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言い渡される宣告。


 新学期、四月。

 四季のある日本。今は春。桜が舞い散る出会いと別れの季節だ。

 ハイライン学園では“魔法”を教えていた。

「はい、大鳥燈時(おおとりとうじ)君、魔法の原点と概要を説明しなさい」

 いきなり俺か……。

「魔法の原点はとある異世界の魔法使いが転移魔法の失敗によりこの世界、地球へとやってきて人々にその神秘を広めたことが原点となっています。それ以来魔法は日本の標準となり、鎖国以降アメリカを始めとした諸外国へ広まって、今や世界の標準となった技術です」

 渋々と、淡々とこの長ったらしく教科書に書かれた文章を読んでいく。

「魔法は大気中に存在する魔法素、つまりマナを己の言霊、呪印等で加工し、何らかの現象を起こす奇跡のことです」

「はい、新年度早々淡々とした回答ありがとう。正解です」

 そう皮肉交じりに言うと担任教師は俺から目を離し、クラス全体に視界を向ける。

「と言うわけで皆さんは今日までずっと魔法を学んできました。ですがそれはまだ訓練段階の魔法です。魔法を生き物に向けて放ったことがある人は少ないと思います」

 もったいぶるように喋る教師。

「今日から五回生。十年という修学時間も半分まで来ました。来たる敵との戦いに向けて、これからは生き物、それも人間を相手に魔法を使う訓練に入ります」

 実技見学室に詰められた生徒たちはどよめく。期待によるものや恐怖によるもの、人様々だ。

 どちらかというと俺は前者。血の滲む思いで修行したんだ。それくらい期待したっていいだろう?

「というわけでこれより第一回対人模擬戦闘試験を始める。抽選により対戦順はもう決まっている。まずは羽里穂歌(はねりほのか)と大鳥燈時」

 またいきなり俺か……。

 俺は対戦相手である羽里の姿を探す。青い髪の少女は見学室の片隅のほうでうろたえてる様子だった。

「とーじっ、手加減してあげなよ?」

「晶子……」

 猫のように擦り寄ってきたのは鈴子晶子(すずねしょうこ)。この学校に入ってから知り合った友人だ。

 なんでも自分の名前に“子”の字が二つも付いていることが気に食わず、フルネームで呼ばれるのを嫌っているとか。

「手加減、ね。必要ないだろ」

 羽里は俺と似たような青い髪の持ち主で、俺と同じく氷結魔法を主に使う女生徒だ。

 魔法の実力は一長一短といったところ。それも、極端に。

 自分の得意な属性は容易く使いこなすのだがそれ以外の属性はからっきしダメ。

「だから本気でやり合えばなかなか苦戦する相手だと思う」

「詳しいね。あの子のこと好きなの?」

 茶化すように晶子は言う。

「よく同じ授業に出るんだよ。あいつ、俺と同じような授業取ってるし」

 ハイライン学園の実技授業は選択授業だ。自分の得意な属性を選択して、その特化した内容を学ぶという体制をとっている。

 現在日本で使われている属性は火炎、氷結、水流、雷撃、疾風、大地、神聖、暗黒、斬撃、打撃、破壊、治療、変化、召喚の十四種類。外国では晴や曇、雨などと言った天候を属性にしているところもあるらしい。

 この学校ではその十四種から出来る限りの授業に出てその魔法を修めるという仕組みになっている。

 俺の取っている授業は主に氷、斬、召、壊。

 羽里は氷、斬、壊、水。従って召喚以外の授業では顔を合わせることになっている。

「ふーん、やっぱり好きなんだ」

「何でだ」

「じゃあ穂歌の方があんたのこと好きなのかもね」

「……お前の頭にはそれしかないのか」

 ニヤニヤした表情が頭に来る。

「んー、他にもあるよ。お金のこととか、銭のこととか、マネーのこととか」

 あーそうだった。こいつはクラスで一番の守銭奴だった。

「とにかく頑張んなさいよ。応援してるから。あたしはあんたが勝つって信じてるから」

「晶子……幾らだ」

「五百円」

「結局金か!」

 この女……ことあるごとに俺を賭けの対象にしやがって……。

「大鳥、騒いでないで早く来なさい」


「実技場内にはみんな知ってるように、一定量の被害を受けると自動的に回復する結界魔法を敷いています。なのでお互い殺す気で挑むように。では、はじめ」

「よ、よろしくおねがいします!」

 初の実戦と言うことで余程緊張しているのか、羽里の声が裏返っている。

「ああ、よろしく」

 俺は適当に挨拶するとすぐ臨戦体勢に入った。

魔法式入力準備(セット)属性氷結(エレメンタルアイス)完了(コンプリート)

 魔法を使う手順は、まず使う属性の宣言。熟練者ともなるとこの工程は省けるとのこと。実際俺も省けるのだが、ある事情で省かずに魔法を使う。

「撫でる手は死者に。手向ける花は青い薔薇」

 続いて自分の中にある魔力、“オド”を触媒に込めて詠唱する。その魔法に合ったイメージを言霊に乗せて宣言する。

 触媒とは魔法を現界させるための器具。俺の場合は手の甲や、いろいろな所に彫られた刺青がそうだ

「抱き留める手は死者に。捧げる供物は命の灯火」

 無機質な実技場の中は冷たい空気に包まれる。そして周りのマナが放つ光は冷たい青。

「看取る女帝は剣を抜く。復讐を果たすはその蒼刃!」

 全身の刺青が青く光る。

 最終工程は術名の宣言。宣言を受けて初めて魔法は奇跡として力を発揮するのだ。

「――女帝の剣舞!」

 それは正に、ブリザード。

 吹き荒ぶ風と雪。その中には剣の様な氷柱が混じり、羽里に向かって流れていく。

 当の羽里は属性の宣言すらしていない。

 もらった。勝った。

 そう確信したはずだった。

「――シールドウォール=青の壁」

「なっ――」

 無宣言無詠唱で!?

 防壁魔法は手早く発動させないといけない。だから詠唱は短くするのが定石。

 そう、短く。少しでも詠唱を入れなければならない。

 それなのに、羽里は――。

 ――パキン。

「はうっ!」

 どさっと倒れこむ羽里。

「………………」

 立ち尽くす俺。

 何、今の……。

「先生、これ、俺の勝ちで良いんですか?」

 今の状況を言うとこうだ。

 防壁魔法を発動させた羽里だったが、その壁は氷柱が一つ着弾した時崩れ去り、羽里の身体に刺さってしまった。以上。

「まあ……勝ちは勝ちだろう。勝者大鳥」

 なんだか釈然としない。クラスの皆もなんだが煮え切らない感じだった。

「大変だな、大鳥も」

「何がですか」

 先生の心底哀れむような目が痛い。


「お前は羽里とパートナーとしてこのあとの学校生活を過ごす事になるのだからな」

 

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