を示し、俺は掴んだ高圧電流を地面に叩きつけ、笑ったまま空を見上げる。
――――しかし、そこに俺はいなかった。
「――人間だよ。ただ少し強いだけのな」
じゃあ、話している奴は誰なんだ?
種明かしは次回! まあ、わかってはいるんでしょうけど……