燃え盛る罪人VS青ざめた騎士
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燃え盛る衣を身に纏う少年、フレア・フレイ。対するのは青ざめた馬に乗る騎士。
予言の騎士ということもあってか、フレイは目を血走らせながら興奮の息を漏らす。
「お前、なぜ我と戦う? 戦いなど無益なこと――」
「無益!? 今、君は戦いを無益といったのかい!?」
騎士の言葉にフレイは驚きの声を上げた。
フレイにとって、戦いとは唯一の存在価値。絶対の選択肢なのだ。それを否定した騎士に、フレイは笑った。
「愚かだ。君はものすごく愚かだ。戦いこそ人が作り出した、いや、生物が生み出した絶対の存在理由じゃないか! 戦いをして、自身の強さを見極め! 戦いを通して、生物は強くなる! それが何故わからない!」
フレイの熱弁に騎士は何も答えない。
それに怒りを覚えたのか、フレイの身に纏う炎が少しばかり増した気がする。
「お前、自身がどれだけ愚かか気が付いていないのか?」
「悪いね。俺は生まれた時から罪人だ」
言って、フレイは駆ける。
騎士の懐に入って、炎をまとった手を放つ。
取った。そう感じさせるほどの威力を持つ攻撃を避けようともしない騎士。
だが、それも当然の行為だった。
「餓死せよ」
騎士が言った瞬間、フレイの身にまとっていた炎が消える。
同時にフレイの体もゆらゆらと力なく地面に伏した。
「な、にを、した?」
「言葉の通りだ。お前は今、飢餓状態だ」
「な、るほど。確か、ヨハネの黙示録の青ざめた騎士は、餓死をさせる騎士だった。それでか」
言って、フレイは立ち上がる。
騎士はフレイの行動を見て、馬ごと一歩下がった。なぜなら、騎士が言った言葉は餓死。つまり死んでいなければいけない。それなのに、フレイは立ち上がってしまった。
その事実に、騎士の精神がやられないわけがない。
「お前、なぜ立てる?」
「は? ただの飢餓ごときでいちいち倒れていられないよ」
「我は餓死せよと言ったのだぞ! なぜ、そうしない!」
「君はつくづくかわいそうな頭をしているようだね。俺が、誰かの言うことを聞くとでも思うのかい?」
違う。騎士はそう心で唸る。
騎士の言葉は、ヨハネの黙示録と同様で絶対の拘束力を持つ。ゆえに、誰も逃げることはできない。そう、相手が神でもない限りは――
「全く。我が相棒にも困ったものよ。騎士よ、聞け。死にたくなければ、この場から消えることを進めよう」
「お、お前は……罪人、プロメテウス!」
騎士の目には炎に身を包んだフレイ以外に、もうひとりの影、神プロメテウスの姿が写る。
これにより、戦況は大きく変わった。
騎士の相手をするフレイは神との関係を持つ、異常な者。そして、神は騎士の能力を無効化する。
騎士に勝ち目はなくなった。
「君を殺す前に、ハッキリさせておきたいことができた。なぜ、殺したはずの女がここにいる?」
騎士に好奇のこもった殺しの視線を外して、フレイは部屋の隅っこに位置する二本の剣を携える女性を睨んだ。
そこにいたのは、過去にフレイのプロメテウスの炎に身を焼かれたはずの女性はいたのだ。
「私はあなたの手伝いを命ぜらてきただけよ。まあ、そのつもりも、必要もないようですが」
「ああ……コイツは、俺の獲物だ」
「まるで獣ね。獲物を前にして、腹を空かした猛獣。……騎士さん? あなたは不幸だわ――」
女性、ベーオウルフが言い切る前に、フレイが全身の炎を膨張、拡大させ、炎は部屋を包み込んでいく。
騎士は、手に持った天秤を力なく落として、目の前に向かってくる真っ赤な炎の大波を見て、何も言うこともなく飲み込まれていった。
「あは、あははは。あははははっはははっはは!!!! 燃えろ! 燃やし尽くせ、プロメテウスの炎!!!!!!!!」
炎の波の中央で、フレイは狂気に満ちた笑みを見せつけ、高笑いをした。
そんなフレイを眺めて、ベーオウルフははあっとため息を漏らした。
「さて、あとはあなただけよ。神をも下した人類最強の愚者さん?」
戦いの終わりに、ベーオウルフは目を細めて、最後の部屋の入口を見つめて、小さく呟いたのだった。