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英雄神VS支配の騎士

読んでくれると嬉しいです

 スサノオは仲間であり、守るべき民である人たちを先に向かわせ、はあっと小さくため息をついた。

 本当は妃のために颯爽と駆け抜け、華麗に救い出す。それが英雄神たる自分の本当の姿なのだが、どうも妃は自身を求めてはくれない。

 なぜか、あの少年が選ばれる。心の中ではムカムカと気持ちが荒れるのだが、求める理由は分かる気がする。

 あの少年は強い。神に与えられし力を差し引いても、なお強い。絶対に負けることを許さず、何かを犠牲にすることを拒み、全てを見渡し、全ての選択肢を塗り替える。

 その姿、まるで英雄。その志、まさに勇者。今世紀の時代の転換点というべき存在と出会い、戦えたことは嬉しい。しかしだ。問題はそこじゃない。


「なぜ、我がここまで悩まねばならない? 貴様、答えることを許そう。答えよ」

「……」

「使者に作られし予言の藻屑よ。我が言葉を無視するか。それもよかろうて。さあ、殺り合おう。我たちのケンカを!」


 一方的な言葉、戦意でスサノオは相手を圧倒できる力を全身に巡らせる。

 だが、


「否。これは喧嘩にあらず。我が一方的な勝利なり」

「何?」

「ひれ伏せ、神よ」


 瞬間、スサノオに逆らえ難い衝動が走り、スサノオの足を折る。

 まるで、相手に足を折って頭を下げているかのような格好。神であるスサノオにこのような仕打ちは屈辱以上のものを与え、少なくともスサノオを怒りを買うには十分すぎた。


「よかろう! 貴様、そこまでして死にたいか!!」

「否、我は死なず。この戦いでの敗者はあなただ、神よ」

「戯け!!」


 スサノオの腕から轟音を放ちながら強烈な一撃が騎士に向けて放たれた。

 騎士は、平然と馬に乗り続けていたが、確かな動きが存在した。騎士の手には、いつの間にか弓が収められており、騎士は矢のない弓を静かに引いた。


「遅いわ!」

「否、もう勝敗は決した」


 騎士が矢のない弓を弾くと、スサノオの肩に強烈な痛みが生じた。

 これにはたまらず、スサノオは攻撃をやめて体を縮めて次弾の防御に徹した。

 しかし、騎士は弓を弾こうとはしない。これを好機と見たのか、スサノオは距離を取った。

 何かで射抜かれた肩には傷もなければ、血など流れているはずもなく、ただただ痛みが持続しているだけだった。


「ヨハネの黙示録。確かに中々強烈よな。だが、世界は壊せぬよ。この世には、もっと強い奴がいるのだから」

「否、世界は壊す。我らより強い存在など存在できるはずがない。我々はそういう存在だ」


 違う。違うぞ、藻屑の騎士。この世には恐ろしいくらいにデタラメな奴がいる。希望という言葉のために命を賭けるバカや、自滅をしてでも世界を救ってしまうバカがたくさんいるんだ。

 お前は知らない、その男たちを。

 お前は知らない、そいつらがどれだけ苦しんでいるのかを。

 お前は知らない、お前はそいつを見逃したことを。

 スサノオはニヤッと笑って、遮られている空を見上げる。

 そう。ここは世界だ。幾重にも存在する分岐の一つであり、幾重にもある世界の中で最も輝く光が強い、世界だ。

 消させはしない、この世界を。お前らみたいな、藻屑の騎士なんぞに。


「ああ、本気を出す理由が増えちまった」

「? 悪あがきは通用しない」

「そうでもないぜ? こっからは、俺の反撃だ」


 スサノオが先ほどとは比べ物にならないほどの速さで地面を駆ける。

 騎士はその速さに追いついてはいない。スサノオは騎士の目の前に移動し、騎士の腹をえぐった。

 鋼鉄で守られている腹部。それをもろともしない強靭な筋肉でスサノオは騎士の腹部を深々とえぐり、甚大なダメージを与えたはずだった。

 しかし、騎士の中身は空。空洞が存在するだけだったのだ。


「な、に?」

「否、これが事実なり」


 騎士は自身を抉ったスサノオを手を掴み、地面に叩きつける。

 地面に叩きつけられたスサノオはもがくが、次の瞬間見えない矢を肩に受け、悶絶した。


「ぐ、ぁぁ」

「否、終わりなり」


 次弾がスサノオの頭部をめがけて弾かれる。

 馬の足で身動きができないスサノオに避けることなどできない。

 終わった。スサノオは、瞬間的に本能でそう感じ取った。

 だが、


「残念、だった、な」


 聞き覚えのない声。深く、太い声を聞いたあと、騎士の空の上半身が吹き飛んだ。

 騎士の背後から巨人が顔を見せる。


「大丈夫、か?」

「あ、ああ……お前は……?」

「ヘラクレス。死した、英雄、だ」

「英雄、だと?」


 目の前にいるのは英雄だという。しかし、こないだ日本にやって来た英雄はインドラを残して全滅したと聞いたぞ? なら、コイツは何なんだ?

 スサノオは考えた。だが、同時にこれが好機だと感じる。

 戦力は上々。相手は死にかけだ。これで、勝てる。


「不覚。侵入者からの攻撃を食らった。次弾装填、静かに放つ」

「ふん!」


 騎士の上半身がこちらを向き、体が別れたというのにも関わらず、冷静に攻撃を放ってきたのをスサノオは一声で応戦する。

 だが、スサノオの行動は声を出すだけではなかったのだ。

 スサノオとは、英雄神あると同時に、嵐を司る神。スサノオの能力は、強靭な体から来る圧倒的な力だけではない。人が恐怖し、慄く自然兵器、風を武器にする。

 スサノオの一言で風が辺りを囲い、風の壁が瞬時に作り出された。


「……」


 沈黙。攻撃は風の壁に当たった瞬間失せ、残ったのはスサノオの完全なる勝利だった。


「お前、危ない」


 英雄ヘラクレスが人とは思えない巨大な体で俊敏に上半身だけの騎士の前に移動し、騎士の体を完全に粉砕した。

 あっけなく終わってしまった。

 これが英雄神と英雄の合わさった力。スサノオは、分たれた空を見上げながらはあっと再びため息をつくのだった。

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