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掃討戦

「敵がいたぞ」


 僕はゲーム内のラジオチャットを巧みに使い、敵の発見を味方に知らせる。足音を消し近くの壁に身を潜めた。ヘッドホンから流れる敵の足音を聞き分け、近くを通る音を確認した。その直後、壁から飛び出し敵を画面の中心に捉えてマウスをクリックした。


 ―――すさまじい銃声を鳴らした後、敵は地に伏せた。


「敵を倒した!」


 ゲーム内の僕のキャラクターが叫びをあげ、それと同時に敵の全滅が確定した。チームの勝利が決まり、僕の戦績に勝利が刻まれた。この世界では毎日のように戦争が行われている。顔を見たこともない人たちと戦線を共にするだろう。現実世界の友達と敵同士となり戦うこともあるだろう。それはこの世界では日常茶飯事である。このゲーム、「Assault of the Armed Forces」のなかでは。


 僕は時間を確認し、ゲームをログアウトして明日の学校の準備に移った。学校の準備を終え、床に就く。明日からの学校を憂鬱に思いながら夜は更けていくのであった。



4月10日(金)


 目覚ましの音で目を覚ます。去年から起こしてくれる親と離れて暮らしているため、一人で起きることが容易になった。軽い朝食を済ませ、最後にもう一度持ち物を確認する。


「行ってきます」


 親元を離れた今でも、挨拶は忘れない。家を出て最寄の駅まで15分ほど歩く。駅に向かっている最中にいつもあいつがやってくる。


「おはよう。純くん」


 僕の通う高校での初めての女友達、平中 歩だ。


「おはよう」


 僕もいつも通り挨拶を返す。こいつとは去年同じクラスで家も近かった事から必然的に仲良くなった。1年生の後半から一緒に登校する機会が増えたのか、付き合っているのではないかとの噂も出回っているようだ。生憎、僕は高校生活を静かに暮らしたいから付き合うようなことはしない。


「・・・名前くらい呼び返してくれてもいいのに・・・」


 聞こえないふり聞こえないふり。話しているうちに駅に到着し、気が付けば学校にいた。今日は始業式のためクラス分けの話で盛り上がっている。


「今年も同じクラスだといいね」


 歩の願いは届かず、僕と歩は別のクラスになった。クラスを確認した後、教室に入り自分の席に座る。


「やあ、純じゃないか」


 聞きたくない声を聴いてしまった。こいつと同じクラスだったのか。関わりたくない一心で聞こえないふりをする。しかし奴は俺の隣をすでに陣取っていた。


「聞こえてないのか。おーい」


「聞こえてるよ、晶」


 こいつ、荻原 晶は女受けがよく、コロコロと彼女を変える。そのたびに僕に報告しては自慢するを去年1年間乗り切ったのに、今年もこいつの話を聞かなければならないのか。そう思うと僕は今年1年も大変な年になる事を確信した。


 授業が終わり、一人で帰路に就く。歩も晶も自分のコミュニティが存在しているので、邪魔しないように一人で帰る。考え事をしている間に気づけば自宅前だった。


「ただいま」


 誰もいるはずのない部屋に声をかけ、いつも通りパソコンの電源に手を伸ばした。慣れたマウス捌きでAssault of the Armed Forcesを起動しようとした矢先に、ホームページで気になる情報を発見した。詳細を知るべく、記事をクリックした。


 ―――大会が開催されるらしい。オンラインの大会なので、誰でも参加ができるようだ。唯一条件があるとするならば、クラブに所属しそのクラブのメンバーで戦闘を行わなければならないことだ。僕はクラブに所属していないため、大会には出場できない。


 僕には無関係な話だったから、内容から目を離しゲームを起動した。


 このゲームはFPSゲームであり、様々なゲームモードの中からやりたいものを選びプレイできる。有名なモードを挙げるならば、マップ内で複数の敵と銃撃戦を繰り広げ、一定数キルを重ねたチームの勝つチームデスマッチ。特定のエリアを占領し、時間経過で加点され上限に達したチームの勝つドミネーション。二つある爆破地点のうち片方にC4爆弾を仕掛け爆発させる攻撃側、彼らの爆破を防ぐ防衛側に分かれ、一定ラウンド獲得したチームの勝つデモリッション。このモードでは一度死ぬと次のラウンドまで復活できない。有名な所はこれくらいだが、ほかにもゲームモードはあるがマイナーなものが多い。


 また、持っていく武器によって戦い方も変わってくる。たとえばサブマシンガンやショットガン等、移動が比較的早い武器では突撃することに秀でている。アサルトライフルであれば近距離でも対応できるほか、中距離、長距離まで戦うこともできる。スナイパーライフルだと超遠距離でしか戦えないが、一撃で敵を倒すことができる。ただし、戦闘に持って行けるプリセットは一つしかないため、試合中には武器を拾う以外装備を変えられない。


 最後に、このゲームは階級が存在し戦闘経験を積み重ねることによって階級が上昇する。始めたばかりでは皆一等兵だが、経験を積むと上等兵、兵長、軍曹、曹長、少~大尉、少~大佐、少~大将と上がっていく。この階級は経験なのであまり重要ではないが、FPSゲームでよくあるキル数とデス数のレート、キルレートを含めて素人か玄人かを判断している。


 ―――適当なサーバーを選び、僕の愛銃、FN SCARが装備されていることを確認し戦場に赴いた。今回は五対五のデモリッションだ。マップのロードがはじまり、緊張感が増していく。


 全員のロードが終わると同時にゲームが始まった。初めは攻撃側からだ。味方がバラバラに移動しながら爆破地点を目指す。戦いがマップの至る所で行われている。足音を消したり、時には大胆に走るなどして敵を追い詰めていく。


 ―――遠くの窓から敵影を確認した。スナイパーのようだ。迂闊に頭を出すと撃たれかねないので、頭を隠しつつ裏を取るように歩き出す。上手く裏を取り、窓を覗いて見える位置にいる味方と銃撃戦を繰り広げている。僕は味方を助けるべく、すぐさまスナイパーを倒した。


「エネミーダウン!」

「助かった!」


 味方からのラジオチャットを聞きながら、爆破地点を確保した。C4爆弾を設置し、爆発するまで解除されないように守らなければならない。味方は三人残っているのに対し、敵は二人と人数に関しては上回っている。


 ―――銃声が一度響いた直後、後ろを見ていた味方がやられた。


"後ろから二人来ている"


 チャットを使って敵の情報を送ってくれた。この人を信じて、僕と残されたもう一人は同じ方向に銃口を向けている。


 敵に許された時間はもうわずかしか残されていない。出てくるならここだと思い、マウスを握る右手に力が篭る。




 正面の通路から一人の敵が体を出した。すぐさま敵を画面の中央で捉え、銃を撃ち始める。




 ―――長い間響いた銃声が止み、敵の撃破を確認。しかし、まだ気を抜けない。この近くに一人潜んでいる。


 今見ていた通路を味方に任せて、すぐさまC4爆弾のそばに駆け寄る。


 ―――僕のこの動きを読んでいたかのように、重たい銃声が一度響いた。直後に僕のキャラが倒れ、やられてしまった。この動きのおかげで、C4爆弾を解除するのに十分な時間がなく爆破に成功した。個人の戦闘としては負けてしまったが、このラウンドは勝ち取ることができた。


 その後もラウンドを僅差で勝ち取り続け、結果的に勝利を飾ることができた。今日は調子が良かったのか、そのあとのゲームも着々と勝ち続けた。


 時が過ぎ、深夜になるにつれてプレイヤーのレベルが上昇していく。階級でいうなら少佐以上の経験を積んだ猛者たちだ。この時間帯では、僕は足手まといに近いので最後に一度だけやってから終わろうと思った。


 ―――やはり今日は調子がいい。サーバーのほとんどが中佐以上なのに対して、上手くキルをとり戦闘に貢献できている。



 そう思った矢先、壁から飛び出したときに前方少し離れたところにスナイパーがいた。僕は咄嗟にその場にしゃがむ。



 ―――重たい銃声が響いたが、僕のキャラは死んでいなかった。


 すぐさま立ち上がり敵スナイパーに向けて銃撃を始める。



 敵のスナイパーはボルトアクション式だったのか、次の弾がすぐに出てこなくキルをとることができた。この人が最後の一人だったらしく、このラウンドに勝利を収めた。


 戦闘終了後、チャットが僕のもとに送られてきた。最後に倒したPeace☆Walkerというひとのようだ。


"そんなに強いのになんでクラブに入ってないの?"


"コミュニケーションが苦手なので、人とあまり関わらないようにしてるだけです"


"もったいないからさ、うちのクラブはいらない?"


 強引な勧誘だった。とても強引に話を進められ、断ることができなかった。


"まったりプレーしているけど、今回の大会は出場するし、優勝目指してるから"


 クラブ名は「屯田兵団」と少し気が抜けそうな名前だ。クラブメンバーはとても少なく、4人しかいない。この人数では大会に参加することができず、募集もかけていたらしい。しかし、メンバー一人ひとりの階級が高い。一番低い人でも大尉なのに対し、僕はそれより低い少尉だ。最低のラインを下げてしまった。


 ボイスチャットを使わないクラブらしく、チャットがとても賑わっている。これに関しては僕はとてもうれしく思った。赤の他人と話すことが苦手なので、もしボイスチャットが使われていたならば加入を辞退させてもらうだろう。


"とりあえず体験参加ということで一戦やってみましょうか。"


 リーダーのPeace☆Walkerさんの一声で皆が準備を始め、いつでも対戦できるような体勢になっていた。サーバーに入り、相手が決まるまで待つ。僕は緊張している中、ほかのクラブメンバーは落ち着いてチャットを楽しんでいるようだ。


 すぐに相手が決まり、マップも設定された。ロードが始まり、緊張感がさらに増す。今回も五対五のデモリッションで、僕とリーダーさんを含むメンバーで構成された。リーダーはスナイパーのようだが、他の三人のうち、二人はサブマシンガンとショットガンを装備している。サブマシンガンの人は「神風☆特攻」という名前で、ショットガンの人は「sweeper」という名前だ。残りの一人はサプレッサー付きのアサルトライフルで、「ヲタコン」とシンプルな名前だった。


 三人とも、ゲームが始まる前から慌ただしく動いており、いかにも突撃しますと言っているようだ。


 ―――ゲームが始まる。即座に三人は動きだし、僕が思っていたように一直線に敵陣を目指し走り始める。一人はまっすぐ、一人は右から、残りの一人は左からと連携の取れていない動きだった。案の定、早いうちに三人とも死んでしまいラウンドをとられてしまった。このまま負け続けるのは僕が気に食わないので、ここで僕から提案した。


"攻めるポイントを決めてから突撃しませんか?"


 新参者の僕が提案したにも関わらず、この提案に皆は賛成し、固まりつつ、なおかつ突撃して爆破地点を目指した。サブマシンガンで戦えない遠距離を僕やPeace☆Walkerさんでカバーし、あっという間に敵を全滅に追い込んだ。そのあとのラウンドも着実にとることができた。攻守が交代し、僕たちが防衛側となり、爆破地点を守ることになった。防衛側になっても、攻めの心を忘れず敵を圧倒して勝利を収めた。


 体験参加の結果が良かったのか、皆が僕の参加に同意してくれたため、すんなりクラブに入ることができた。大会が近いので、大会の話題でチャットが盛り上がっている。強いクラブとか全く知らないため、流れに乗れず口を開けずにいた。どうやら、「卍旭神卍」というクラブが優勝候補らしく、そこに勝たなければならないらしい。


 気が付けばもう日付が変わっていて、眠たくなってきた。しかし、チャットは衰えず、ずっと続いている。今日はこれでと言い出す機会が見つからず、延々と日常の話を聞かされていた。Peace☆Walkerさんが


"今日はこれでお開きにしましょ"


 この一言で、チャットも静かになり、ようやく眠りにつけると思った。


"明日は土曜日だから夜いつもより早い時間からやりましょ"


 明日のこの時間も大会の練習をすることを約束し、今日のところは解散となった。大会に出ることができる喜びと知らぬ人とともにゲームをする緊張感を抱えながら、僕は布団に入り、まぶたを閉じた。

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