やはり、俺の青春ゾンビコメディは間違っている
今回はシリアスかも……
読んでくれると嬉しいです
もしもの話をしよう。
もし、もしもだ。もしも、授業に飽きて不意に外を見たら、空気を読まない空は雨が降っていたとしたら……。
ここまではまだいいんだ。問題はここから。
そして、空気を読まない世界は、目の前に大きな龍を召喚いたしたとしたら?
当然、そんなことは普通ありえない。普通は。大切だからもう一回言うよ? 普通はね?
しかし、悲しいかな。俺は既に普通の存在ではない。
何故かって? 朝起きたら、知り合ったばかりのムチムチ美少女巫女が俺の家に料理を作りに来ていて、尚且つ、いつもその役割をしていたツンしかない幼馴染を間違えて捉え、縄で拘束した後、俺を殺しにかかった挙句、死ねない体を持つ俺は痛みだけを真面目だから受けて、生き返ってしまい、その後凶暴化した幼馴染にボコボコにされるという生活をしている青少年がただの、普通の学生なわけがないからだ。
はあ、こないだまでの説明終わり。
じゃなかった。つまりだ。何が言いたいかと言うと、
「厄介事は無視するに限る」
そう。俺はこれが言いたかったんだ。
え? 本当に龍が見えるのかって? おお。見えるよ。バリッバリ見えますけど何か?
俺は龍が吠えようが、校舎を触れるギリギリを低空しようが、知らぬ存ぜずを突き通した。
いや、人の体の数百倍の龍を敵に回していいのはどこぞの英雄だけですよ、はっはっはっは。はあ……。
しかしながら、この状況を知ってしまった心優しい俺は、完全に無視することができないでいた。
いやぁ、あの龍さん。なんかさっきから俺の方を見ているのは気のせいかな? まあ、イケメンだから? 目立っちゃうのはしょうがないけど? でも、そんなに嬉々としてキラキラした視線を送られても……マジすみません。イケメンでもありません。だから、見ないでください。
俺は涙目で、空を飛んでいる龍に謝った。
しかし、当然ながら龍はそんなのお構いなしに空を漂う。
あーもうー。誰かあれ片付けてくんない? 俺に飛び火が来る前に。
そう考えていると、一人の少女がぬかるんでいるグラウンドに入っていくのが見えた。
それは、見たことのある少女だった。
「おいおい。もしかして、神崎が相手すんのか?」
俺は授業中にも関わらず声を上げてしまった。
周りからは変な目で見られている。だが、そんな視線は今の俺には感じることさえできなかった。
少女、神崎は愛用の槍を構え、何かを話している。
話し合いでケリを付けるのか? なら、その槍しまえよ……。
しかし、龍は大きな口を開けて、口から電撃を放った。
どうやら、話し合いは決裂したようだった。
神崎は槍で雷をなんとか弾き、距離を取る。
おいおい。大丈夫なのか? いや、大丈夫じゃないか。
俺は助ける気はさらさらないのだが、神崎の安否だけは気になっていた。
だが、俺は動かない。助ける気がないのだから動かないのは当然といえよう。しかしだ。それは人としていいのだろうかとさえも思えてくるのだ。
ここで気が付いてもらいたい。
俺は一体何者だ? 俺は……ハイスペックゾンビだ。つまり、人間ではない。
よって、
「そっか。俺は人間じゃないから戦わなくてオッケー♪ なんて優秀なゾンビでしょう!」
そういう考えに至ってしまうのだ。俺という頭では。
それに、神崎に助けなどいらないだろう。毎日のように俺を殺している神崎の強さはお墨付きだ。
そんな神崎が……。
俺は外を見て、目を丸くした。
何の心配もしていなかった神崎が、雨の中ずぶ濡れになりながら、血まみれになりながら、倒れていた。
おいおい。もっと頑張れよ。女だろ! もっと熱くなれよ!
だが、神崎の体はピクリとも動かない。
死んで……しまったのだろうか?
俺の体から体温と呼べるものがなくなっていく。これは、動揺? 違う。もっと、何か強い思いだ。なら、高揚? それとも違う。もっと冷たい何か……それは、そう。悲しみだ。
極度の悲しみ。限界を突破した喪失感。
そんな感情が、俺を包み込んだ。
死んだ。人が、目の前で。何もできなかった。何もしなかった。
俺は終わってしまった光景を後悔し、悔やんだ。
だからだ。
「先生」
「何だ? さっきから独り言を言っていると思いきや話しかけてきて」
「授業がつまらないからトイレ行ってきます!」
「……喧嘩売ってるのか? 売ってるよな? 窓から外に出て立たせるぞ?」
「先生。それは死んじゃいます!」
「知ってるよ。死ねよ……」
「うわー。先生が生徒に暴言をはいたー。教育委員会に連絡だねー」
「まるっきり棒読みなのがムカツクが、まあいい。用事が終わったら直ぐに帰ってくるように」
「へーい」
俺は適当な返事を返して、廊下に出る。
出た瞬間、全力疾走で外に向かった。間に合わないかもしれないが、間に合うかも知れないと無謀な希望を持って走った。
外に出て、グラウンドに行くと、グラウンドには戦闘の色が色濃く残されている場所と化していた。
地面は焦げ、割れている。体育館の壁には神崎が叩きつけられたであろう大きな凹みがいくつかあって、凹みの下に力なく落ちている神崎は、見るも無残な痛々しさを出していた。
だが、幸いなことに息はしているみたいだ。肩が微かに動いているのが見て取れる。
そのことにひとまず安堵した。すると、体に力がこもる。
怒り……なのか? 俺が、あんな会って間もない少女を傷つけられたことに怒りを感じているとでも言うのか?
俺は小さく笑う。
なんだよ。そんなに俺はヒーローに憧れてたのか? まったく、バカバカしい。中二病も大概にしろって言うもんだよな。
でも、今なら、その幻影に身を任せるのもいいかもしれない。
だから、俺はポケットに手を突っ込み、一枚のメダルを手にした。
そして、メダルを空中に打ち抜く。
「俺、御門恭介が願い乞う。理念を貫き、世界を否定し、自身の力を夢の為に、仲間の為に使い、全てを圧倒し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、最強の人間神谷信五の力!」
落ちてくる光り輝くメダルを掴み、俺は最強の力を手にした。
「さあ、蛇野郎。お仕置きの時間だぜ?」