死にました
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世界とは何か――――
それは歯車だ。
それは未完成なものだ
それは見えないものだ。
それは未来があるものだ。
どれもこれもくだらない言葉だ。
俺、御門恭介が考えるに、世界とは『ない存在』だ。
こんなことを言えば、他の人達は皆笑いながら口を揃えてこう言うだろう。
「お前は、中二病か」
とな。
まあ、普通に考えてそうなるのだろう。
しかし、ここで注意してもらいたい。俺は、中二病ではない。
そもそも、俺がこう考えるに至ったのは、あの馬鹿な神のせいなんだからな。
朝とは、とてつもなく嫌気が差す時間帯だ。
なぜなら、俺は朝に弱いからだ。
日差しが窓を通して俺の額に当たる。嫌でも朝だということを認識せざる負えない状況が、新しい日が始まったという現実が、俺はとてつもなく嫌いだ。
そして、俺が朝が嫌いな理由はもう一つ。
「恭ちゃん! 朝だよ、遅刻しちゃうよ!!」
俺の部屋に図々しくも入ってきて、尚且つ俺の名を大声で叫んでいるのは幼馴染の仲嶺綺羅。
そう、俺が朝を嫌うもっともな理由はただ一つ。コイツが俺を起こしに来るからだ。
「遅刻なんてするか。まだ六時半だ」
「今からご飯食べたりしてたら遅刻だよ!」
「お前の頭の中は何にも入ってないのか? そのバカみたいに伸ばしたポニーテールに隠されている頭の中は空洞か? チーズか?」
俺が綺羅の腰まである長い髪を寝ながら引っ張る。
「いたっ! 何するの!!」
「朝からうるさいんだよ。なんでこう毎日起こしに来る? 俺のことが好きなのか? ああ?」
「す、好きって……そ、そんなことあるかバカ――――!!」
綺羅をいじりすぎたせいで、思いっきりビンタを受けてしまった。
まあ、俺に非があるからしょうがないのだが……何もそんな強気で否定しなくてもいいと思うんだがな。
俺はビンタのせいで眠気が飛んだので、仕方なく制服の袖に手を通してリビングに向かった。
リビングには少し多めな朝食が用意されており、俺は自分の席に座ってテレビをつけた。
「牛乳にする? 麦茶もあるようだけど」
「ああ、牛乳――待て、なんで勝手に人の家の冷蔵庫事情を模索しているんだ?」
「え? いつものことでしょ?」
「はあ……」
「なに、そのお前はわかってない的なため息は」
いや、実際わかってないだろ。勝手に人の家の冷蔵庫覗くなよ。
俺は、それでもコップに注いでもらった牛乳を一口飲んで喉を潤わせる。
さて、今日のニュースは、と。
「また、この近くで少年たちの失踪、か。これで十件目だよ?」
「いつものことだろ? それに、俺たちには関係ないさ」
トーストにかぶりつき、ニュースの続きを見る俺。
綺羅はもうすでに朝飯を終えているらしく、ゆっくりとココアを飲んでいた。
そのあともいつもとなんら変わらないニュースばかりで、特に目立ったこともないみたいだった。
「恭ちゃん早く!」
「バカ、走らなくても間に合うだろ。急かすな、忘れ物とかしたらお前に取りにこさせるぞ」
いつまでもマイペースな俺にしびれを切らしたらしい綺羅は、先に外に出てしまって、俺も少し遅れてから外に出た。
外は普段より肌寒かった。春が近いっていうのになんでこんなに寒いのだろうか。
まあ、気温のことで文句を言っても始まらない。文句なら、学校が存在していることに関して言うべきだな。
「恭ちゃん危ない!!」
目先にいた綺羅から、敷地を一歩出たばかりの俺に忠告があった。
しかし、俺には何のことだかわからず、その場に立っていてしまった。
それが、俺の過ちだ。
「恭ちゃん!!」
ダンプの急ブレーキの音。鈍く濁った音。そして、撥ねられた為に生じた強烈な痛み。
コンクリートを自分の血で染めていく中、俺は思った。
ああ、死んだな、これは。
なんとも無簡素な、そして他人行儀みたいな言葉だが、それくらいがちょうどいい。
なぜなら、俺と関係性を持った人物は家族、綺羅。あとはほどんど接しなかったのだから。
看取られる相手がいない。これほどまでに興味のない、面白みのない人生の終わりを飾るのに素晴らしい言葉じゃないか。
「ふふん。君はそう思っているのかい」
死にそうな痛みの中で辛うじて目を開けると、目の前には宙に浮いた少年がいた。
……とうとう頭がどうかしちまったらしい。死にそうなのが原因か。
「おいおい。僕を妄想の中の住人になんてしないでもらいたいな。僕はれっきとした神様だよ?」
ダメだ。こいつもどうやら頭がアレならしい。
俺がため息をしようとして、出来ずにいると少年が、
「とりあえず、魂だけになってみようか」
そう言って、俺の頭を掴むとなにかを引っ張るように、俺から俺を引っ張り出した。
「わぁお。俺がいるぜ。これがホントの幽体離脱か」
俺の率直な感想に少年は笑いながら宙を舞った。
そして、少年は俺に指を差す。
「君は面白い。僕は気に入ったよ、君が。今までいろんな世界を見てきたけど、君ほどに能天気な人は見たことがないな。最高だよ」
褒めているのか、馬鹿にしているのか。どちらとも取れない言葉を言ってから少年はヘラヘラと笑いながら再びクルクルと回り始めた。
「君に三種の神器を与えてあげようかな」
「三種の神器?」
「そうだよ。三種の神器。と言っても、剣とかじゃないよ。もっと面白いものさ」
そう言って少年は俺に数枚のメダルを投げてきた。
「……これは?」
「見たまんまさ。メダルだよ。もしかしてわかんない?」
いや、言われなくてもそれくらいわかるよ。しかし、三種の神器になぜメダル?
「それにはね、五人の他世界の主人公たちの力の一部を込めているんだよ。状況次第では君を助けても裏切ってもくれるものさ。二つ目は、絶対服従の言霊をあげよう」
「は? 絶対服従?」
「そうさ。絶対服従っていうのはその名のとおり、君が呼んだ名前は相互理解があれば君の眷属になる。いいものだろう? 嬉しいだろう?」
なんとも面倒な神器だな。嬉しくもなんともねぇよ。なんだよその変な神器は、必要性ゼロじゃねぇか。
しかし……名前、名前ねぇ?
俺はニヤッと笑って少年に聞いた。
「なあ、お前はなんて言うんだ?」
「へ? 僕はタナトスだけど?」
「そうか。タナトス」
俺が名前を呼ぶと、タナトスと名乗った少年の体に鎖が巻きついていく。
それはまるでクモの巣のようにタナトスに絡み、身動きを取らせないようにしていく。
「これは、どういうことかな?」
「いや、ただ単にお前を仲間にしようとしているだけだけどな」
俺が真面目な顔で言うと、タナトスは笑い始めた。
「相互理解が必要だと言っただろう? 君は思っていた以上に馬鹿だったのかな?」
「だから、お前が了承すればいいんだろ? 簡単な話だ」
「……君は、僕が了承すると、本当に思っているのかな?」
「当たり前だ」
タナトスは驚きの顔をして、俺の顔を見る。
男が俺をジロジロ見るな。気色悪い。
「はっはっはっは!! 面白い。本当に面白いよ!! いいだろう。君の眷属になってあげようじゃないか」
タナトスがそう言うと鎖はちぎれ、タナトスの体に自由が生まれた。
ん? 待てよ? タナトスって確か……
「さあ、君は僕という神を眷属にしたんだ。何をする? さあ、何をしたい!?」
「いや、するも何も、俺は死んでるんだが」
「そうだったね。じゃあ、最後の神器。死ねない体を君にあげよう!」
死ねない、体?
その言葉のニュアンスがおかしいことに気づき、俺が首を捻っていると、
「死なないではないよ! 死ねないんだ、君は!! これから一生、老化せず、死ねず、世界が終わるその日まで生きているんだ!!」
なるほど、なんとなくだけど、意味はわかった気がする。
「つまり、俺は本物の生きるゾンビになったということか」
「そういうことだね。理解が早くて助かるよ。さあ、続きは後だ。もうすぐ、君は体に戻っていく。じゃあ、また後でね。親友」
親友と呼んだタナトスに、俺は苦笑いをしながら、
「神様に親友とか、言われたくないんだけど」
案外真面目な意見をぶつけて意識を取り戻した。
次回はシリアス感をどうにかして、コメディー調でやるつもりです!