年頃の女の子はわからない
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俺はその日の疲れを取るために風呂に入って体をきれいにした。そして、ふかふかな布団でいざ寝るぞと横になると、俺の腕に柔らかすぎず硬すぎない、また温かく心地いい感触に違和感を覚えた。
こんな感触に母性を感じるのはおかしいことだろうか? 否、俺はどこかでこの感触と似た別の感触を味わったことがある。それは確か……なるほど、これは俗に言う胸だな。
「……胸!?」
「あははは。恭介先輩おもしろーい」
「か、薫さん!? 俺のベッドで何をしていらっしゃるんですか!?」
「しー。綺羅さんに気がつかれたら殺されちゃうよ?」
「そ、それは……そうだけど……でも、これはまずいだろ!」
俺の横で俺の腕に胸を押し付けていたのは薫だった。
薫はニコッと悪魔のような笑みを浮かべると、すんっと俺の胸に顔を押し付けて匂いを嗅いだ。
や、やばい。何か……ナニか起きそう……。
「お、おい、薫。まずいって」
「大丈夫だよ。綺羅さんが寝たのは確認したし、あの男の子がこの部屋に来るのはありえないし。それに薫、もう我慢できそうにないんだよね」
「が、我慢って、何に対してだよ……」
「恭介先輩の赤ちゃんが、欲しいよぉ」
今の言葉が嘘のなのか、本当なのか、俺の沸騰しそうな頭では考えることができない。
落ち着け。落ち着くんだ俺。目の前の女の子は確かに可愛いが、まだ中学生だ。襲ったら確実に捕まる。
俺は頭をクールダウンさせるために深呼吸を数回する。
そして、俺は薫の体を無理やり引き剥がすと、
「そういうのはまだ早いだろ。お前が俺をどれだけ好きだろうと、お前はまだ中学生だ」
「……へぇ。恭介先輩って後輩の美少女にこう言われても何も感じないんだ」
「ば、バカ! 感じるに決まってるだろ!」
「それでも我慢するの?」
「まあ、高校生だしな。我慢くらいするさ」
そう。俺は高校生だ。中学生よりも決まりや規則に厳しく、それらの柵を我慢することに関してだけは負ける気がしない。
ゆえに、今回も俺は我慢する。どれだけ愛情を魅せられても、与えられても、俺はそれを拒否する。
それが、俺が決めたルールだ。
「なんか、恭介先輩っておかしい人だよね」
「何が?」
急に薫が真面目な顔でそんなことを聞いてくる。
「だって、目立ちたくないのに騒動の真ん中にいるし。普通を装ってるのに異能を使うのに躊躇がない。恭介先輩は一体どっちなの?」
「……さあ、どっちなんだろうな」
仰向けで天井を見ながらそう言うと、俺に跨っている薫は首を傾げて不思議そうに俺を見続けている。
「わかんないよ。薫には恭介先輩はわかんない。どうして、いつもいつも傷つく方を選んじゃうの?」
薫の悲しそうな目を見て、俺はハッとなる。
そうか。コイツは、薫はこの疑問を解消させたかったのか。
確かに、俺は自分が傷つく選択を常に選んでいる。なぜか? それが一番いい方法だからだ。
この世には犠牲を払わないで多を得るノーリスク・ハイリターンなんてものは存在しない。いつだって、多くの犠牲を伴っている。
そして、悲しくも人間ってのは自分が一番可愛いんだ。自分が可愛いから自分を犠牲にする選択を無意識に外して、他を苦しめる。そんなシステムが存在する。
なら、なぜ俺は自分を犠牲にするのか。それは、そうしなければ誰も幸せになれないからだ。
「なあ。薫」
「何?」
「俺はな。怪物なんだ」
「……うん」
「怪物はな。いつだって仲間を欲してるんだよ」
これが答えだ。俺は仲間が欲しい。誰も俺を見捨てない絶対の仲間を。
それを作るには絶対の信頼が必要不可欠だ。だから俺は、自分の代わりに仲間を守るし、仲間を死なせる行為は一切しない。
「そんなの、答えじゃないよ」
「じゃあ、なんて言えば納得してくれるんだ?」
「薫は、恭介先輩のことが好きだよ? 恭介先輩は? 薫のこと好き?」
「俺は……お前のことが好きだぞ」
「仲間として、だよね?」
「ああ」
俺の答えに薫は小さく息を吐く。
呆れられたのか、絶望してしまったのか、もしくは……
「しょうがないね。それが、恭介先輩だもんね。でも、薫は諦めないよ?」
「どうぞご勝手に。本気になれば、俺も揺れるかもな」
「ホント!?」
「かもな」
「むー!」
薫は頬を膨らませて俺の上ではねている。
アハハ。お子ちゃまだな~。マジすみません、痛いです。そろそろやめてください。
しばらくの間、薫のお怒りメーターが下がるまで自由に俺の体で遊ばせておいていたら、急に薫が俺の体に重なるように崩れた。
すると、
「恭介先輩」
「な、なんだよ」
「眠たい」
「自分部屋に行こうか」
「ヤっ」
「行けよ! このままだと寝づらいだろ!?」
「薫ね、不機嫌なの。わかるかな? 薫はね、恭介先輩の素っ気無さに怒ってるの!」
「あー、わかったわかった。いいから自分の部屋に――」
言い切る前に柔らかくて温かい何かに口を塞がれる。
判断するまでもない、キスだ。何度もされすぎて見て判断するよりも感じて判断できる程になってしまっている自分の体が恨めしい。
しかし、だ。ホントに何度目だろう。薫とキスをするのは。
「お前な……」
「へへ♪」
ジト目で薫を見つめると、薫は頬をやや紅潮させて微笑んだ。
そして、再び俺の胸に頭を置くと、
「すーすー」
「今のはお休みのキスか? あ? なあ、薫さんよ……」
薫からの返事はない。完全に寝てしまったようだ。
ここで思い出して欲しい。今は夏だ。つまり、ただでさえ蒸し暑い。そこで人肌の温度を持った布団をかけて寝てみろ。熱くて死ぬ。
今の俺の状況はそういった状況だ。
薫は極度の寒がりで夏の今でも長袖で寝ている。その上掛け布団をかけ、俺を抱き枕か湯たんぽのように扱って気持ちよさそうに寝ている。
目の前で無防備に寝ている女子がいたとしてもこのシチュエーションは勘弁被りたい。
まあしかし、
「気持ちよさそうにしてるならそれでいいか」
俺は逆襲を兼ねて、頬を軽くつつかれて嫌がっている薫を見て静かにそういった。
そう、俺はこれでいい。こうやってみんなと一緒に今を生きていたい。たとえ、仲間が世界を壊すとか、そんな異能を持った幼女や、おかしい少女たちだったとしても。
「恭介先輩……」
寝言なのか、薫の口から俺の名前が飛び出す。
すると、薫はハニカンで、
「……大好き」
と、何とも幸せそうに言うのだった。