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三分待ってやる――四十秒で準備しな

読んでくれると嬉しいです

 暗い暗い闇の底、そこには光は全くなかった。

 しかし、俺と薫、ここに俺達を呼び出したヨハネの三人はその存在を把握、もしくは掌握している。

 闇の中で相手の位置を把握できるのは薫の女神化からくる神々しい光の残像のおかげか、それともこの中では俺たち三人の姿はもともと見えていたのかは定かではないが、どちらにせよこの薄気味悪い空間の中でも互いが互いを把握しながら話し合いを出来る状態であり、尚且つヨハネが話し合いを所望しているということだけが真実だった。


「だが断る!」


 しかし、その中で俺は叫んだ。否、喚いた。

 それはもう子供が駄々を捏ねるかのように盛大に騒いだ。


「……ふむ。この答えは考えてなかった。さてさて、どうしたものか」

「恭介先輩……よくもまあ、相手の本拠地で堂々としていられますよねぇ~」


 物珍しそうに首を傾げるヨハネと、若干引き気味の表情を見せる薫。だが、その二人を前にしてもなお、俺は引かなかった。

 だってねぇ? このままズルズルと話し合いをすれば、俺はきっと面倒なことに巻き込まれる。いや、そもそももう巻き込まれているんだ。これ以上面倒なことにはかかわり合いたくない!


「しかし困った。これは貴様のことなのだが」

「あー、聞こえない! 全く聞こえないぞ!!」

「恭介先輩、なんかカッコ悪い」


 何か言っているヨハネの言葉を拒絶するように俺は大声を上げて、声をかき消す。


「ふむ。聞く気がないのなら、記憶を呼び起こすかのぅ」

「あー、聞こえな……は? 記憶を呼び起こす?」

「おお、やっと話を聞く気になったか。何、貴様の考えているような面倒なことをする気はない。妾も面倒は嫌いなのでのぅ」


 そう言って、ヨハネが俺に近づき俺の額に触れる。

 すると、俺の意識は薄くなっていき、やがて、何もない闇の中を漂っていた。


「お前……何、を……」

「安心せい。妾は貴様が気に入った。殺すことはない」

「恭介先輩! 大丈夫!? 恭介先輩!」

「そういえば、お主は女神になれるのじゃったな。ならば、見るがよい。こやつの過去を」


 そう言って、駆け寄る薫の額にも手を触れ、ヨハネは気絶しかけている俺を見下して、言う。


「今から見せるのは、お主の意識の奥深くにあるプロテクトの固い記憶じゃ。そろそろ、思い出しても良い頃じゃろうて」

「な、にを……言って……」


 駄目だ。視界がぼやけて、このままだと意識を失っち、まう……。

 程良い眠気と、重い瞼。力の入らなくなってしまった体に、完全に気絶している薫を見て、俺はもう一度ヨハネを見る。

 ヨハネはなぜか寂しそうな顔をして、俺を見ていた。

 なんだ? 何がどう言うことなんだ?

 逆らえ難い眠気に、とうとう俺の意識は沈んでいく。ゆっくりと力んでいた体が解けて、さらに眠気がます。

 だんだん、何か見えてきた。これは……女の子? 栗色の長い髪の女の子がこっちを見て、笑っている? なんだ? こんなの見たことないぞ? こんな子、見たこと――

 そこで俺の思考は中断させられた。激しい頭痛と、体が破裂するかのような激痛で俺の意識は完全に戻った。


「ダメだよ~。まだ、その事実を知るには早すぎるんだから~」

「……ここは妾が作り出した現実とは切り離された世界じゃぞ? なぜ、神がここにいる?」

「神も仏も存在しない世界はない。見えないだけで、感じてないだけで、僕らはそこにいる」


 ニヤニヤと不敵な笑みを見せながら、真打タナトスの登場だ。

 激しい頭痛と体の痛みを振り払って、俺は立ち上がる。


「ったく、何がどうなってるんだ。それに、さっきの少女は……」

「まだ知らなくていいことだよ。君は、ね?」

「タナトス……お前、何を知ってるんだ」

「くくっ。それもまだ知らなくていいことだ」


 タナトスの笑みに、初めて悪意を感じた。

 今日のタナトスは、何かおかしい。あの笑みも、この行動も、これまでのタナトスとは全く違う。まさか、焦ってるのか? でも、何に?


「神にとっても、危険な事件だったと?」

「いや~? これは僕個人の問題さ」

「ならば、教えてもいいはずだろう?」

「ああ、構わない。教えるのが君でなければ、ね」


 何を言っているんだ。俺が何か忘れていると? でも、何を? わからない。俺は一体何を忘れているんだ。

 気持ちの悪い感覚が思考を止め、いつもどおり流すように指示してくる。しかし、俺はなぜか本能から来た指示を拒絶した。


「あははは。そんな怖い顔しないでよ。教えるさ、いつかね。ただ、この場では無理だ。本物の使徒聖ヨハネがいる場での真実は、まずい」

「本物? じゃあ、昨日までのヨハネは?」

「666。または616。獣の数字、知っているよね? 昨日までの彼女は、それの意志だ」

「……は?」


 獣の数字。それは知っている。その性質は忘れてしまっているが、確かサタンとかそんな気がする。

 昨日までのヨハネが、それの意志? あいつは、悪魔だったとでも言うのか?

 疑問に思うが、タナトスはそれ以上でもそれ以下でもないというような顔で宙を浮かんでいた。


「まあ、それは後々話そう。復活した妾はヨハネの黙示録の管理者じゃからな。何、時間はたっぷりとある」


 そう言って、ヨハネが手を振ると元の世界に戻され、まるで止まっていた時間が動き出したかのようにぬるりと空気の移動が肌を騒がせる。

 俺の腕の中で寝ていた薫の頬に触れると、一筋の涙が俺の指に乗ったのに気がついた。ふと、薫の顔を覗き込むと薫は眠っているが、どうやらいい夢を見ている感じではなかった。

 薫は小さくうなされるようにふるふると小さく震え、俺の服を強く掴む。

 ヨハネ曰く、俺たちに迷惑をかけるつもりはないらしい。なら、薫もすぐに起きるだろう。

 そう思って、俺は薫をベッドに連れて行こうとすると、


「あら、王様。どこに行かれるのかしら?」

「先輩? なんで薫は寝てるんですか?」

「……はあ」


 そう、時間が動き出したかのようではなく、至極当然のように動き出したのだ。つまり、時間は止められていた。よって、さっきのことも当然皆さん知らないので、この状況を説明するところから話は始まる。

 不幸だ。面倒だ。

 そう心での思いも込めて、俺は深くため息をしたのだった。

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