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狙撃戦

4月11日(土)


 目覚ましが鳴る。重たいまぶたを持ち上げ、手を伸ばし目覚まし時計を止める。土曜日にも関わらず陸上部の練習は週末等お構いなしにあるため、週末はやや憂鬱になってしまう。体を起こし練習に向かう準備を始める。


「おはよう」


 居間にいる母親にしっかりとあいさつを交わし、母手作りの朝食をいただく。我が家では朝食は和食と決まっている。ご飯に味噌汁、その他おかず一品と質素な感じだが、とても満足している。食事を済まし陸上部のジャージに身を包む。弁当を鞄にしまったことを確認し、家を出る。


「いってきます」


「行ってらっしゃい」


 いつもと同じ通学路を通る。いつもと違うことを挙げるならば隣に純君がいないくらい。そんなことを考えながら駅に向かって歩く。駅につき、電車に乗る。学校に近づくにつれて電車に乗ってくる人が増えてきた。そんな中見知った顔を見つけた。自分から近づき声をかける。


「おはよう。ユッキー」


「ん?あ、おはよう。あゆみん」


 冴羽 幸穂。同じクラスの友達。高校に入って初めてできた友達だから、大切にしている。


「やっぱり土曜日の練習ってめんどくさいよね」


 幸穂も同じことを思ってたらしく、気分が落ちているようだった。くだらない話をしつつも学校へと歩みを進め、グラウンドにたどり着いた。早くから来ている人がいるようで、個人練習を始めていた。近づくと相手はこっちに気づいたようだ。


「あゆみん、ユッキー、おはよう」


「おはよう」


 立林 風子。陸上部になってから接点ができて仲良くなった。クラスは違うからあまり話す機会はないけど、部の仲間として信頼できる友達だ。


 練習の準備を進めていくとどんどんひとが集まり、練習が始まった。私と幸穂、風子はみんなやっている種目が異なるため、練習は一緒じゃない。私はやり投げをやっているが、あまり成績はよくない。幸穂はハードル走をやっている。結果は残せてはいるが、最近は伸び悩んでいるらしい。風子は100メートル走をメインでやっている。部の中でも速い方で大きな大会まで出場している。


 ―――昼食をとる時間になり、自然と三人で集まった。雑誌を持ち込んで服の話など、いつも同じような当たり障りのない会話をしていた。ふと、幸穂の目元に視線が移る。うまく化粧で隠していたが、クマがでていた。幸穂の家は学校から遠い方だが、クマができるほど早い時間に集まったわけではない。


「幸穂、クマできてるけど、昨日なんかあったの?」


「ちょっと昨日寝れなくてね」


 詳しい話を聞こうとしたが、悩んでいたわけではないためうまく聞き出すことができなかった。日が沈み始めた頃、練習が終わった。それぞれが帰路に着くなか、私達は三人でファストフード店により、軽い食事を済ませた。特に用事もなかったんだけど、どうでもいい話をしてゆっくりしてから家に帰った。


 お風呂にゆっくり浸かり、母が用意してくれた夕食を食べる。練習の後だし、母の手作りのごはんはとてもおいしいからよく食べすぎちゃう。満腹感に満たされてから自室に移動する。パソコンをつけてAssault of the Armed Forcesを起動する。昨日のうちにクラブのメンバーが増えて大会に出場できるようになったことを思い出して、つい顔がにやけてしまう。


 ゲームのロビーに入るとクラブのメンバーはまだ集まっていないようだった。新しく入った水憑きさんとヲタコンさんはいるようだが、神風☆特攻さんとsweeperさんが来てないようだ。他の人が来ないと練習を始められないから、一人でAIMの調整するため、適当なチームデスマッチのサーバーに入ってTPG-1を装備してからゲームを始める。


 私は遠くの敵まで一撃で倒せるからスナイパーライフルが好きだ。遠くにいても、どれほど距離が離れていても銃声を轟かせて届かせることができる。


 スコープの倍率を調整しながらスコープの中心に敵を捉えてから銃を撃つ。一人、また一人とスコープで捉え、撃ち抜いていく。ほとんどの敵を一撃で倒せるため、弾を撃った後のことを考えなくていい。稀に体力が残ることもあるが、ハンドガンに冷静に持ち替えて丁寧に撃てば簡単に倒せる。



 AIMの調整が終わり、ロビーに戻る。クラブのメンバーは全員集合しているみたいだった。


"練習はじめましょか"


 私の一言にみんなが賛同し、適当なサーバーに入った。


 今回のマップは遮蔽物が少なく、直線が多く奥まで見通せるつくりになっている。私が活躍できる数少ないマップのひとつだ。今回は三ラウンドの試合だから先に二勝した方が勝つというとても短い時間で決まるゲームだ。



 ロードが終わり試合が始まる。始めは守りのようだ。それと同時に私は走り出した。敵の動きを予想して通るであろう道に待機する。スコープを覗き敵が出てくるまでじっと待機する。





 ―――敵が壁から顔を出した瞬間、私はマウスをクリックし、一度だけ銃声を鳴らした。撃ちだした弾は敵に着弾し、反動で遠くに飛ばされて地に伏せた。キルを確認してすぐさま場所を変える。少なくとも相手はこちらの位置を確認している。同じ立ち位置で道を見続けていると簡単に倒されてしまうので、後ろに引きながら、さらに敵の動きに注意を向けながら移動する。


 引きながら移動している最中に敵が壁から飛び出し、乾いた音が一つ響く。それと同時に私のキャラの横を通りぬけていくような鋭い音が駆け抜けた。敵にもスナイパーがいるようだ。銃声を聞いて敵が来ていることを察知し、クラブのメンバーが守りを固める。私は場所を変え、地を駆けて大胆に道の真ん中に立つ。敵が動きを見せた瞬間に弾を撃てるように、マウスに力を込める。


 ―――同じ場所から敵が現れた。敵よりも鋭く反応し、敵より早く画面の中央に敵を収める。



 重く金属的な爆裂音が二つ続けて鳴り渡る。私のキャラは倒れることはなかった。しかし、風に吹かれれば消えそうなほどの体力しか残っていない。敵のキャラにはクリーンヒットし、一撃で沈めることができた。


 残った敵の統率はとれてなく、バラバラで飛び出して来た。私達は冷静にそれを処理した。一人は出会い頭にショットガンで撃ち抜かれ、一人は直線を進んだ先にいた水憑き君がけたたましい破裂音をその手に持っているアサルトライフルで打ち抜かれた。最後の一人を追い詰めるべく、じりじりと詰めて敵を包囲した。間合いを詰め、確実に倒せる距離に近づいてから敵を挟み込んで処理した。


 一ラウンドを勝ち取ることができた。勝利まで近づいたことを確信し顔がほころぶ。このメンバーなら大会もいい所まで登ることができるんじゃないかと、思う余裕までできた。



 二ラウンド目が始まる。さっきとは立ち回りを変え、あまり攻め込まない位置で敵の動向を探った。



 スコープを覗いたまま、音を聞きながら待機する。風船の割れるような音が風に乗って聞こえてくる。読みを外したようだ。すぐさま援護に向かい、敵の見える位置に移動する。前線についたときには、メンバーが何人かやられた後で、人数的にはとても不利だ。今は敵を減らさなければならない。


 設置ポイントを守りながらスコープを覗く。通路から敵が飛びぬけてきた。丁寧に撃ち抜き、確実に敵を倒す。同じ場所を別の位置から確認するが、敵が動きを見せなくなった。少し、また少しと足音を消して通路から顔を出す。敵がいないことを確認したと同時に、C4爆弾が設置され、カウントが始まった。別のポイントに移動していたのに気づかず、同じ場所を見ていたと思うと、少し悔しくなる。私はまっすぐ設置ポイントに向かったが、生きていたsweeperさんとヲタコンさんは少し遠回りして、裏を取りに行った。


 C4設置ポイントの見える直線の道に出る。敵を確認できた。


 ―――スコープを展開し、敵に向かって激しい爆音が唸りを上げる。敵をスコープの中心に捉えたはずなのに敵の顔の横を抜けていく。


 スナイパーライフルの最大の特徴は高い威力だが、欠点は次の弾を撃てるようになるまでにボルトを操作してからになった薬莢を排出し、装填しなければならない。この時間があれば、アサルトライフルであろうと、サブマシンガンであろうと、簡単に近づき倒す時間が十分取れる。



敵もこちらの存在に気づき、発砲を始める。今の弾を外したことにより、さらに動揺してしまった。壁に隠れようと走り出す。敵は後ろを追ってきて騒々しい音を立てながら銃を撃つ。またしても体力が残らない状態になってしまった。蹴られただけでやられてしまいそうだ。


 次弾を装填が完了し、壁から、半身だけ出し、敵に一撃をお見舞いする。追ってきた一人を上手く処理できたようだ。爆発まであまり時間を無駄にできない。C4爆弾に向かって駆け出す。どうやら生き残っているのはこっちも、相手も一人のようだ。


 クリアリングを行いつつ、最短でC4爆弾に向かう。見通しの良い道で敵を確認し、先程と同じようにスコープを展開する。


 ―――こちらの銃から音が発することなく、私のキャラがやられてしまった。これにより、どちらも一ラウンドをとることに成功している。次のラウンドで勝負が決まる。


 ここから攻守が交代し、私達が攻撃側に立つ。このラウンドを制するためには先にどちらが人数を減らせるかがカギになりそうだ。


 団体で行動を始める。足の速い二人が前に詰めつつ、その後ろから三人でついていき、敵が遠くにいないか、サブマシンガンで対応できない距離にいないかを見ながら少しずつ進む。


 私達の足音が聞こえたのか、突如敵が正面に現れた。先頭を走っている二人で倒せていたが、今後の戦いに響くほど体力を消費してしまった。


 私を除いた他のメンバーは設置ポイントにゆっくりと入っていき、私は設置ポイントに近づく敵を倒せるように、通路を見張った。



 C4爆弾が起動する。勝利へのカウントダウンが始まった。これを守りきれば私達の勝ちだ。敵が足音を立ててこちらに近づいてくる。残りは四人いるはず。


 ―――壁から一人が頭を出す。すかさずスコープに合わせ、地に響くほどの爆裂音とともに一人目を倒す。倒れたと同時に二人目が近づいてきた。


"敵が来るぞ"


 ボイスチャットで敵が近づいてきていることを報告しながら前線から下がる。別の通路からも来ているらしく敵人に対し、こちらも味方が三人しか残っていない。


 十秒、あと十秒持ちこたえられればこの試合に勝てる。最後の十秒に敵は一気にたたみかけてくる。スコープを覗いているとき、目の前に敵が飛び出してきた。


 ―――咄嗟の反応でマウスを動かした私は偶然目の前に現れた敵を倒すことができた。これで戦況は楽になった。時間がもう残り少ない。解除が間に合う時間ではないため、爆発に巻き込まれないように戦線を離脱した。その後すぐに、ガラスを破り、地面から振動が伝わるほど大きな爆発をし、私達の勝利が告げられた。




 大会の練習をはじめた初日にいい勝ち方をできた。チャットでは何人かが喜びを語っている。


"ホントギリギリでしたね"


"負けたかと思ったわ"


 ぎりぎりの勝負が続いたからか、今の一戦だけでとても疲れがたまってしまった。


 この後も何度か練習は続いたが、接戦になることが少なく、どれも、一方的な試合展開だった。初日の総合成績は五勝三敗と勝ち越しで終わることができた。


 いつものように練習終わりのチャットが始まる。


"今日はなかなか良かったな"


"でもまだ上のクラブと当たったことないですよね"


"これよりも強いところがあるのか"


 流れるチャットを目で追っていると今のところの優勝候補の名前が挙がった。どうやら「卍旭神卍」というクラブらしい。ただ、目で追っているだけでももうつらいので、今日はもう解散するように促した。それぞれがお疲れとあいさつを残し、ロビーから消えていく。明日の練習の話をしてなかったけどたぶん集まるだろう。明日の陸上部の練習に備え、軽くストレッチをする。



 眠気にピークが来たのだろう。ストレッチもできないくらい眠たくなってしまったため、布団に入ることにした。今日掴んだ勝利への執念を離さないようにその手を強く握りながら夢の中へと沈んでいった。

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