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大変な一日の始まり

読んでくれると嬉しいです

 今日、俺は変な唸りを聞いて目を覚ました。

 するとそこは……


「んんっ!! んんんんんんん!!!!!」

「ひとつ聞く。お前は一体何をしてるんだ?」


 縄に縛られ、口を閉ざされている綺羅が涙目で俺を見ていたんだ。

 待て待て待て。どうして綺羅が縛られてんの!?

 俺は動き始めた頭をフル回転させて、現状の異常を見出し、原因を考える。

 綺羅が自分で自分を縛ったのか? 綺羅はそんなマゾ……とんだマゾだな、おい!! って、違うだろ! 綺羅はサディストだけど、マゾじゃない。つまりだ。


「まだ、綺羅を縛った奴がこの家にいるかも知れないということか」


 俺は布団から出て、自室を出る。

 廊下に出ると、トントントンとリズム感の良い音が響いてきていたので、それの場所に向かう。

 その音はリビングに続いており、そこで俺が見たものとは……


「おおう。なんであなたが俺の家にいるのでしょうか?」

「一応聞きますけど、なんで先輩が敬語なんですか?」

「そりゃあ……そういえばなんでだろうな」

「はあ、これだから契約者――バカは……」

「言い直すなよ!!」

「すみません。ちょっと口がお茶目をしました」

「滑っただけだろ!?」


 なんだよ、口がお茶目をしたって……どんな言い間違いだよ。

 俺はなぜか俺の家にいる神崎真理亜を見て、朝早々に頭を抱えて天を仰いだ。

 そういえば、なんでコイツがここにいるんだ?


「なんでお前がここにいるんだよ……」

「はい? 見てわかりません? 朝ごはんを用意しに来たんですけど」

「なんでお前がここにいるんだよ……」

「なんで同じ質問なんですか!? さすがに怒りますよ!」


 いや、知らねぇよ。てか、なんで怒るんだよ。

 しかし、俺はエプロンをつけて怒った顔をする神崎を見て、少しだけニヤついてしまった。


「なっ、なんで笑うんですか!! そ、それともこの格好にどこかおかしいところでも……」

「いやいや、おかしくねぇよ。むしろ似合ってる方だ。ただ、似合いすぎてどこぞの母親のように見えただけだよ」

「は、ははは、母親!? わ、私、まだ心の準備が……」

「ん? どした? 顔真っ赤にして」

「し、知りません!!」


 な、なんで怒ってるんだ? もしかして、似合ってるって言ったのがまずかったのか?

 じゃあ、なんて言えばよかったんだ?

 俺は大して良くもない頭を回転させ、ある言葉を思いついた。


「ぶ――――」

「はい?」

「ブ――ス! に、似合ってないんだよ。そんな格好!!」


 シャキーン、そんな甲高い音がした瞬間、俺の首元に冷たいものが押し付けられた。


「もう一回、言ってくれませんか?」


 お、おおう? もしかして、喜んでる?

 そう勘違いした俺は、愚かにももう一回、さらにひどい言葉を加えて叫んだ。


「ただデカイだけの巨乳バカが、そんな格好しても――――マジすみません!! 言う気はなかったんです!! 本当です!!」

「ただデカイだけ……い、言いましたね? わ、私が一番気にしていることを、よくも抜け抜けと……殺します」

「待って――――!! 目が本気だから! めっちゃ怖いって!! ぎゃああああああああ!!」


 首に当てられていたものはなんと、神崎愛用の槍だった。

 神崎はそれを振りかぶって、光のない瞳のまま振り切る。

 俺は既のところで逃げたが、どうやら神崎は俺を本気で殺るらしい。目が、ね? 本気の目だったよ。


「お、落ち着いて考えろ。俺は殺そうとしても殺せないんだぞ? な? ほら、槍を置いて……」

「知りません! 先輩が死のうが死ぬまいが知りません! 私が殺します!」

「待て! 話せばわかる! わか――ああもう! 好きにしやがれ! グゲッ」

「死ね死ね死ね死ね! 死に晒してしまえばいいんです!!」

「ひどいから! それ、八つ当たりって……」


 殺されました。実に三十回ほど。







 真っ赤に染まったリビング。そこで目が覚めた俺は、息を切らしている少女、神崎を下から眺めた。


「お前、真っ白なパンツ履いてんのな」

「ホンット! もう! どこ見てるんですか!」

「それで? 落ち着いた?」

「……ええ、まあ。先輩を刺すと心が落ち着きます」

「どこのサディストだよ。ったく、人の話をちゃんと聞けっての」


 俺は上半身を起こして、深くため息をついた。

 すると、神崎も流石に悪いと思ったのか、床に正座する。


「そもそも、先輩があんなことを言うのが悪いんじゃないですか」

「ああ、それもそうか。でもな? お前、俺が褒めたら怒ったじゃねぇか。だから、逆に馬鹿にしたら嬉しがるのかと、思ったんだけど……」

「先輩はバカを通り越してアホですか? 褒められて怒ったのは……その、照れ、というやつです」

「ああ、なるほど。それでか。じゃあ、全面的に悪いのはお前だな」

「な、なんでそうなるんですか! 先輩に決まってるじゃないですか!」

「いやいやいや、そんなわかりにくい態度をしたお前が悪い」


 再び喧嘩が起ころうとする中、ドンッと大きな音がして、俺たちの喧嘩は中断させられた。

 そして、ドアから廊下を見ると、特に目立ったものはな――あった。

 それを見た俺はガクガクと足を震わせた。


「どうかしたんですか?」


 神崎は俺の不自然さに気がつき、様子を伺ってくるが、そんなものは今の俺には受け付けられなかった。

 なぜなら、そこに怒り狂った綺羅が獲物を探すように彷徨っていたから。

 そして、その綺羅を止める術を、俺は知らなかったから。


「神崎」

「は、はい」

「逃げろ」

「は、はい?」

「全力でここから逃げろ!!」

「な、なんでですか!」

「怪物が、そこにいる」

「は?」


 逃げろと命令した瞬間、リビングのドアが開け放たれた。

 急激に冷えていく世界。いや、体感温度。それらが示しているのは、目の前の恐怖から逃げろということだけだった。

 全人類に忠告しよう。

 ――――綺羅が怒ったら、マジで怖い。

 ということで、


「逃げろぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

「え、ええぇぇ!?」


 今日も今日もで、ハイスペックゾンビは苦労してますよ、はい。

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