危険人物、ヨハネ
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お腹がすいたと言って寝床とから出てきたせいでひどい目にあったが、預かっている手前飯を与えないわけにも行かず、仕方なく綺羅に飯を作らせた。
え? よく鬼神化した綺羅を言いくるめられたなだって? そこは簡単だ。お前の料理が急に食いたくなったと言ったら簡単に了承してくれた。
「にしても、お前の女は怖ぇな」
「何回言うんだよ。まあ、認めるけど」
「よく生きてられるな」
「よく死んで生き返ってるよ」
机について、たわいもない話をする俺と龍彦。
てか、龍彦の野郎ちゃっかり飯食って行く気だな? させないよ? お前は食べさせないからな?
「てか、帰れよ」
「監視するって言ったろ? 帰る気はない。まあ、腹も減ったしな」
「食わせねぇよ?」
「なんでだよ! いいだろちょっとくらい!」
「お前のせいでこうなったんだからな!? 少しくらいは反省してくれませんかね!」
「何が反省だ! 元はといえば――」
「うるさい! ご飯できたよ」
「「お、おう」」
綺羅の一喝で俺と龍彦はぶるっちまった。
と同時に、目の前にある豪華すぎる飯を見て眼が輝く。
な、なんだ、この豪華さは。伊勢海老とか一体どこにあったんだよ。てか、勝手に使っていいのか? アワビとかもありますけど!?
あまりの豪華さに少しだけ食べるのを躊躇していると、俺の膝に座っていた幼女がパクパクと飯を食っていく。
「行儀悪ぃな。いただきますくらい言えよな」
「ふぇ? あ、い、いただきます、です!」
「今更遅ぇよ。まあ、美味しいならいいけどな」
「はい、です! めっちゃ美味しい、です!」
本当に美味しそうに食べる幼女を見て、俺は違和感を覚えた。
そういえば、俺はまだこの子のことを何も聞いていないな。名前すらわからないとか論外だろ。
ということで、龍彦もいることだし聞いてみることにした。
「なあ、お前なんて言うんだ?」
「わ、私はヨハネ、です!」
「ヨハネ? はて、どこかで聞いたことがあるような……」
俺が思い出していると龍彦が丁寧な手つきで飯を食べながらこう言った。
「ヨハネの黙示録。それの作者だ」
「へぇー……で、それ何?」
「この世の終りを綴った聖書だ」
この世の終わりね。また御大層なものを書いてくれちゃって。で、それが何か悪いことなの?
「お前、それがどう悪いのかわかってないな?」
「いや、中二病なお前と違って状況がよく飲み込めないんだけど……」
「中二病じゃない! ……端的に言うと、そいつはその聖書に書かれている一節を実際に起こせるんだよ」
「へぇー……は!?」
「やっと状況がわかってきたみたいだな」
「ああ……お前が食ったのは俺のエビフライだ!」
「駄目だこいつ」
龍彦は頭を抱えて唸っている。
唸りたいのはこっちだよ! 俺のエビフライ! 返せ! 吐き出してでも返せ! いや、やっぱ吐き出さなくていいかな?
エビフライを食べられたことよるため息を一つして、俺は冷静な頭でさっきの言葉の意味を考える。そして、
「はぁぁぁぁ!? そんな危なっかしいものを実際に起こせるだぁあ!?」
「ほんとにお前は何なんだよ! ああ、そうだよ。お前の膝に座って飯を食ってる幼女はそれが可能な力を持つ危険人物だ」
「ちょ、おま、ヨハネ!」
「はい、です?」
「お前、世界を終わらせることができるのか!?」
「はい、です!」
「怖ぇよ! 何この幼女。てか、俺の周りはホント危ない奴ばっかだな!」
この幼女然り、クロエ然り。ほんとね、なんでしょうねこの幼女たちは。最近の幼女は能力持って生まれてこないと何かあるわけ?
にしても、俺のひざに座って美味しそうに飯を食ってるヨハネが世界をねぇ。
俺は口いっぱいに飯を頬張るヨハネの頬を突く。
すると、ヨハネは俺の方を向き首をかしげた。
「何ですか、です?」
「いや。可愛いのにそんなに危険なんだなぁって」
「嫌いになりました、です?」
「別に? 俺の周りにもこないだ北半球を吹き飛ばそうとした奴がいたから何も感じない」
「そうなんですか、です! えへへ♪」
そう言って、ヨハネは俺の胸に顔を押し付ける。
ああ、可愛いなぁ。でも、俺の横で真っ黒な炎を燃やしてる綺羅様がいらっしゃるからお戯れはよそうね? 俺、殺されちゃうからね?
嬉しさ半分、恐怖半分の夜食を終え、俺は再び寝てしまったヨハネをベッドに寝かせに寝室来ていた。その後ろに龍彦が付き添っている。
「おい」
龍彦が俺に言う。
「なんだよ。もうお前を中二病扱いなんてしねぇよ」
「そういう意味の呼びかけじゃない! そうじゃなくて、鎖とかで縛らなくていいのか?」
「は? 何、お前そういうプレイが好きなの? 引くわー」
「バカ言ってる暇があったらちゃんと考えろ。もしそいつが逃げたらどうする気だ?」
龍彦は真面目にそんなことを言っている。
まったく、心配性だな。そんなことしてもメリットなんてないだろうに。
「大丈夫だ。コイツが逃げる確率は低い」
「低いだけでゼロじゃない。俺たちは確実性を求めてんだよ」
「ああわかったわかった。じゃあこうするよ。使徒聖ヨハネ」
実はヨハネの黙示録という本には俺が中学二年の時にお世話になった聖書だったこともあり、ヨハネの本名らしきものは知っていた。
よって、俺は切り札である絶対服従の言霊を発動し、瞬間寝ているヨハネを輝く鎖が縛り上げていく。
既に切り札は使いこなせているため、了承なしで仲間にできる。したがって、ヨハネは逃げられなくなったのだ。俺という存在から。
「お前、何をしたんだ?」
「これで逃げても問題ない。死んでも蘇るし、逃げられても呼び戻せる。これでいいだろ?」
「……呼び戻せるならそれでいい。俺はこの辺りをくまなく調査してから床に入る。お前は勝手にしろ」
「へいへい」
なぜかピリピリしている龍彦の命令に俺は適当に返事しておいた。
龍彦は部屋を出て、周りの最終確認をしに行ったのだろう。そんなことをしなくても、真理亜の家はただでさえ見つけるのが困難なのに。
まあ、好きでやっていることだから止めはしないけど。
「んー! 俺も寝るかな」
なんだか、いつも以上にいろいろあって体が疲れていたようだ。
いつもはもっと遅い時間に襲いに来る睡魔も、今日だけは時間を間違えて早めに来てしまっている。これは、寝るに越したことはない。
俺は小さくあくびをしながら床に入るのだった。そこに薫がいるとも知らずに……。