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お話はリビングの中で

読んでくれると嬉しいです

 さて困った。何がかって? この状況だよ。

 ここは真理亜の家のリビング。金持ちということもあってか金持ちがよく食事をするものすごく長い机に座っているのだが、そこにいるほかの人たちの威圧感が半端ない。

 まず、置いてけぼりを食らったクロエ、凪は先程から俺の膝から降りようとしない。

 自分の家を勝手に使われた挙句呼ばれさえしなかった真理亜は朝、早々に俺の腹を自慢の槍で引裂き、今もムスっとしている。

 綺羅と春は朝の俺と薫のベットシーンを見つけてしまい、何を勘違いしたのか俺に包丁やら陰謀やらの全てを使って朝から俺を陥れている。

 薫は……なんだか幸せそうだ。

 これだけならいつもの日常だ。……いつもの日常だよな?


「えっと。これはどういうことだ?」


 冷や汗が先程から止まらない。

 綺羅たちのこともそうだが、今は目の前にいる龍彦ら一同に焦りを感じている。


「あら、王様の日常を拝見しに来ただけなのだけれど、何か問題が?」

「い、いや。問題は……ないけど。その、さっきから睨んでいるのはなんでですかね?」

「別に、私はゴキブリや糞虫を見る趣味はないわ」


 そうか……それって俺がゴキブリや糞虫と同等ってことか?

 龍彦たちのリーダーらしい女性が超上から目線で言う。


「か、会長。流石にその言い方はまずいです」

「あら、龍彦。あなたはいつから私に文句を言える立場になったのかしら?」

「も、文句とかではなくてですね……確かに、会長がこの状況を面白く思っていないのはわかってるんですけど……」


 会長と呼ばれた上から目線の女は龍彦をキッと睨む。

 龍彦も流石に敬語をになってしまっているが、それがまた面白い。

 しかしながら、今の会話でなんとなくこの会合の意味がわかった。

 つまるところ、これはヨハネと呼ばれる危険人物の今後を担う会合だ。


「まあまあ。内輪揉めは良くないと思うぜ、会長さん。それに、王様も何か言いたそうだ」

(やいば)。お前は少し口を慎めよ……まあ、何か言いたそうなのは本当みたいだけどな」

「あ、えっと。別に話をしたいとかじゃなくてだな。その、朝から何も食ってないんだ。飯ぐらい食わせてくれよ」


 俺の一言で空気が凍った。

 うん。俺も言ったあとで何を言っているんだと思った。

 周りは今の今まで真面目な話をしてたんだぞ? 何が腹減ったから飯食っていいかだよ。ふざけてんの? ねえ、俺はふざけてんの?


「ふふっ」

「奏?」


 (かなで)と呼ばれた少女が緊張感もなく笑った。

 そして、


「なんだか。王様って面白い人だね」


 何とも可愛らしく笑ってみせたのだ。

 その笑顔を見て、龍彦たちは何も言えなくなってしまった。

 奏と呼ばれた少女がどれだけの権力を持っているのかなど知らない。だが、少なくとも龍彦たちよりは権力が上だということだけは認識した。

 つまりだ。あの子の機嫌さえ取っていればなんとかなるってことだ。

 俺は一体いつこの必要ない眼力を手に入れたのだろう? それも不思議だが、何よりもその眼力で見切った権力差を利用しようとした俺が情けない。

 思い返せ、俺は王様だ。つまりこの中で一番権力が上ってことだろ? なのに、なんで俺はみんなに頭が上がらないんだよ。恥かしいにも程があるだろうが!


「奏は黙っていてもらえるかしら。これは私たちの話し合いで――」

「でも、私も関係してるよね?」

「そ、れは……そうだけれど……」

「じゃあ、王香(おうか)は私一人を除け者にしようっていうの?」

「そうじゃないわ。ただ……」

「ただ?」

「もう! 龍彦!」

「え!? 俺ですか!?」

「カードを渡すから奏と一緒にデパートでも買ってきなさい!」


 そう言って、会長さんが龍彦に一枚の黒いカードを手渡しする。

 ん? 待てよ? 今、この人なんて言った? 確か、デパートでも買ってこいって……。

 俺は目の前の金持ちを見て、ああ金持ちってこういう買い方するんだな、と呆れた視線を向けながら思った。


「さて、本題に入りましょう」


 そして、龍彦たちがいなくなったのを見計らって、何事もなく話を続行する会長さん。

 しかし、なんだな。こう見ると龍彦の奴も結構苦労してるんだな。今度会ったら同じ境遇の持ち主ということで優しくしてやろう。

 そう、心に決めて、俺は会長さんとの話を続ける。


「昨日の夜言ったとおり、依頼人にはあなたに預けたと言っておいたわ。了承はしてくれたけれども、顔は怒りでいっぱいって感じだったからちょっかいを吹っかけてくるかも知れないわね」

「お、おい。ちょっと待て。そもそも、お前たちは一体何物なんだよ。国のお偉いさんたちに依頼をされたりとか、異能を持っているとか。なんだか信用に足らない集団みたいじゃないか」

「そう。龍彦ったら何も教えていないのね」


 会長さんは、はあっとため息を着いてから面倒くさそうに語る。


「私たちは風凰学園っていう普通じゃない高校生が通う高校の最も普通じゃない生徒の集まりよ。最も普通じゃない生徒は階級順に分けられた後、生徒会に強制的に入らされるのよ」

「じ、じゃあ何か? 生徒会副会長とか、会長とか名乗ってるのはそういうことなのか?」


 ここでのそういうことというのはお前たちは異能者の中でも類を見ない異能者ってことかという意味である。

 そして、その意図を取ったのか取らなかったのか知らないが、会長さんは首を縦に振る。


「私の能力は他者を意のままに操る『威圧』、龍彦は四人の人格によって力を変える『四天王』。そこでニヤニヤしている男好きは刃って言って能力は『歩く武器庫』。皆、異能持ちで類稀なる変人ぞろいよ」


 その事実を聞いて、俺は飲んでいた牛乳を吹き出した。

 なんだそりゃ。異能者の中でも頭がおかしい連中と今、俺は飯を食っているのか? やめてくれよ。これ以上俺の平穏を崩さないでくれよ。いや、切実にそう思うよ。

 俺はさっきまでのフレンドリーな目で会長さんを見ていられなくなり、少し引き気味に視線を寄せる。


「まあ、ここにいる人以外にも生徒会メンバーはいるのだけれど、今は別の任務に出払っているから、今回は私たち三人であなたを護衛、援護させてもらうわ」

「いやいや。三人って。さっきの女の子は?」

「ああ、奏のことかしら? あれはやめておいたほうがいいわよ。この街が消し飛ぶわ」

「わーおー」


 なにそれ超怖い。てか、女の子はマジでなんなの? 大概の女の子って世界に何か恨みでもあるわけ? クロエ然り、ヨハネ然り、さっきの女の子も然り。どうしてこう女の子は可愛いままでいてくれないのかしら。

 俺がどうしようもないことで悩んでいると、会長さんが呆れたように言う。


「奏の能力はどうしようもなくなった時に使う最後の切り札。だから、使わせないでね? これでも、私はあなたをゴミカスほどには信頼しているのよ?」

「そこはゴミカスを付けないで言おうぜ。まあ、そうだな。街が吹き飛ぶって言われたら使わせたくないしな。しかしだな、俺も一介の高校生なわけだ。それほどの影響力も権力も持ち合わせないわけでだな……」


 俺が渋っていると、会長さんが立ち上がって、言う。


「黙りなさい」


 瞬間、ぴきんっと頭が割れそうな痛みが走る。

 これは初めて会った時と同じ痛み。一瞬で消え去ったあの痛みをまた受けている。

 俺は頭を抱えながら辛うじて出た声を搾り出すように言う。


「っつう」

「ほら、ね? あなたには私の命令が効かない。それだけで私より権力が上で、しかもあなたには私以上の力を有しているのでしょう? それだけ揃っていて影響力も何も言わないでくれるかしら?」

「で、でもな……」

「いい? 力を持っている人はたとえ大人だろうが子供だろうが、女だろうが男だろうが力を持った瞬間に人ではなくなるの。人以外になったら、その先は階級制よ。自分より弱い立場には命令を、強い立場には忠誠を。あなたは今、私より強い立場。だから私は、私たちはあなたに忠誠を誓う。さあ、あなたの命令は?」


 と言って、とても弱い立場に見えない上から目線で佇んでいる会長さんを見て、俺は笑う。

 ああ、面白い。本当に愉快な人たちだ。

 俺は残っていた牛乳を一気に飲み干し、コップを置いてからこう言った。


「自由にしろ」

「……?」


 俺の言葉に会長さんが疑問符を浮かべたのに気がつき、俺は続けてこういった。


「俺は階級制なんてものには興味ない。どっちが弱かろうが、強かろうが関係ない。俺は仲間が襲われたらたとえ神だろうが悪魔だろうが喧嘩を吹っかけて必ず負かしてみせる。俺の持てる知力視力財力腕力脚力全ての力を持って相手をねじ伏せて、その上で俺はすべてを助けてみせる」


 立ち上がり、俺は小さくあくびをしてからゆっくりリビングを出て行く。

 俺がリビングのドアを開けようとした瞬間、会長さんの躊躇ない言葉が突き刺さった。


「あなたの生き方には、必ずミスが生じるわよ?」

「安心しろ。ミスったとしても、傷つくのは俺だけだ」


 言って、俺は振り返らずリビングを出た。

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