幼女は必ず間違える
試験勉強のせいで更新が定まらなくてすみません……。
読んでくれると嬉しいです
地獄の昼食、午後の憂鬱さを乗り越え、俺は今帰宅している。
俺は自分で自分を賞賛してやりたい。悪魔たちによる地獄の昼食を全て食べ尽くし、吐き気と暑さの二重口撃に屈服せずに今ここを歩いている俺を俺は素晴らしいと褒め称えたい!
と、少しばかりふざけてから、俺はいつものようにため息をつく。
「と、いけね。こんなことしてる場合じゃなかった」
そう、俺は家に向かっている。正確に言えば真理亜の家、だが。
真理亜の家には今、ヨハネという対国家級第一危険人物がいる。どれだけ危険かというと、存在自体で世界の存亡を分けるほどらしい。
まあ要するに、クロエの十倍くらいの危険さということだ。何それ超怖い。
「えっと。着替えに、歯ブラシに……あとは何を持っていけばいいんだ?」
家を出てからこんなことを確認するのもおかしなことだが、それはしょうがないことなのだ。
基本、俺は旅行などするタイプではない。親も親で家に帰ってくること自体が珍しいので家族でどこぞへという家庭ではない。
そのためか、俺は修学旅行などの泊まるタイプの行事では必ず何かを忘れかけることが多い。
かけることが多いというのは、忘れそうになった時に大概は綺羅が必要なものを持ったか確認してくれるのだが、今日は綺羅はまだ家に来ていない。いや、もしかしたら今日はそのまま真理亜の家に行ってしまうのかもしれない。
まあ何にせよ。何を忘れたのかの確認が取れないのだ。
「……なあ、真理亜の家は裕福そうだし、なかったら貰えばいいや」
などと、ヒモ生活を始めようとしている男のような言葉を発してから引き続き目的地に向かった。
「恭介先輩じゃないですか。どうしたんですか? ……あ、もしかして薫に会いに来たとか――」
「ふざけてる余裕が有るなら即刻離れて欲しいんだけど……このままだとお前の幼馴染さんに槍で粉々にされそう」
「大丈夫ですよ。ぶつ切り程度でどうにか収めます」
「そうそう。大丈夫だよ。だって、薫が守っちゃうもん」
そう言って、薫の背中から神々しく光る黄金の翼が生えた。
これは完全なる女神化。半女神化の薫は先の戦いで垣間見たが、完全な女神化は初めて見た。
こんなにも、美しいのか……。
そこまで考えて俺は事の重大さを思い出す。頭をブンブンと振り、好戦に徹している薫を押しとどめる。
「お、おま! 生身の人間にそんなことしたら――」
「大丈夫ですよ。私は、負けません」
「そういうのはいいから! てかなんで二人共そんなに好戦的なの!?」
「「(恭介)先輩のせい(だよ)(ですよ)!!」」
「お、おう」
俺は生まれて初めて、モテるのは辛いと思った。
その後、薫と真理亜は互角の戦いを見せつけ、神社が壊れたのに気がつき駆けつけた神崎の婆さんにこっぴどく叱られた。
ちなみに俺は説教を受けたのだが、なぜだ?
「まったく……なぜ、貴様が関わるとなにか壊れるんじゃ! 何か? 老人に苦労させて喜んでいるのか!? そうなのか!?」
「は? いや、俺は何も壊して――」
ないという言葉が続けられなかった。なぜなら、瞬間的に思い返される今日までの日々、その中に壊していないと断言出来るだけの材料が存在していなかったからだ。
その逆はたくさん存在しているけれど……。
「あの雷龍との一戦でも校庭にクレーターを作り、魔女の時は自分の家、幼馴染とかいう子の時は住宅街、邪龍の時は商店街、こないだの戦いは一番の投資家の経営するビルを木っ端微塵にしおったろうが!」
そう、そうなのだ。思い返せば思い返すほどにそういった記憶が思い出される。
いやね? 俺も壊したくて壊したんじゃないんですよ。てか、半分以上は敵の方が壊しているわけですし、それを直したのこともありますし?
どれだけ言い訳をしても後ろめたさは残る。俺は反射的にか、神崎の婆さんから目をそらした。
「王になろうというものがこういった行為をしてどうする! 今後は貴様がこの国を見守るのじゃぞ!?」
「いや、だからね? 俺は助けようとしたらその副産物として破壊が生じるわけで――」
「たわけ! 強者を名乗るのなら、何もかも完璧に救ってみせい!」
「いや、無理だろ……俺は高が高校生だぜ?」
神崎の婆さんの怒りも十二分に理解できる。しかし、しかしだ。俺は現に高校生なわけで、まだ子供だ。別に子供だから失敗してもいいとかいうわけじゃないが、逃げているわけでも当然ない。だが、経験もなければ、マニュアルすらない戦いをこれまで行ってきてよくここまで安全かつ穏便に済んだものだと考えていただきたい。
てか、俺に全てどうにかさせる大人はどうなんだよ。
と、心の中で愚痴を零しながら俺は説教が終わるまでじっと座っていた。
「いやー、怒られたー」
説教を終えて、ぐっと背伸びをして元気よく言っているのは薫だ。
「なんだか嬉しそうだな」
「ん? ああ、今日だけだけどね。なんて言っても、今日は恭介先輩がそばで一緒にいてくれたから、怒られても何も感じなかったよ!」
注意して欲しいが、俺は別に一緒に怒られてあげると言ったわけではない。なぜか、俺まで一緒に怒られただけであって、薫が言っているようなことなど全く考えていなかった。
「にしても、普段もそんな服装してんのか?」
薫が身につけているのは神社でよく見る巫女装束だった。しかも、薫にはワンサイズ大きいのか大分袖が長い。
しかし、それが似合っていないのかと聞かれるとその逆だった。素晴らしく似合っている。ただの巫女装束なのだろうが、薫が着ることによってなぜか和風感が半端なく、またその姿で薫が笑った顔は輝くダイヤモンドが色褪せるほどの美しさだった。
以前、真理亜の巫女装束姿を見たことがあるが、真理亜は胸が大きいから薫と比べると若干劣る。
「え? ……ああ、この巫女装束? これは……男の人が好きだって聞いたから」
「は? 何、お前誰か好きな人でもいるの?」
「恭介先輩だけど?」
「はいはい。で? 本当は?」
「むー! 本当なのにぃ……」
と、膨れて不貞腐れる薫。まあ、この答えは最初から知っていた、というのはもちろん嘘で。俺は咄嗟にこういう流しを行使したのだ。
なぜか。なぜだろうか。いや、きっとこの距離を保ちたかったのだろう。
前にも言ったか、俺は仲間が欲しい。だが、決してこの脆くて儚い夢のような日常を壊したくない。
親しくなりたいが、今がなくなるのは嫌だとわがままを捏ねているのだ。
拗ねている薫の頭を撫でてやり、中に入ろうと言うと、事件が起きた。
「おい。イチャつくのはそのくらいにして俺の質問に答えろ」
「イチャつてねぇよ。ていうか、どうしたんだよ龍彦?」
怒っているのか、それとも警戒しているのか、龍彦は俺にキツめの声で聞いてくる。
「どうしたもこうしたもねぇ! お前、あいつをどこにやった!!」
「い、いや、何のことだ?」
わからない。分からないが龍彦が怒っていることだけはわかった。
とりあえず、穏便な話し合いをしようとして、俺は手を出すと、
「がっ」
見えない速度で懐に潜り込まれ、そのままボディを強く叩かれた。
反動で俺の体は神社の鳥居をぶち壊し、そのまま重力で固い岩床へと強打する。
直ぐに立ち上がり、俺はポケットに手を突っ込んでメダルを一枚取り出す。
薫も女神化しており、戦う気満々だった。
「一体、何がどうしたんだよ!」
「まだ白を切るのか! お前あいつを、ヨハネをどこにやった!!」
どうやら、この状況を作り出したのは問題の幼女だった。