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王様稼業も楽じゃない

 一応、電話でみんなに幼女を預かったと連絡して、今日は真理亜の家に泊まることをついでに伝えたら一体どうなるか。こうなります。


『……てことは今、真理亜ちゃんの家にいるんだね?」

「お、おう。というか、なんでそんなに怒ったような声で話してんの、綺羅さん?」

『わからない?』

「すまん、なんかすまん」


 その後、電話を強制的に切られたと思った瞬間、薫が俺の背中に抱きついてきた。

 ふにょんと中学生らしからぬ胸が俺の背中に……いや待て、その前になんで薫がここにいる?

 俺は冷静になった頭で薫を退かして、急速に考える。

 薫がここにいる。ここは真理亜の家。さっきの電話は綺羅の携帯。これらから導き出される答えは……死か。

 ここまでかかった時間コンマ1秒、逃げ出すまでにコンマ5秒。

 これほどまでに素早く動いたにも関わらず、俺は捕まった。悪魔に。


「覚悟はいい?」

「な、何の!?」

「恭介くん。まさかここまでおバカさんだとは思わなかったなぁ」

「は、春さん!? なんでそんな冷たい笑顔で笑ってるの!? 待て! 誤解だ! お前らは何か重大な誤解をして――」

「幼女を預かったとか犯行声明しておいて、家に来たら薫ちゃんはいる。つまり……死にたいってことだよね?」

「違うから! 幼女を預かったのは本当だけど、薫はなんでかいるだけだから!」

「ひ、ひどい! 恭介先輩、今日は一緒にいたいって言ったじゃん」

「言ってねぇよ! あ、待って、包丁危ないから! 包丁は危ないから!!」


 グサッと鈍い音を上げて突き刺さる包丁を見て、俺は思った。

 ああ、もうヤンデレいや!

 目を覚ますと、俺はベッドに縛られていた。

 ああ、うん。わかってた。でもさ、少しくらい夢見させてくれてもいいよね? ね?


「おはよ、恭ちゃん」

「視線が痛い……」

「何期待してるの? 犯罪者さん?」

「待てよ、あの幼女に聞けよ、俺は犯罪者じゃ――」

「そうだね。空から降ってきた女の子をキャッチしたら変な人たちに巻き込まれるなんて嘘を、よくを平然と言わせられたね」

「あ、いや、それがその、ホントのことで……」

「ふーん」


 よくよく考えてみればそうだ。空から幼女が降ってくるとかどんな怪異だよ。しかも、そのあとに変な奴らに事件に巻き込まれるとかどんな天文学的数字の確率ですか?

 でもだ。でも、今回はそれが起きた。起きちまったんだよ! 俺は嘘は言っちゃいねぇ!


「はぁ。なんで私、こんな面倒な人を好きになっちゃんだんだろ」

「しょうがないだろ。それが恋だ」

「ブツよ?」

「やめて。聞いてない、さっきの言葉は全くこれっぽっちも聞いてない!」

「はあ……まあ、恭ちゃんはこういうのによく巻き込まれる人だったけど、今回はちょっと信じられないかなぁ」


 くっ、何か、何か物的証拠でもあれば!

 そこで思い出す。タナトスだ。あいつならこの状況を打破できる……かもしれないが、嘘をつく確率のほうが高い。なぜか? そっちのほうが面白いからとかだろう。タナトスの考え方は親父のそれと同じだ。親父だったら、絶対そうする。間違いなく俺を陥れる。

 他に何かないのか! 

 焦っていると、ドアをノックする音が聞こえてドアが開かれる。

 するとそこには、


「失礼する……失礼しました」

「待てゴラ! この状況をどうにかしてから行きやがれ、龍彦!」

「いや、えっと、人違いじゃないですか? 俺にはあなたみたいな特殊な知り合いはいませんが……」

「いい人ぶってんじゃねぇ! 昨日襲ったのはお前だろうが!」

「なっ、襲ってない! 交渉したんだ!」


 ベッドに縛られている俺と、ドアにしがみついている龍彦の視線がぶつかり火花を散らす。

 しかし、そんな争いはすぐに収められた。鬼神化した綺羅の一言によって、


「……黙れ」

「「はい」」


 俺と龍彦は等しく正座させられ、それから綺羅のきつい質問にビクビクしながら答えていくのだった。


「じゃあ何? その男の子が幼女を襲ったと?」

「そうだ」

「そうじゃない! 襲ってなんかいない!」

「って言ってるけど?」

「俺が嘘つくように見えるか?」

「めっちゃ見える」

「お、おう。そうか」


 どうやら綺羅さんは俺と龍彦をゴミ以下のような存在だと勘違いしている模様。

 これは、マズイな。どうにかして龍彦だけに収めないと俺の命が危ない。


「い、いやね? あの子が危険だとか言い出して襲ってきたんだよ!」

「本当に?」

「そ、それは、嘘じゃないけど……でも!」

「言い訳は、いらないんだよね。とりあえず、私の質問にはハイかイエス」

「それって、どっちも認めてるんだけど……」

「不満が?」

「いえ、何もありません」


 鬼神と化した綺羅の言葉攻めに龍彦は何も言えず、そのまま縮みこまってしまった。

 よしよし、このままこいつのせいにしてしまえば……。

 だが、神は何故存在するのだろう。なぜ、俺を苦しめる? ここであの幼女を登場させたら俺の破滅が目に見えているだろうに。

 そう、助けた幼女の登場だ。


「あの……お腹すきました……です」

「恭ちゃん。もう一度だけ聞くね? 恭ちゃんたち二人は、こんな女の子を追い掛け回してたっていうの?」

「「あ、いえ、それは……」」

「いっぺん、死んでみる?」

「「あ、えっと、お断りは……」」

「出来ると思う?」

「「ですよね~」」


 天罰だ。これは何かの天罰だ。きっと何か俺が悪いことでもしたんだろう。いや、いっそこれが夢なら上出来だ。でも、こんなに痛いのに起きない夢ってあるんだろうか?

 地に伏せる俺と龍彦。龍彦は小さい声で唸るようにこう言った。


「お前の仲間、怖ぇな」

「知ってる」


 初めて、俺と龍彦の意見が一致した瞬間であった。

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