マスターの唄
一番目のマスターはあたしを見た目で嫌った
マスター不在に奥さんが間違えてあたしを採用した
コーヒーSHOPには似合わないなんて
結局最後は辞めないでくれって
泣きついてきたくせに
それから潰れたよね、あのお店
二番目のマスターはあたしを可愛いがった
マスターの家族と一緒に食べるご飯は温かかった
マスターの揚げるトンカツは最高だよ
でもラードが合わなかったの
それに奥さんの笑顔
温まると気持ち悪くなっちゃうの
三番目のマスターは顔が思い出せないくらい
存在が薄かった、濃いのは奥さんとそのお友達
優しくて親切な馴れ馴れしいソファ
だからそういうのだめなの
珈琲の香りだけ深みがあるの
マスター、何か話して欲しかった
四番目のマスターはどこにでもいるような人
カウンターでお酒出してあたしが笑えないから
笑ってくれて、喋れないから喋ってくれて
楽しみなんてぐっさりどっさり
マスターのお店は秘密の宝庫
だれかとスキーに行く約束したっけ
五、六は省略
七番目のマスターは偉そうに構えてた髭の人
やっぱり奥さんの言いなりになってストレス悶々
全然お店に来なかったマスター
カラオケがひとり流れてた
あ、お土産もらってったの
あたしじゃないよ、鍵はあたしだけど
あたしが出会ったマスターはみんな哀しいの
みんな誰かに怯えているの、震えているの
マスターはとても可哀想
うん、あたしは嘘つきだから
本当はあたしはチーフが好きだった
七番目のチーフの顔だけ思い出せるの




